【完結】嘘はBLの始まり

紫紺

文字の大きさ
上 下
7 / 82

TAKE 5 慣れておくのも。

しおりを挟む

 長い睫毛が僕の目の前でぱさぱさと二度上下した。熱があるのかな。頬が熱いしふらふらする。越前さんの息がかかる。

「あ、ああ」
「え?」

 目の前の彼がくすりと笑った。切れ長の双眸が少し細められてる。

「鼻血出てるよ」
「はっ! うわああっ」

 僕は手で鼻の下を触るとぬるりとしたものが! やっぱり出てしまった! は、恥ずかしい。
 慌てて席を立ち、ティッシュで拭った。しばらく鼻の付け根を抑えているとすぐに止まってくれた。

 ――――助かった……。

「失礼しました」
「いや、止まった?」
「はい……」

 今すぐ消えてなくなってしまいたい。顔がゆでたみたいに熱いよ。もう鼻血出ないだろうな。緊張して鼻血出すなんて、高校生以来だよ。

「やっぱり来て良かったな」
「え?」

 越前さんは肘を膝に置き、胸の前で両手を組むとパキパキと音を鳴らした。

「今緊張しておけば、本番で鼻血出すことないだろ?」

 ううむ。そうであって欲しいけど。出さないとは限らない。演技と割り切れば大丈夫かとも思うけど、僕は憑依してしまう方だから……。
 返事に窮して俯いていると、組まれていた両手が動きを止める。ゆっくりと手が離れ、こっちに向かってくるのが見えた。

 ――――な、なにっ?

 僕は顔を上げ、思わず身構える。ジャケットの袖から覗く手首がふと目に映った。僕の両腕に軽い痛みが走る。

「あ、あの……」
「慣れておくのも大事だよね」
「ええっ、ま……」

 ってください。と言いたかった。だけど、言えなかった。逞しい胸板が僕の体を包み込む。息ができない。

 ――――いい匂い。なんだろう。オーデコロンかな……花のような、ライムのような。

 頭がぼんやりとしてきた。どこかを気持ちよく浮遊しているような感覚だ。越前さんの指がまた僕の顎を取る。今度は鼻の頭に嫌な感じがない。

「目を……閉じて」

 魔法にかかったように言われるまま、僕は瞼を閉じる。その後、何が起こるか、僕はちゃんと知っていて。それを待っていたから。

 柔らかい感触が僕の唇に降りてきた。遠慮がちに触れ合って、やがて彼の艶めかしく蠢くものが僕の唇をなぞる。
 体中に電撃が走ったように痺れて震える。僕は夢中でしがみついた。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

幸せのカタチ

杏西モジコ
BL
幼馴染の須藤祥太に想いを寄せていた唐木幸介。ある日、祥太に呼び出されると結婚の報告をされ、その長年の想いは告げる前に玉砕する。ショックのあまり、その足でやけ酒に溺れた幸介が翌朝目覚めると、そこは見知らぬ青年、福島律也の自宅だった……。 拗れた片想いになかなか決着をつけられないサラリーマンが、新しい幸せに向かうお話。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

恋した貴方はαなロミオ

須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。 Ω性に引け目を感じている凛太。 凛太を運命の番だと信じているα性の結城。 すれ違う二人を引き寄せたヒート。 ほんわか現代BLオメガバース♡ ※二人それぞれの視点が交互に展開します ※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m ※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です

目標、それは

mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。 今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

処理中です...