上 下
23 / 73
奮闘

聞きたいこと

しおりを挟む
セレーネは、屋敷中を走り回ってエルゲンを探した。

いつもより早く目覚めたセレーネに驚いたのか、すれ違う使用人達は慌てた様子で「おはようございます奥様」と声を掛けてくる。

「ねえ、エルゲンはどこ?」
「旦那様でしたら、奥様をお起こしに今しがた執務室をお出になられたはずですが」

どうやら行き違ってしまったらしい。

セレーネが急いで寝室へ戻ると、そこには寝台の前に立つエルゲンがいた。

(……エルゲン?)

エルゲンのその後ろ姿から、異様な雰囲気を感じ取ったセレーネは一旦足を止める。

「セレーネ」

振り返ったエルゲンの浮かべる表情は、いつもと変わらない春の陽だまりのような笑みだった。セレーネはほっと息を吐く。 

「……あぁ、よかった。どこへ行ったのかと思いましたよ」
「……早く目が覚めたからあなたを探していたのよ」

セレーネが両手をもじもじとさせていると、エルゲンはゆっくりと歩き近づいて、セレーネの華奢な身体を抱き上げ寝台へ腰掛ける。

「……私のお姫様は一体何を思いついて私を探していたのですか?」
「え、な、なんで分かるの?」
「さあ、なんででしょう」

にっこりと微笑むエルゲンは、それ以上何か答える気はないらしい。セレーネはぎゅぅとエルゲンのまっさらな服の襟元を掴んで、懇願するようにエルゲンを凝視した。

「……ちょっと知り合いにお会いしたくて。神殿で出会った方なんだけど」
「昨日は神殿に?」
「うん。あなたがいるんじゃないかと思って入ってみたけど、あなたは今はいないって教えてくれた方がいるの」
「なるほど。それで?」
「その方にお礼がいいたいの」
「では、私から伝えておきますが……」

それではだめなのだ。

お礼をいいたいのは確かだけど、聞きたいことがあるから行きたいのだ。昨日あれだけ心配を掛けた手前、こうして直接伝えたのだが、やっぱりエルゲンが出掛けてから、こっそりラーナと共に神殿に行った方が良かっただろうか。

「…いいの。お礼は直接自分で伝えるから。でも、その方がいつ神殿にいらっしゃるのか分からないから、聞いておいて欲しいわ。白髪が綺麗で、優しそうな老紳士様でいらしたの。……子ども達の様子をよく見に行くって仰っていたわ」
「あぁ……カーティス様ですね。彼は2日置きに神殿に来ては、孤児院の子ども達の様子を見て帰られる方です。昨日いらっしゃったということは、明日には会える可能性が高いですね」 
「そう!じゃあ、明日、神殿に行ってカーティス様にお会いしたらすぐに帰るわ。エルゲンは私のことなんて気にせずお仕事に集中していて頂戴ね」

エルゲンが近くにいては、カーティスから神殿のことや、エルゲンとレーヌのことをゆっくりと聞くことができないから。とは言わない。


エルゲンはほんの少し思案して、セレーネの額をそっと撫でた。
 

「今度は何を考えていらっしゃるのですか」
「な、何も考えてないわ」
「……あまり、危ないことは考えないように」
「何も考えてないって言ってるじゃないの」

セレーネが頬を膨らませると、エルゲンは困ったような顔をしてセレーネの膨らんだ頬を優しくつついた後、小さな身体を強く抱きしめた。

「エルゲン?……何て言ったの?」

首の裏側でエルゲンがボソリと何か呟いたような気がしたけれど、彼はセレーネの問いには答えなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

(完結)私が貴方から卒業する時

青空一夏
恋愛
私はペシオ公爵家のソレンヌ。ランディ・ヴァレリアン第2王子は私の婚約者だ。彼に幼い頃慰めてもらった思い出がある私はずっと恋をしていたわ。 だから、ランディ様に相応しくなれるよう努力してきたの。でもね、彼は・・・・・・ ※なんちゃって西洋風異世界。現代的な表現や機器、お料理などでてくる可能性あり。史実には全く基づいておりません。

無価値な私はいらないでしょう?

火野村志紀
恋愛
いっそのこと、手放してくださった方が楽でした。 だから、私から離れようと思うのです。

あなたの事は記憶に御座いません

cyaru
恋愛
この婚約に意味ってあるんだろうか。 ロペ公爵家のグラシアナはいつも考えていた。 婚約者の王太子クリスティアンは幼馴染のオルタ侯爵家の令嬢イメルダを側に侍らせどちらが婚約者なのかよく判らない状況。 そんなある日、グラシアナはイメルダのちょっとした悪戯で負傷してしまう。 グラシアナは「このチャンス!貰った!」と・・・記憶喪失を装い逃げ切りを図る事にした。 のだが…王太子クリスティアンの様子がおかしい。 目覚め、記憶がないグラシアナに「こうなったのも全て私の責任だ。君の生涯、どんな時も私が隣で君を支え、いかなる声にも盾になると誓う」なんて言い出す。 そりゃ、元をただせば貴方がちゃんとしないからですけどね?? 記憶喪失を貫き、距離を取って逃げ切りを図ろうとするのだが何故かクリスティアンが今までに見せた事のない態度で纏わりついてくるのだった・・・。 ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★ニャンの日present♡ 5月18日投稿開始、完結は5月22日22時22分 ★今回久しぶりの5日間という長丁場の為、ご理解お願いします(なんの?) ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

夫の浮気相手と一緒に暮らすなんて無理です!

火野村志紀
恋愛
トゥーラ侯爵家の当主と結婚して幸せな夫婦生活を送っていたリリティーヌ。 しかしそんな日々も夫のエリオットの浮気によって終わりを告げる。 浮気相手は平民のレナ。 エリオットはレナとは半年前から関係を持っていたらしく、それを知ったリリティーヌは即座に離婚を決める。 エリオットはリリティーヌを本気で愛していると言って拒否する。その真剣な表情に、心が揺らぎそうになるリリティーヌ。 ところが次の瞬間、エリオットから衝撃の発言が。 「レナをこの屋敷に住まわせたいと思うんだ。いいよね……?」 ば、馬鹿野郎!!

わたしの旦那様は幼なじみと結婚したいそうです。

和泉 凪紗
恋愛
 伯爵夫人のリディアは伯爵家に嫁いできて一年半、子供に恵まれず悩んでいた。ある日、リディアは夫のエリオットに子作りの中断を告げられる。離婚を切り出されたのかとショックを受けるリディアだったが、エリオットは三ヶ月中断するだけで離婚するつもりではないと言う。エリオットの仕事の都合上と悩んでいるリディアの体を休め、英気を養うためらしい。  三ヶ月後、リディアはエリオットとエリオットの幼なじみ夫婦であるヴィレム、エレインと別荘に訪れる。  久しぶりに夫とゆっくり過ごせると楽しみにしていたリディアはエリオットとエリオットの幼なじみ、エレインとの関係を知ってしまう。

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

処理中です...