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TAKE 5 慣れておくのも。
しおりを挟む長い睫毛が僕の目の前でぱさぱさと二度上下した。熱があるのかな。頬が熱いしふらふらする。越前さんの息がかかる。
「あ、ああ」
「え?」
目の前の彼がくすりと笑った。切れ長の双眸が少し細められてる。
「鼻血出てるよ」
「はっ! うわああっ」
僕は手で鼻の下を触るとぬるりとしたものが! やっぱり出てしまった! は、恥ずかしい。
慌てて席を立ち、ティッシュで拭った。しばらく鼻の付け根を抑えているとすぐに止まってくれた。
――――助かった……。
「失礼しました」
「いや、止まった?」
「はい……」
今すぐ消えてなくなってしまいたい。顔がゆでたみたいに熱いよ。もう鼻血出ないだろうな。緊張して鼻血出すなんて、高校生以来だよ。
「やっぱり来て良かったな」
「え?」
越前さんは肘を膝に置き、胸の前で両手を組むとパキパキと音を鳴らした。
「今緊張しておけば、本番で鼻血出すことないだろ?」
ううむ。そうであって欲しいけど。出さないとは限らない。演技と割り切れば大丈夫かとも思うけど、僕は憑依してしまう方だから……。
返事に窮して俯いていると、組まれていた両手が動きを止める。ゆっくりと手が離れ、こっちに向かってくるのが見えた。
――――な、なにっ?
僕は顔を上げ、思わず身構える。ジャケットの袖から覗く手首がふと目に映った。僕の両腕に軽い痛みが走る。
「あ、あの……」
「慣れておくのも大事だよね」
「ええっ、ま……」
ってください。と言いたかった。だけど、言えなかった。逞しい胸板が僕の体を包み込む。息ができない。
――――いい匂い。なんだろう。オーデコロンかな……花のような、ライムのような。
頭がぼんやりとしてきた。どこかを気持ちよく浮遊しているような感覚だ。越前さんの指がまた僕の顎を取る。今度は鼻の頭に嫌な感じがない。
「目を……閉じて」
魔法にかかったように言われるまま、僕は瞼を閉じる。その後、何が起こるか、僕はちゃんと知っていて。それを待っていたから。
柔らかい感触が僕の唇に降りてきた。遠慮がちに触れ合って、やがて彼の艶めかしく蠢くものが僕の唇をなぞる。
体中に電撃が走ったように痺れて震える。僕は夢中でしがみついた。
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