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番外編 城南家の裏事情
第6話 城南家休憩室の裏事情
しおりを挟む都会に突然湧いたような森の中、そこに鎮座する中世風洋館、城南邸。有名レストランのそれと大差ない広々とした厨房の奥に、シェフやお手伝いさんたちの憩いの場、休憩室がある。
昼下がりの休憩時間、そこから聞こえてきた会話に耳を澄ませてみると……。
「三条さん、聞きました? 輝矢様が奥様達とお戻りになるって」
珈琲を飲みながら雑誌を読むシェフの能代。お菓子をつまんでお茶をするお手伝い二人の話に耳を傾けた。
「そうね。案外あっさり、祐矢様もお許しになったわよね」
「それは晄矢様と相模原様のことがあったからじゃないか? 前例があると、意外にすんなりいくものだよ」
と、思わず能代は会話に参加した。
「そうそう。最初はお二人のこと、胡散臭そうにみてたけど。いつからか、見る目が変わったように思ったわ」
「あー、それ、ゴルフコンペの後ですよ」
と、二宮。
「あら、あなた詳しいわね」
「そりゃ……まあ、旦那様のお世話してますから」
三条と能代が顔を合わす。二人(と立花)は、二宮が祐矢氏から『晄矢と相模原の関係を探れ』と命じられていたこと、とっくに気付いていた。
「でも、輝矢様ご家族が戻られることになって、相模原様はどうされるんでしょう」
「え? 別にこのままだろ? まあ、旦那様も追い出しはしないだろうし」
シェフの能代は涼のことを大層気に入っていた。城南家の人々が、自分の料理に満足しているのはわかっている。
だが、涼の食べっぷりは彼らとは別物。若いのもあるだろうが、本当に美味しそうに次々と平らげ、そしていつもわざわざ厨房までやってきてお礼を言ってくれるのだ。
「それが……相模原様は、輝矢様が戻ってらしたら、自分はここに用はないからアパートに戻るっておっしゃってて」
「な、マジか、それ。そんな……」
慌てる能代に、三条はふうと一つため息をついた。
「どういう状況でそう仰られたのかは知らないけれど……多分、そういうことになるのではと私は思ってたわ」
「どういうことですか?」
「晄矢様はともかく、相模原様は、最初からここに長居するつもりはなかったのよ。そうねえ、多分最初はアルバイト感覚だったんじゃないかな。
旦那様は財産目当てとか勘繰ってたけど、それは端から勘違い」
「で、でも……お二人の関係は……」
二宮はそこまで言って言い及ぶ。
「ああ、でもそれは俺も少し思ってた。来た当初は俺らだけじゃなく、晄矢様にも遠慮してたような……とても恋人同士には見えなかったな」
三条は勿体ぶるように、口角をあげ、ゆっくりとカップを口元に運んだ。
「でも、晄矢様のお気持ちは通じたようねえ。今ではどっちもぞっこんみたいで。うふふ」
それには能代も同感だ。思わず口角の片側を上げた。
「なら、このままここにいればいいじゃないですか。相模原様に損はないはずです。晄矢様が跡取りにならなくても、どっちにしろ共同経営者の一人なんですからっ」
不満そうに二宮が捲し立てる。
「相模原様にはそういう類の欲はないと思うのよね」
「ああ……そうだなあ。それはそうかも」
「そんな……なんかムカつきます」
二人が大人ぶってわかったふりをしているのも腹が立つ。二宮は唇を尖らしながらカップに2杯目の珈琲を注いだ。
「まあまあ、人はそれぞれだから。私は欲に正直な人間も嫌いじゃないわよ。けど、相模原様は、それよりも自分らしさを求めるような気がする」
「そっちも結構頑固だけどな」
「そうね。まるで立花さんみたいね。あの人ももっと上を目指せるのに裏方に徹して……」
「私がなんだって?」
三人が城南家の裏事情トークで盛り上がってるところに、立花が入って来た。さぼっているわけではないが、城南家、影のボスの登場に三人とも背筋が伸びた。
「いえっ! なんでも」
「休憩は構いませんが、玄関に輝矢様のお荷物が届いているので……」
「はいっ! ただいま参ります!」
三人は慌ててカップ等々を持ち、持ち場へと急いだ。立花は苦笑してその様子を見送る。
――――相模原様……。みなさんが思うように、遅かれ早かれここを出て行かれるでしょう。問題は、晄矢様がそれを受け入れられるかどうかなんですよね。
立花も彼らの後を追い部屋を出た。小さくため息を吐きながら。
※裏事情編はこちらで終了です。
明日、明後日で番外編その2をお送りしますのでもう少しお付き合いください!
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