51 / 111
第50話 ゴルフコンペ・クライシス 4
しおりを挟むクラブハウスで雨合羽を借り、僕は大雨の中、代議士がボールを打ち込んだ17番フェアウェイ横の林へと向かった。遠くのほうで雷の音が聞こえてくる。
急がないとマジでやばい。幸い日の入りまで時間があるので視界はある。打ったところを見てないから黛副社長の時より難しいけど、大体の予想はついた。
――――この辺りかな……。
いくつか放置されたボールはあったが、サイン入りのものは見つからない。どんなヘボスイングしたことやら。
「涼!」
僕がボール探しに熱中していたら、突然大声で呼ばれた。
「晄矢さん……どうして……こんなところに来ちゃだめだよ。もうすぐ雷が……」
「おまえを一人にできるか。それに二人の方が早い。この辺りを探せばいいのか?」
僕を助けに来てくれたんだ……。弁護士界の御曹司が……合羽を着て土砂降りの雨の中に。
「あ、ありがとう」
なんだか涙が出てくる。でも、感極まってる場合じゃない。早く探さなきゃ。
――――そうだ。もしかすると。
以前、ド下手な客がどう打ったのか木に当て、全く予想外のところに落ちてたことがあった。今回もそうかもしれない。
僕は17番のティーエリアから考え、一番ありそうな落下点を探した。すると下草のなか、白いものが……。
「あった!」
間違いない。サイン入りボールだ。
「どれ? ほんとだ。ダイガーマッドのサイン。間違いない」
「晄矢さん……ありがとう」
僕は思わず抱き着いてしまった。絶対見つけるつもりではいたけれど、一人では不安だったんだ。
「お礼を言うのはこっちのほうだよ。おまえが俺たちのために探しに行ってくれたのはみんなわかってる」
晄矢さんは僕を抱きしめてくれた。だが、ここでも甘い時間はお預けだ。遠雷に追われるように、僕らはクラブハウスに急いだ。
「俺がおまえの後を追うの、あの親父が止めなかったんだ」
「え。そうなの」
しゃべると口の中に雨が入るのに、晄矢さんは興奮してるのか話を止めない。でも、僕にも驚くことばかりだ。
「カッコつけのおまえだが、合羽は着ていけってさ」
そうなんだ……。もしかして、僕らのこと認めてくれた? まさかね。そんなに甘くはないか。
「おお、これだこれだ。さすがボール探しの達人だな」
横沢先生はご満悦だ。自分の意のままに人を操って嬉しいんだろう。周りのみんなどういう表情していいのかわからないって感じだ。僕のことを馬鹿にしてる人もいるかもしれないな。
「それで? 報酬はいくらだ? まさか五万とか言わんよな」
なんで僕に絡んでくる人は、僕を五万で換算するんだろ。
「いえ、お金は要りません」
「なんだ。じゃあゴルフクラブとかか?」
「僕はお礼をいただくと申しました。だから、一言『ありがとう』と言ってくだされば。それでこの場を納められると思いますので」
「ああ? なんだそれは」
横沢センセはまだ理解できていないらしい。このどよーんとした空気を。
「ホントは、失礼のあった皆様に謝罪してほし……」
「なるほどっ。それはいい提案ですね。横沢先生、今回は少しやり過ぎではないですか? 我々のような下々に謝罪するよりは良いでしょう? 最近はすぐ呟く輩もいますからねえ」
僕が言い終える前に、藤堂社長がアシストしてくれた。皮肉を言われ、ようやく表彰式会場の険悪な空気に気が付いたようだ。最後の一言も効いたよね。
「いや、そうだな……」
コホンと一つ咳をして、横沢代議士は『ありがとう』と頭を軽く下げた。
41
お気に入りに追加
223
あなたにおすすめの小説
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした
たっこ
BL
【加筆修正済】
7話完結の短編です。
中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。
二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。
「優、迎えに来たぞ」
でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)

ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした
ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!!
CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け
相手役は第11話から出てきます。
ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。
役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。
そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる