54 / 111
第53話 お兄さん登場!
しおりを挟む夏休みは法律事務所に頻繁に通うこととなった。パラリーガルの下請けのようなものが多いが、判例や知的財産のデータを調べるのは楽しい。仕事をすることは、報酬を頂いてる免罪符にもなるから有難いんだ。
それになんと言っても晄矢さんのそばに居られるには素直に嬉しい。すごく忙しそうだけど、それをバシバシ片づけていくのがたまらなくカッコいい。
「相模原さん、あの……」
僕が自分の机(晄矢さんの部屋に臨時で席を作ってもらった)で頼まれた資料作りをしていたら、美人秘書の藤原さんが慌てて駆け込んできた。
「はい。どうしました?」
「あの、輝矢先生から電話が入ってて」
「えっ!!」
輝矢先生って、お兄さんの? しかいないよな。
「晄矢先生のスマホにかけ……」
「いえ、相模原さんにって仰って」
僕? 僕に? なんで。てか、輝矢さんは僕の存在を知ってるのか? いや、ここで迷ってる場合じゃない。晄矢さんはパートナー会議に出席中でいないんだ。まさかそれを狙ってきた?
「じゃあ、こちらに回してください」
僕は晄矢さんの机にある電話が鳴るのを待った。畳一畳分はあるだろう艶々天板に置いてある白い電話。すぐにライトの点滅とともに音がなった。僕は深呼吸を一つして受話器を取る。
「はい……相模原です」
『あ、驚かせてすまない。私は晄矢の兄、輝矢です』
晄矢さんと言われてもそうかと思う。輝矢さんは声質もしゃべり方も晄矢さんそっくりな低音の甘い声だった。
僕は休憩をもらってビルの外に出た。真夏の都心、息するだけで汗が出る。輝矢さんに指定されたのは、地下街のカフェだった。
「あ、こっち、こっち」
サングラスにキャップを被った怪しい人物(失礼)が店に入った僕に手招きする。黒シャツにデニムといった超ラフな格好だから、仕事で来たわけではなさそう。
「あの、初めまして……相模原といいます」
「ああ。うん、私は城南輝矢。忙しいとこ申し訳なかったね」
「いえ……気になさらなくて大丈夫です」
所詮、僕の仕事は重要度も緊急度も低い。しかし、こんな事務所近くのカフェだと知り合いに見つかりそうだ。多分、これで変装してるつもりなのだろうけど……。
「そうか。君のことは晄矢から聞いてるよ」
そうなんだ。やっぱり兄弟は連絡取り合ってたんだな。……て、どう聞いてんだろ。建前なのかホントのところなのか……。
「あの、時間があんまりないんで率直に聞くよ。君は晄矢のことどこまで本気なの?」
「え……?」
いや、率直過ぎるだろ。なんの前置きもなく聞かれても困るよ! どっちの体で答えればいいのか僕は迷う。
結局は同じ回答になるのかもしれないけど、そこには計り知れない温度差がある。
「駆け落ちした私がこんなこと言うのもなんだけど……君の狙いはなに? いや、誤解しないでもらいたいんだけど、君が城南法律事務所のパートナーを狙ってても全然構わないんだ。私は晄矢が事務所を継いでくれることには賛成で……」
「あの……」
そうか。そういうことか……。
「僕はまだ弁護士になろうと努力しているところです。だからそんな先のことは……でも、少なくとも城南さんのような大手の法律事務所は、僕には合ってないと考えています」
「え? そうなの?」
輝矢さんも、僕が玉の輿狙いで晄矢さんに取り入ったと思ってるのか。まあ、それが普通の感覚だよな。
「晄矢さんのことは好きです。だけど……」
「兄貴っ! おまえ、ここでなにやって!」
「晄矢!?」
急転直下。振り向いた僕の視線の先には、鬼の形相をした晄矢さんが立っていた。
8
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
この愛のすべて
高嗣水清太
BL
「妊娠しています」
そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。
俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。
※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。
両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。
どうも俺の新生活が始まるらしい
氷魚彰人
BL
恋人と別れ、酔い潰れた俺。
翌朝目を覚ますと知らない部屋に居て……。
え? 誰この美中年!?
金持ち美中年×社会人青年
某サイトのコンテスト用に書いた話です
文字数縛りがあったので、エロはないです
ごめんなさい
僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜
エル
BL
(2024.6.19 完結)
両親と離れ一人孤独だった慶太。
容姿もよく社交的で常に人気者だった玲人。
高校で出会った彼等は惹かれあう。
「君と出会えて良かった。」「…そんなわけねぇだろ。」
甘くて苦い、辛く苦しくそれでも幸せだと。
そんな恋物語。
浮気×健気。2人にとっての『ハッピーエンド』を目指してます。
*1ページ当たりの文字数少なめですが毎日更新を心がけています。
【完結】おっさん軍人、もふもふ子狐になり少年を育てる。元部下は曲者揃いで今日も大変です
鏑木 うりこ
BL
冤罪で処刑された「慈悲将軍」イアンは小さな白い子狐の中で目を覚ましてしまった。子狐の飼い主は両親に先立たれた少年ラセル。
「ラセルを立派な大人に育てるきゅん!」
自分の言葉の語尾にきゅんとかついちゃう痛みに身悶えしながら中身おっさんの子狐による少年育成が始まった。
「お金、ないきゅん……」
いきなり頓挫する所だったが、将軍時代の激しく濃い部下達が現れたのだ。
濃すぎる部下達、冤罪の謎、ラセルの正体。いくつもの不思議を放置して、子狐イアンと少年ラセルは成長していく。
「木の棒は神が創りたもうた最高の遊び道具だきゅん!」
「ホントだねぇ、イアン。ほーら、とって来て〜」
「きゅーん! 」
今日ももふもふ、元気です。
R18ではありません、もう一度言います、R18ではありません。R15も念の為だけについています。
ただ、可愛い狐と少年がパタパタしているだけでです。
完結致しました。
中弛み、スランプなどを挟みつつ_:(´ཀ`」 ∠):大変申し訳ないですがエンディングまで辿り着かせていただきました。
ありがとうございます!
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる