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第14話 世の中そんなに甘くない。
しおりを挟む一限目は階段教室での講義だ。朝一には学生が休みがちなので、絶対休めないように必須科目で人気の講義を持ってくる。意外に大学も世知辛い。
僕はまだ2年生なので一般教養が幅を利かせてる。そういうわけで朝一の講義は専門性の高い法律学なのだ。しかも話し上手の准教授の講義だからみんな頑張って早起きしてくる。
しかし、そんな楽しいはずの講義を受けてるのに、頭の中は今朝のとっても冷たい視線をくれた城南祐矢弁護士が何度も浮かびあがって困っていた。
『おまえにはもっといろんな勉強してもらわんとな』
どう考えたらいいんだろう。祐矢氏は僕と晄矢さんの仲を疑っている。まあ、その通りなんだけど……。僕らが偽りの恋人同士と見抜いているんじゃないかな。だとしたら、なにを勉強しろというのだろうか。
――――まさか詐欺罪に当たるとか? いやいや、結婚詐欺してるわけでないし。
楽しみにしていた講義なのに、なんだか右から左に流れてしまった。ああ、なんて勿体ない。
僕は今まで生きてきて、授業は一秒も無駄にしないよう取り組んできたんだ。義務教育と言っても、他人様のお金で勉強させてもらってるんだ。無駄にしてなるものか。
それに今までは家で勉強する時間がなかったから、授業中に覚えるしかなかった。小学生の頃からバイトしてたからな……。
「涼、おまえ住み込みのバイト見つけたってほんとか?」
次の講義まで一コマ空く。僕はいつも通り学内の図書館にいた。本当は勉強しにきたのだが、開いた本のページは変わることなく、また悶々と考え込んでいた。
「あ、岩崎か。相変わらず耳が早いな」
そこに岩崎がやってきた。僕の隣に座ると小声で話しかけてくる。
「いや、アパートの管理人さんが言ってたんだよ。しばらく留守にするけど部屋は明けないって」
「うん。短期なんだよ。だから帰ってきて住む場所がないと困る」
内容が内容だけに詳しくは話せない。僕は大きな屋敷に住む子供の家庭教師だと話した。引きこもりの子だから、個人情報は言えないと誤魔化す。
岩崎はうらやましそうな表情で呻いた。
「いいなあ……俺もその大きな屋敷に住みたい」
「屋敷って言っても、僕の部屋は一つだよ」
でかいけど。しかも一人部屋じゃない。まさかダブルベッドで寝てるなんて絶対言えない。
「でもさあ。風呂あるんだろ。うらやましいよ」
ううむ。確かに風呂付は本当に素晴らしい。
「でも短期ってのは、その子が卒業したり、学校行くようになったら終わりってことか?」
「うん、まあそんなこと」
本当はお兄さんの結婚が許されたらかな。
「なら、敢えて学校行かないようにすればいいじゃん。ずっとそこに住めるぞ」
「そんなことしたら、クビになるよ」
「あ、そうか……世の中うまくいかんな」
僕らは黙り込む。僕は改めて目の前の本に視線を移した。
――――ずっとあの屋敷にいるか……。僕の場合は他力本願だからな。
それにその前に、僕らの嘘がばれて追い出されるかも。その可能性の方が高いよ。やっぱり、世の中そんなに甘くないな。
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