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第65話 衝撃の事実
しおりを挟むど、どういうことだ。僕はあまりのことに動揺している。
いくら懇意の相手でも、自分の恋人をフリをする『男子学生』を紹介してほしいとは言わないだろう。そう思っていた。
お金に困っていて優秀な法科学生を一人。ぐらいだろうと思ってた。『法律事務所』で下働きをさせたいみたいな感じで……。
――――どう言えばいいんだろう。城南邸で、同棲してましたって言えばいいのか? 仲の良いフリをすればいいだけだったとか?
「先日、祐矢社長から、君が出て行ったって聞いてね。なんか不満げだったからどうなったのか気になってたんだ」
「不満げ……ですか」
挨拶もなく出て行ったんだから、不満だろうな。そこはちょっと申し訳なかった。晄矢さん、どう説明したんだろうか。
「あの……教授はどうして僕を……推薦されたんですか?」
核心に触れる前、外堀を埋めるべく聞いてみた。
「え? ああ、そうかあ。どうしよう。言っていいのかな」
な、なんだこの予想外の反応は。教授は僕をソファーに座らせ、自分は教授用デスクの向こうに座っている。モニターの間から見える教授は腕組みをした。
「どういうことですか? なにかあるなら、教えてください!」
僕は思わず腰を浮かせる。
「いや、まあまあ落ち着いて、座って座って」
教授は身長こそ高くないが、ナイスミドルを地でいくような紳士だ。弁護士資格も日本を含む複数国で持っている。
講義の中身は可もなく不可もなくだが、僕は嫌いじゃなかった。その知的な風情を歪ませ、やや右上を眺めた。
「私はね、次男の晄矢君とは趣味が同じでね」
えっ! しゅ……趣味が同じってまさか……。僕はやっぱり腰を浮かす。で、テーブルで膝を打つ。い、痛い。
「何しとんだ、君は? 落ち着きなさい」
「す、すみません。あの、御趣味って……」
僕は言われるがまま座り直し、膝をさすりながら聞いてみた。
「チェスだよ。最近はご無沙汰だけど、彼が高校生の頃はよく指したものだよ」
ああ、そうなんだ。ああ、びっくりした。そう言えば……部屋にも事務所にもチェス盤があったことを僕は思い出した。
「だから、同窓の祐矢より仲良くてね。頭はずば抜けていいし、大人びてるから歳の差とか感じなかった。けど……」
教授は一瞬顔を曇らせ、声色を少し落として続けた。けど?
「お母さんが亡くなった時、彼の様子は痛々しかった。飄々としてたけど、強がってたのが見え見えだったし……ああ見えて、三兄妹のなかで一番激情型でセンチメンタルなんだよ、彼は。その頃からお互い忙しくなって、会う機会もずいぶん減ってしまった」
ああ……本当にそうかもしれない。情が深いから、家族をうまく纏めようと、あんな小芝居を考えたんだ。
「だから、久しぶりに連絡くれた晄矢君の頼みを断れなかった。あのメールは彼に頼まれて、言われるまま打ったものなんだよ」
衝撃の事実だった。
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