【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺

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第50話 ゴルフコンペ・クライシス 4

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 クラブハウスで雨合羽を借り、僕は大雨の中、代議士がボールを打ち込んだ17番フェアウェイ横の林へと向かった。遠くのほうで雷の音が聞こえてくる。
 急がないとマジでやばい。幸い日の入りまで時間があるので視界はある。打ったところを見てないから黛副社長の時より難しいけど、大体の予想はついた。

 ――――この辺りかな……。

 いくつか放置されたボールはあったが、サイン入りのものは見つからない。どんなヘボスイングしたことやら。


「涼!」

 僕がボール探しに熱中していたら、突然大声で呼ばれた。

「晄矢さん……どうして……こんなところに来ちゃだめだよ。もうすぐ雷が……」
「おまえを一人にできるか。それに二人の方が早い。この辺りを探せばいいのか?」

 僕を助けに来てくれたんだ……。弁護士界の御曹司が……合羽を着て土砂降りの雨の中に。

「あ、ありがとう」

 なんだか涙が出てくる。でも、感極まってる場合じゃない。早く探さなきゃ。

 ――――そうだ。もしかすると。

 以前、ド下手な客がどう打ったのか木に当て、全く予想外のところに落ちてたことがあった。今回もそうかもしれない。
 僕は17番のティーエリアから考え、一番ありそうな落下点を探した。すると下草のなか、白いものが……。

「あった!」

 間違いない。サイン入りボールだ。

「どれ? ほんとだ。ダイガーマッドのサイン。間違いない」
「晄矢さん……ありがとう」

 僕は思わず抱き着いてしまった。絶対見つけるつもりではいたけれど、一人では不安だったんだ。

「お礼を言うのはこっちのほうだよ。おまえが俺たちのために探しに行ってくれたのはみんなわかってる」

 晄矢さんは僕を抱きしめてくれた。だが、ここでも甘い時間はお預けだ。遠雷に追われるように、僕らはクラブハウスに急いだ。

「俺がおまえの後を追うの、あの親父が止めなかったんだ」
「え。そうなの」

 しゃべると口の中に雨が入るのに、晄矢さんは興奮してるのか話を止めない。でも、僕にも驚くことばかりだ。

「カッコつけのおまえだが、合羽は着ていけってさ」

 そうなんだ……。もしかして、僕らのこと認めてくれた? まさかね。そんなに甘くはないか。



「おお、これだこれだ。さすがボール探しの達人だな」

 横沢先生はご満悦だ。自分の意のままに人を操って嬉しいんだろう。周りのみんなどういう表情していいのかわからないって感じだ。僕のことを馬鹿にしてる人もいるかもしれないな。

「それで? 報酬はいくらだ? まさか五万とか言わんよな」

 なんで僕に絡んでくる人は、僕を五万で換算するんだろ。

「いえ、お金は要りません」
「なんだ。じゃあゴルフクラブとかか?」
「僕はお礼をいただくと申しました。だから、一言『ありがとう』と言ってくだされば。それでこの場を納められると思いますので」
「ああ? なんだそれは」

 横沢センセはまだ理解できていないらしい。このどよーんとした空気を。

「ホントは、失礼のあった皆様に謝罪してほし……」
「なるほどっ。それはいい提案ですね。横沢先生、今回は少しやり過ぎではないですか? 我々のような下々に謝罪するよりは良いでしょう? 最近はすぐ呟く輩もいますからねえ」

 僕が言い終える前に、藤堂社長がアシストしてくれた。皮肉を言われ、ようやく表彰式会場の険悪な空気に気が付いたようだ。最後の一言も効いたよね。

「いや、そうだな……」

 コホンと一つ咳をして、横沢代議士は『ありがとう』と頭を軽く下げた。


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