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第40話 ご武運を
しおりを挟む夜の街を車に揺られる。フロントガラスには弱い雨が落ち始めた。ワイパーがそのしずくを拭った。
「接待のお相手は丸藤証券会社様とお聞きしております。トップは3人で、そのなかに女性がおひとりいらっしゃいます」
「あ、ありがとうございます」
立花さんがハンドルを握りながら教えてくれた。僕はスマホで探索する。大手ではないけれど、優良証券会社の一つだ。接待中なのはそのトップ3名かな。
とりあえず名前を覚え、人事情報や業績などをざっと見る。自慢じゃないけど記憶力だけはいいんだ。韻を踏んで覚えるのがコツ。
「ご武運を」
立花さんに言われ、背筋がびびっとなる。引きつった笑顔のまま、呼ばれた店の扉を開けると、黒服に蝶ネクタイの店員が出迎えてくれた。
名前を告げると笑顔でエスコートしてくれる。連れられたフロアは想像以上に広く、シャンデリアが品の良い光度を部屋に注いでいた。椅子もテーブルもベルサイユ宮殿のよう(行ったことはもちろんない)な豪華な造りだ。
「こちらです」
彼は丁寧な仕草で、奥のVIPルームを僕を誘う。薄いカーテンで仕切られた向こうに、10人ぐらいの人影が見えた。そのうちの一人、一番大柄な影が動く。
――――晄矢さんっ……。
「涼、よく来てくれたな。さ、こっちだ」
酒の席だけど、ほとんど飲んでいないようだ。しゃきっとした背筋と鋭い目つきにどきりとする。
でもそんな場合じゃない。僕が来たのに気付いた人はいない……あ、いた。祐矢氏だ。歓談してるのは証券会社の社長以下三名と、祐矢氏、陽菜さんと晄矢さん。それから煌びやかな衣装を纏った綺麗なお姉さんが三人だった。
「おお。うちの優秀な書生が来ましたよ」
優秀にアクセント付けて言う祐矢氏。ホント、嫌味だよな。
「まあ、可愛い子じゃない。あなたこっち来て!」
挨拶もそこそこに女性の副社長が手招きする。
――――もしかして、ホストクラブでバイトしてた方が良かったかも?
請われるまま、僕は培ってきた営業笑顔を浮かべてその女性の隣に腰を下ろした。
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