上 下
15 / 111

第14話 世の中そんなに甘くない。

しおりを挟む


 一限目は階段教室での講義だ。朝一には学生が休みがちなので、絶対休めないように必須科目で人気の講義を持ってくる。意外に大学も世知辛い。
 僕はまだ2年生なので一般教養が幅を利かせてる。そういうわけで朝一の講義は専門性の高い法律学なのだ。しかも話し上手の准教授の講義だからみんな頑張って早起きしてくる。

 しかし、そんな楽しいはずの講義を受けてるのに、頭の中は今朝のとっても冷たい視線をくれた城南祐矢弁護士が何度も浮かびあがって困っていた。

『おまえにはもっといろんな勉強してもらわんとな』

 どう考えたらいいんだろう。祐矢氏は僕と晄矢さんの仲を疑っている。まあ、その通りなんだけど……。僕らが偽りの恋人同士と見抜いているんじゃないかな。だとしたら、なにを勉強しろというのだろうか。

 ――――まさか詐欺罪に当たるとか? いやいや、結婚詐欺してるわけでないし。

 楽しみにしていた講義なのに、なんだか右から左に流れてしまった。ああ、なんて勿体ない。
 僕は今まで生きてきて、授業は一秒も無駄にしないよう取り組んできたんだ。義務教育と言っても、他人様のお金で勉強させてもらってるんだ。無駄にしてなるものか。
 それに今までは家で勉強する時間がなかったから、授業中に覚えるしかなかった。小学生の頃からバイトしてたからな……。


「涼、おまえ住み込みのバイト見つけたってほんとか?」

 次の講義まで一コマ空く。僕はいつも通り学内の図書館にいた。本当は勉強しにきたのだが、開いた本のページは変わることなく、また悶々と考え込んでいた。

「あ、岩崎か。相変わらず耳が早いな」

 そこに岩崎がやってきた。僕の隣に座ると小声で話しかけてくる。

「いや、アパートの管理人さんが言ってたんだよ。しばらく留守にするけど部屋は明けないって」
「うん。短期なんだよ。だから帰ってきて住む場所がないと困る」

 内容が内容だけに詳しくは話せない。僕は大きな屋敷に住む子供の家庭教師だと話した。引きこもりの子だから、個人情報は言えないと誤魔化す。
 岩崎はうらやましそうな表情で呻いた。

「いいなあ……俺もその大きな屋敷に住みたい」
「屋敷って言っても、僕の部屋は一つだよ」

 でかいけど。しかも一人部屋じゃない。まさかダブルベッドで寝てるなんて絶対言えない。

「でもさあ。風呂あるんだろ。うらやましいよ」

 ううむ。確かに風呂付は本当に素晴らしい。

「でも短期ってのは、その子が卒業したり、学校行くようになったら終わりってことか?」
「うん、まあそんなこと」

 本当はお兄さんの結婚が許されたらかな。

「なら、敢えて学校行かないようにすればいいじゃん。ずっとそこに住めるぞ」
「そんなことしたら、クビになるよ」
「あ、そうか……世の中うまくいかんな」

 僕らは黙り込む。僕は改めて目の前の本に視線を移した。

 ――――ずっとあの屋敷にいるか……。僕の場合は他力本願だからな。

 それにその前に、僕らの嘘がばれて追い出されるかも。その可能性の方が高いよ。やっぱり、世の中そんなに甘くないな。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

中イキできないって悲観してたら触手が現れた

AIM
恋愛
ムラムラして辛い! 中イキしたい! と思ってついに大人のおもちゃを買った。なのに、何度試してもうまくいかない。恋人いない歴=年齢なのが原因? もしかして死ぬまで中イキできない? なんて悲観していたら、突然触手が現れて、夜な夜な淫らな動きで身体を弄ってくる。そして、ついに念願の中イキができて余韻に浸っていたら、見知らぬ世界に転移させられていた。「これからはずーっと気持ちいいことしてあげる♥」え、あなた誰ですか?  粘着質な触手魔人が、快楽に弱々なチョロインを遠隔開発して転移させて溺愛するお話。アホっぽいエロと重たい愛で構成されています。

クソ雑魚新人ウエイターを調教しよう

十鳥ゆげ
BL
カフェ「ピアニッシモ」の新人アルバイト・大津少年は、どんくさく、これまで様々なミスをしてきた。 一度はアイスコーヒーを常連さんの頭からぶちまけたこともある。 今ようやく言えるようになったのは「いらっしゃいませー、お好きな席にどうぞー」のみ。 そんな中、常連の柳さん、他ならぬ、大津が頭からアイスコーヒーをぶちまけた常連客がやってくる。 以前大津と柳さんは映画談義で盛り上がったので、二人でオールで映画鑑賞をしようと誘われる。 マスターの許可も取り、「合意の誘拐」として柳さんの部屋について行く大津くんであったが……?

婚約者に裏切られたのに幸せすぎて怖いんですけど……

波木真帆
BL
<本編完結しました!ただいま、番外編を随時更新中です> 僕、宇佐美敦己(うさみ あつき)は交際中の彼女・由依と婚約したばかりなのに三ヶ月の長期出張に行かされてしまった。ある時、東京本社のトラブルで帰ってきて欲しいと要請を受け、緊急帰国。なんとか事態も収拾し久しぶりに婚約者に会いに行こうと同棲中の家に帰ると、中で彼女が男と浮気をしている現場に遭遇。あまりの衝撃に吐きそうになりながらも証拠を撮影し、彼女に見られないように家を飛び出した僕の前に現れたのは同期の上田。話を聞いた上田が紹介してくれた敏腕の弁護士に支えられ、僕の心は落ち着いていったのだが……。 イケメンスパダリ弁護士と婚約者に浮気されたエリートサラリーマンのイチャラブハッピーエンド小説です。 R18には※つけます。

シルバーアイス

フィナ
ファンタジー
世界の最大都市ファーレン帝国の首都ジークのフィリオ学院の物語です!内容はシスコンの兄 レンとブラコンの妹の リリとの最強のお話です! 表現力がほとんど無いので、コメントで書いてくれると嬉しいです! 1話につき大体5~700文字ぐらいになっているので短く読めます! ぐだぐだになりそうなので暇つぶしに読んでください! \〔‥Οω<‥〕/

美形な兄に執着されているので拉致後に監禁調教されました

パイ生地製作委員会
BL
玩具緊縛拘束大好き執着美形兄貴攻め×不幸体質でひたすら可哀想な弟受け

最強賢者、ヒヨコに転生する。~最弱種族に転生してもやっぱり最強~

深園 彩月
ファンタジー
最強の賢者として名を馳せていた男がいた。 魔法、魔道具などの研究を第一に生活していたその男はある日間抜けにも死んでしまう。 死んだ者は皆等しく転生する権利が与えられる。 その方法は転生ガチャ。 生まれてくる種族も転生先の世界も全てが運任せ。その転生ガチャを回した最強賢者。 転生先は見知らぬ世界。しかも種族がまさかの…… だがしかし、研究馬鹿な最強賢者は見知らぬ世界だろうと人間じゃなかろうとお構い無しに、常識をぶち壊す。 差別の荒波に揉まれたり陰謀に巻き込まれたりしてなかなか研究が進まないけれど、ブラコン拗らせながらも愉快な仲間に囲まれて成長していくお話。 ※拙い作品ですが、誹謗中傷はご勘弁を…… 只今加筆修正中。 他サイトでも投稿してます。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

処理中です...