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第67話 予期せぬ訪問者
しおりを挟む教授に話を聞いてから、複雑な思いは増すばかりとなってしまった。晄矢さんからメッセージが来ても、返信がしづらい。晄矢さんはどんな気持ちで僕の隣で寝ていたんだろう。
『君の許しもなしにそういうことはしない』
それはつまり、許されればするってことだったのか……。
ここに戻れば勉強に集中できるはずが、気が散って仕方がない。夜、ようやく涼しくなって始めたけど、全然進まないよ……。
――――やっぱり逃げたらあかん、だな。
なんとか机に向かおうとしたところでスマホが揺れた。晄矢さんだ。メッセージを着信した。
『例の国選の案件。ようやく証拠固めができた。証人も見つかったよ。公判に間に合って良かった』
例の国選。窃盗常習犯おじいさんの案件か。晄矢さんが国選弁護人に指名されて請け負ってる事件だ。僕も少しは手伝ったから教えてくれたのかな。やったことは大したことじゃない。判例と出所者のその後の動向を調べたくらいだ。
――――でも、晄矢さんはこの案件に熱心だったな。どうしてだろ。情状酌量の余地とかあったんだろうか。
それでも、晄矢さんは僕にこんなことを伝えるくらいだから、手ごたえを感じてるんだ。それにはなにか反応しなければ。
『お疲れ様。公判、望み通りの判決がでること祈ってます』
散々考えてこれ……。自分でも無味乾燥だと思う。ごめん、晄矢さん。今は無理。
それから大きな変化もなく世の中は盆休みに入った。ありがたいことに塾には盆休みがなく(受験生には盆も正月もないという心理的圧迫)、熱射病に陥ることはなかった。
盆明けの木曜日、塾から帰って来た僕は、アパートの戸口の前に佇む人影を目撃した。
――――晄矢さんっ!?
ハッとして足を止めた。そのわずかな床の揺れに気付いたのか影がこちらを見た。
「あ、輝矢さん……」
シルエットは晄矢さんより一回り小さかった。でも、やっぱり兄弟だな、似てるや。三兄妹は、そろってお母さん似なのか、長身、痩身でスタイルがいい。
父親の祐矢氏はそこまで背が高くなく、年齢のせいかぽっちゃりしてた。顔つきもハーフのお母さまとは全く違う男っぽい濃い顔だった。
「あ、良かった。涼君。君を待ってたんだ」
そりゃ、ドアの前に立ってればそうだろうけど……。一体この人は、何をしに来たんだろう。僕は頭を下げながら、笑顔にはなれない。訝し気な表情をそのまま投げてしまった。
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