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神殿

自覚

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「え……」

呆然とするレーヌに、セレーネは苦笑を零した。やっぱり、気づいていなかったようだ。エルゲンとレーヌは他人のことばかり考えて、自分のことを後回しにしてしまう癖があるらしい。

(……ほんと、お似合いね)

セレーネは心の中で独り言ちた。ズキズキと痛む心を必死に抑えたい衝動にかられる。幼い頃から、共に育ったという2人。幼い頃はただの友人だった。けれど大人になって再会してみれば、互いに魅力的になっていて、その心に恋の炎が燃え盛る。というのはありがちな話だ。けれど決定的に違うのは、当の本人達が自らの気持ちに気づいていないこと。

(……このまま黙っていたら、よかったのかしら)

そんな考えがふと頭に過り、セレーネは全力で頭を振る。

(駄目よ、こんなこと考えたら!2人がちゃんと幸せになるようにするって決めたんだもの)

自分で決めたことなんだから、ちゃんと最後までやりきる。エルゲンにちゃんと恩を返す。セレーネは何度も自分に言い聞かせた。

レーヌはセレーネに指摘されてやっと気づいたのか、衝撃を受けたかのように固まったままでいる。やがてセレーネが自らの表情を伺っていることを思い出し、ほんの少し強張った微笑みを浮かべて「も、もちろん。エルゲ……神官長様のことは『兄のような』存在として慕っております」と頷いた。

(兄のような……本当にそうかしら?)

違うだろう。レーヌは間違いなくエルゲンを男として慕っている。というか、あんなにかっこよく穏やかで優しい人と幼い頃から育って、再会を果たし、聖女に選ばれて……好きにならない方が不思議だ。

(レーヌ様はきっと今、想いを自覚したんだわ。でも……エルゲンは)

頭の上でぽわぽわと春の陽だまりのように笑うエルゲンの顔が浮かぶ。なかなかに手強いそう……というか、手強い。よくも悪くもエルゲンは優しいし、なにより穏やかでどうしたって人のことばかりを考えてしまう。

(……それにこのままじゃ、私が教会にずっと通うことになってしまうし)

2人の時間を作れるように、何か自分に手配できることはないかと考えるために教会を尋ねていたというのに。今ではその目的は子供達と遊ぶことになってしまっている。子供達と遊ぶことは楽しいし、出来ればこのまま遊んでいたいと思うが、そうもいかない。セレーネがしょっちゅう教会に来てしまっては、2人だって落ち着かないだろう。

(こうなったら……もう、この手段しかないんだわ)

セレーネはぎゅっと両手を握りしめながら、困惑顔を浮かべるレーヌに(任せてくださいまし)と力強く頷いてみせた。
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