上 下
33 / 111

第32話 夢ならいいのに。

しおりを挟む

「あれ、もう始めてたのか。別に構わないけど。涼が飲むとこ初めて見たな」

 コップ一杯のビールで随分気持ちよくなってた。風呂上りの……いつもの上半身裸のままで、晄矢さんが僕の隣に腰を下ろした。そして手酌して一気飲みする。

「お疲れ様でえす」
「あれ、なんだ涼、コップ一杯で酔ったのか?」
「は? 何言ってんですか。酔ってませんにょ」

 確実に酔ってる。僕は隣に座る晄矢さんに、大胆にも体をくっつけて凭れかかった。

「酔ってるな。いいよ、たまには」

 くすくす笑いながら晄矢さんは続ける。おつまみの豆類をぱくんとするのを僕は据わった目で見つめていた。

「晄矢さん。あのダブルベッド、僕に声かけるよりずっと前に購入したんだってね。祐矢氏と喧嘩して、じゃあ同棲してやるって」

 晄矢さんの肩に肘を置き、顔を近づける。驚いて両目を開く晄矢さんの反応が楽しい。

「誰だそんなこと言ったの。全く……。まあ、そうだよ。で、榊教授に頼んだ」
「本当ですかぁ」
「本当だよ。正直期待してなかったんだけどね。最高の条件の子が……」
「またまた、誰でも良かったんれしょ? 焦ってたんだから」

 僕は何を言い出すのか。いや、心の隅で僕の理性が『やめろ』と叫んでる。でも、当の僕は聞く耳を持たなかった。

「あれ……心外だな」
「にゃにがです」
「仮にも同じベッドで寝る相手だ。俺が誰でもいいっ! てなると思うか? 涼に声をかけるより前、2度ほど大学に行って様子を窺ってた。気が付かなかったか?」
「そ……そんな……ストーカーのような真似を……」
「ストーカー言うなっ!」

 晄矢さんも酔ったのか、僕の頭を右手で抱えこむ。頬に張った胸筋がくっついてさらに酔いが回った気がする。

「でも、いつも忙しそうで……何かに追われてるみたいだったな。可愛かったけど」
「可愛い……て……」

 ふふふ、と、また妖しく笑う。

「ほ、ほんとは……晄矢さん、ゲイなんじゃないれすか? だから……」

 敬語とため口がごっちゃになってる。

「お、なになに、だから?」

 面白がってる。なんだか僕はカッとなってしまって。

「だから、夜中にキスしたりするんだっ!」
「え……あー、あれか……」

 ――――『あれか』だと? 今僕が、どんなに勇気を振り絞って言ったかわかってんのか?

 勇気もなにも、俗にいう、酒の力を借りただけなのだが。

「ぼ、僕のこと、どう思ってんですか。揶揄うのも……」

 そこまで言って、なにか様子がおかしいのに気付く。目の前が遮断され、自分の唇に何かがかぶさってきた。

 ――――えええええっ!?

 いつの間にか僕は、晄矢さんに抱きしめられていた。そして、キスを……。額とか、頬でなく、唇を重ねていた。僕は両目を開けたまま完全に固まった。

「これでいい?」
「こ、こ……」
「涼のこと、愛おしいと思ってる。これは、契約外のことだ」

 愛おしい……それは……その……。その時、どうしてだろう。胸がいっぱいになった。そう思ったのに、胃の中のものが逆流してきたんだよ。

「うぐっ!」

 僕は慌ててトイレに駆け込んだ。

「涼っ! 大丈夫か!?」
「こ、来ないでください!」

 何が何だかわからない。僕はトイレにうっぷし、豪華和食ディナーを文字通り水に流してしまった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完)そこの妊婦は誰ですか?

青空一夏
恋愛
 私と夫は恋愛結婚。ラブラブなはずだった生活は3年目で壊れ始めた。 「イーサ伯爵夫人とし全く役立たずだよね? 子供ができないのはなぜなんだ! 爵位を継ぐ子供を産むことこそが女の役目なのに!」    今まで子供は例え産まれなくても、この愛にはなんの支障もない、と言っていた夫が豹変してきた。月の半分を領地の屋敷で過ごすようになった夫は、感謝祭に領地の屋敷に来るなと言う。感謝祭は親戚が集まり一族で祝いご馳走を食べる大事な行事とされているのに。  来るなと言われたものの私は王都の屋敷から領地に戻ってみた。・・・・・・そこで見たものは・・・・・・お腹の大きな妊婦だった!  これって・・・・・・ ※人によっては気分を害する表現がでてきます。不快に感じられましたら深くお詫びいたします。

会えないままな軍神夫からの約束された溺愛

待鳥園子
恋愛
ーーお前ごとこの国を、死に物狂いで守って来たーー 数年前に母が亡くなり、後妻と連れ子に虐げられていた伯爵令嬢ブランシュ。有名な将軍アーロン・キーブルグからの縁談を受け実家に売られるように結婚することになったが、会えないままに彼は出征してしまった! それからすぐに訃報が届きいきなり未亡人になったブランシュは、懸命に家を守ろうとするものの、夫の弟から再婚を迫られ妊娠中の夫の愛人を名乗る女に押しかけられ、喪明けすぐに家を出るため再婚しようと決意。 夫の喪が明け「今度こそ素敵な男性と再婚して幸せになるわ!」と、出会いを求め夜会に出れば、なんと一年前に亡くなったはずの夫が帰って来て?! 努力家なのに何をしても報われない薄幸未亡人が、死ぬ気で国ごと妻を守り切る頼れる軍神夫に溺愛されて幸せになる話。 ※完結まで毎日投稿です。

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

悪役令嬢の悪行とやらって正直なにも悪くなくない?ってお話

下菊みこと
恋愛
多分微ざまぁ? 小説家になろう様でも投稿しています。

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

ダンシング・オメガバース

のは
BL
異世界転移したけれど、僕の知ってるオメガバースとなんか違う! なんだってこの島のイケメンたちは、僕にダンスを見せつけるんだ。 僕は先生に相談した。 先生は、右も左もわからぬ僕を拾って保護してくれた人で、僕の担当医のようなものである。 彼が言うには、この島のバース性は独自の進化を遂げていて、ダンスで互いを誘惑するらしい。 しかも検査を重ねるうちに僕のバースは徐々にオメガを示し始めた。 自分のバース性を受け入れられずにいる僕にも、とうとう発情期がやってくる。 こんなとき触れてほしいのは先生だ。だけど、先生は僕のフェロモンの影響を受けない。 このままつらい片思いがずっと続くんだと思っていた。 先生が、僕の前から突然姿を消すまでは。 ※他サイトにも掲載しております。 輝くような素敵な表紙はまめさんが書いてくださいました!

処理中です...