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愛を乞う

ミルクの香り

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「なら、大丈夫よ」

微笑むと、エルゲンは感極まった様子で、セレーネの柔く白い小さな手を握った。

「……無理強いしたいわけじゃないの。あなたの心の準備が出来たらでいいわ」
「……はい」

エルゲンの表情が和らいだ。それを見届けて、セレーネは彼の白い頬を柔い手で包み込み、ほのかに赤らんでいる目元をそっと撫でる。

「ふふ、実はね。幾分前の話だけど、あなたにもっと触れて欲しくて、アマンダに香水を頼んだの」
「香水?」
「そう。あなたが私に触れたくなるようにって……そういえば、あなたの好きな香りを聞いてくるように言われていたんだったわ。すっかり忘れてた」
「私の好きな香りですか?」
「うん、もう必要ないかもしれないけど。興味があるの。あなたの好きな香りはなあに?」
「……あまり考えたことはありませんが」
「ないの?」
「そうですね。香水の類で好きな香りはありませんが、あなたの纏うミルクのような甘い香りは好きですよ」
「それ、子供っぽいって言ってるの?」
「いいえ」

エルゲンは苦笑を零した。

「ただ、あなた自身の纏う香りが好きだと、そう言いたいのですよ」
「じゃあ、香水はいらないかしら」
「ええ。あなたの香りが消えてしまうのは、寂しいですから」

セレーネの手を取り、エルゲンは口づけを落とす。

(……エルゲンと離れようなんて、どうしてそんなこと考えられたのかしら)

こうしてエルゲンに甘やかされていると、そう思えてしまう。エルゲンが幸せになってくれるのなら、自分に出来ることをしよう。エルゲンがレーヌを想っているのなら、邪魔をしないようにしよう。そう考えていたのに。

そもそもエルゲンはレーヌを想っていなかった。それどころか、セレーネが「神官長のエルゲン」と認識するそれ以上前から、彼はセレーネのことを想ってくれていたのだ。

分かってしまった以上は、エルゲンと離れたいなどとは思えない。

ただ、セレーネは罪悪感を感じていた。あの時のレーヌの表情を思い出すからだ。「レーヌ様は本当にエルゲンのことを慕ってくださっているのですね」と。そう告げた時のレーヌの表情。あれは、何かに気づいたような顔だった。あの時はレーヌがエルゲンへの想いを自覚したのかと考えていたのだが、それが事実なのかどうかは定かではない。

もし事実であれば、セレーネはレーヌに酷なことをしてしまったことになる。

「どうしました、セレーネ」

表情を曇らせるセレーネに、エルゲンは優しく問いかけた。これは自分1人で抱えられる問題ではない。セレーネは咄嗟にそう判断し、レーヌのことをエルゲンに話すことにした。
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