69 / 82
TAKE 55 大事なこと
しおりを挟む傷口に異常はなく、鎮痛剤が切れただけのようだった。看護師さんは新たに点滴を付け、鎮痛剤をくれた。
「ごめん。東さん。少し休むよ」
「了解です。すみませんでした。こんな時に……」
「いや、心配かけてごめん」
東さんは寂しそうな笑みを浮かべ、ショルダーバッグを抱えた。一度事務所に戻ると言う。タッグを組んでから三年。ずっと僕を支えてきてくれた人だ。
ちゃんと話をしなくてはと思いながら、僕は目を閉じる。薬のせいか意識がぼんやりしてくる。そのまま眠ってしまった。
「まだ三時にもなってない……」
変な時間に眠ると夜中に目が覚める。しかも鈍痛に気が付いての目覚めなのですっきりしたものではない。食事もまだしっかりとれなくてお腹も空いた。
――――鎮痛剤飲んじゃおう。
そういう時は、我慢をせずに痛みとさよならするに限る。それにこれを飲むと眠くなるので一石二鳥だ。
――――明日の記者会見、享祐は何を言うんだろう。
眠気がやってくる前に、僕はぼんやりした頭で考えた。
『体が辛くなかったら、見てくれないかな』
そんなふうに言ってた。なにか、大事なことを言うんだ。それを察した東さんがビビってた。
――――でも、とりあえず事件のあらましを言うんだよね? 彼女が僕らの関係に腹を立てて、邪魔な僕を排除しようとした。
『あなたは越前享祐を堕落させている』
馬鹿な記事を信じて。と言われているけど、実際は本当のことだ。彼女は享祐を強く思うことで、もしかしたら事の真実を見破っていたんじゃないか。だからこそ、僕の存在が疎ましく……。
――――もし僕が女優さんだったら、どうなんだろう。同じように『堕落させている』って思うのかな。それは考えても仕方ないのかもしれないけど。
僕に対して申し訳ないっていうスタンスを取るのだろうけど、それは少し辛いな。享祐は少しも悪くない。
加害者の彼女にしても、あまり強い言葉で非難して欲しくない。なんてお人好しが過ぎるか。
――――その辺りの経緯や謝罪をするんだろうけど、それだけで『見て欲しい』って言うだろうか。
夜が更けてもなぜか眠気がやってこない。堂々巡りする僕の思考はそれでも気付いてた。享祐は、僕との関係が嘘ではないことを言うのだろうと。
鎮痛剤が効いて眠りに落ちた時は、既に空が白んでいた。
11
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
幸せのカタチ
杏西モジコ
BL
幼馴染の須藤祥太に想いを寄せていた唐木幸介。ある日、祥太に呼び出されると結婚の報告をされ、その長年の想いは告げる前に玉砕する。ショックのあまり、その足でやけ酒に溺れた幸介が翌朝目覚めると、そこは見知らぬ青年、福島律也の自宅だった……。
拗れた片想いになかなか決着をつけられないサラリーマンが、新しい幸せに向かうお話。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
恋した貴方はαなロミオ
須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。
Ω性に引け目を感じている凛太。
凛太を運命の番だと信じているα性の結城。
すれ違う二人を引き寄せたヒート。
ほんわか現代BLオメガバース♡
※二人それぞれの視点が交互に展開します
※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m
※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です
目標、それは
mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。
今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる