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TAKE 40 遭遇
しおりを挟む車で迎えに来てるはずの東さん。こんな顔を見せられない。
僕は洗面所で顔を洗ってからロビーに出た。ちょっと丸っぽい東さんが手を振ってるのが見える。
これからオーディションっていうのに、こんなメンタルじゃだめだ。立て直さなきゃ。
「伊織さん、最後の台本、届きましたよ」
東さんの運転する車の中、僕は『最初で最後のボーイズラブ』、最終回の台本を渡された。
ドラマのキャストが決まってから四ヶ月。ついに最後の本が来た。あっという間だったな。
台本を手に、今までのことが頭の中で走馬灯のようにぐるぐると回っていく。さっきまで泣いてて涙腺が弱々だから、また泣きそうになる。それをぐっと我慢した。
「結局、シーズン2はあるんでしょうかね」
隣で東さんが誰に言うでもなく尋ねる。僕しかいないから僕に言ってんだろうけど。
「ないんじゃない? 最終回はハッピーエンドって言ってたじゃない」
僕はぱらぱらと台本をめくる。ただ、文字を追うことはしなかった。ここでまた涙出てきたら困る。
「ハッピーエンドにも色々ありますからね」
「そうだけど……」
心にもないことを享祐に言ってしまって、僕は次の現場でもそのことが頭にちらついていた。集中しなきゃと思えば思うほど、想いがすぐそれに擦り寄っていくのは何故なんだろう。
次の役柄をゲットするためのオーディションだから、頑張らないといけないのに。
――――享祐を傷つけただろうか。
『伊織がそうしたいなら、公表してもいい』
そんなこと言ってた。嬉しかったけど、それはとても現実的じゃない。
やっぱり、秘密の関係でなくてはダメなんだ。いいじゃないか。それでも。
享祐と会いたいと思えば、会えるんだ。馬鹿だな、僕は。なんで子供みたいにあんなことを……。
オーディションの結果は一週間後だと言われ、僕はまた東さんの車でマンションに帰った。
随分と落ち着いていた。享祐にはメールして謝ろう。好きだから……どんな形でも平気だって。公表なんて必要ないって。
エントランスには管理人室と小さなロビーがある。そこからオートロックでエレベーターホールに入るんだけど、ロビーにいた人影が動いたのを僕の目の端がとらえた。どこかでも見た覚えのある、嫌な気分が蘇る。
「おかえりなさい、三條さん」
振り返るのを躊躇した。聞こえないふりを決め込んでオートロックの向こう側に行ってしまうのもありだ。
そのわずかな逡巡がわかったのか、そいつは慌てて歩を詰めてきた。
「逃げないで、三條さん。いや、評判になってますね、ドラマ。私のおかげでもあるのでは?」
僕は大げさにため息をつき振り返る。ショルダーバックを肩にかけ、スマホを片手に持つジャケットの男。真壁さんが作り笑顔を貼り付けて立っていた。
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