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想い

神官と酒

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エルゲンのその表情に、セレーネは微苦笑する。彼の考えていることがよく分かるからだ。

「大丈夫よ。確かにレーヌ様中心の祭典だから、いい気持ちはしないけど。お花は好きだもの」


エルゲンはセレーネの性格をよく理解している。セレーネは自分がその場の中心でなければ面白くない。とそう思うであろうことも予想出来るから、このように心配してくれているのだ。


「……祭典の儀式がすんだら、すぐにあなたの元へ行きますよ。共に街中に飾られた花を見ましょうか」
「うん。でも大丈夫かしら……。レーヌ様は初めての祭典だし、きっとあなたに傍にいて欲しいと思っているでしょうね」
「それは大丈夫ですよ。確かに私は神官長としての責務がありますから、儀式の時には滞りなく事を進めることに心血を注がなければならないですが、その後は他の神官達に任せることになっています。去年もそうだったでしょう?」

そういえば、去年の花の祭典の時も、始まりの儀式を終えたエルゲンは、すぐにセレーネの元へ戻って、一緒に街を散策してくれた。

「そうだったわね」
「それに私がいると、皆祭典を本当の意味で楽しめないのですよ」
「?……どういうこと?」
「私はこのような立場ですから、神官がもし酒を飲んでいるところを目撃してしまった場合、渋い顔をしなければならない」
「……あら?神官はお酒を飲んじゃ駄目なのでしょう?」
「ええ、基本的には。ただ、こういった祭典がある時は別です。神官にも酒を飲むことを許されるのですよ」

へえ、そうなのか。とセレーネは小さく頷く。

「神官は女神の名の元に清廉潔白でなければなりませんが、神官だって人間です。ずーっとそういられるほど、人間という生き物は強くはないのです。ですから、私の気持ちとしましては、祭典の日に彼らが心置きなく酒を飲めるようにして差し上げたい。ですが立場上、普段禁じられている飲酒に対して良い顔をするわけにはいかない。ですから私は彼らが心置きなく酒を飲めるように、儀式が終了したらすぐその場を離れるのです」
「で、でも。神官達は普段お酒を飲まないのでしょう?そんな人達だけを残してきてもいいの?」
「ああ、それは大丈夫ですよ。監視役を置いていきますから」
「監視役?」
「ええ。神官長という立場にあると何かと職務が多いものですから、常日頃それらの職務を手伝ってくれる側近の神官達のことです。彼らは生真面目で酒を嗜むことはありません。が、頭が固いわけでもないし、私のような立場でもないので、酒を飲みたいと考えている神官達が心から楽しめなくなるなんてことはないでしょう」

そう言って、エルゲンは笑った。
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