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第2部
第100話 クリスマス・サプライズ
しおりを挟むクリスマスライブでは、佐山は5曲披露する予定だった。だけど、親父が来てたからか(結局家族プラス1の四人で来てた。プラス1は澪の彼氏)、あいつはアンコールも含めて8曲も演奏した。
お客さんは大喜び。バンドのメンバーも事前に言われてたのか、動じることなくサポートしてくれた。いつも本当にありがとう、感謝しかないよ。
事務所挙げてのクリスマスライブが盛況のうちに終わり、そのままド派手なパーティに移る。ホテルの宴会場を貸し切ったそれは、専属ミュージシャンはもちろん、従業員達を労う忘年会も兼ねている。
そこで社長から、初めて佐山の渡米が発表された。酔っ払いどもの歓声と拍手、手荒い祝福を僕らは浴び、もみくちゃにされた。
ただ、オファー元の詳細は明らかにされなかったため、彼らが本当に驚くのは先の話になるだろうな。
「いよいよですね」
こういう会では、新入社員が幹事になって滅私奉公する羽目になる。どこの会社でもそれは同じだ。
僕は社員じゃないけど、お手伝いしてる方が気が楽なのでいつものように裏方をしていた。そこに水口さんがやってきた。
「あ、ありがとうございます。はい、本当に……」
水口さんは、先週、事務所を代表して渡米してくれたんだ。向こうの状況をきっちり視察して、僕らもそれを確認済み。
準備してくれた家の凄さから、さすがに盛大なプレッシャーを感じたよ。
「向こうは本気で期待してますからね。よろしくお願いしますよ」
「それは……肝に銘じています」
水口さんと言えば、僕には聞きたいことがあった。ずっと聞き逃してたことだ。
「あの、水口さん、八神さんのことなんですが……」
今日、八神さんは最初の方で別のバンドのベーシストとして出演していた。もちろんこのパーティにも出席してる。
ずっと水口さんの近くにいたんだよな。わかりやすい奴。
「え? まあそれは。ふふっ」
シュッとした鼻を整えられた爪で触れて笑う。何とも言えない大人の色気がつと漏れ、僕の背筋に電気が走った。
「悪いようにしないと言いましたよね?」
ストレートヘアをさっとかき上げ、涼やかな瞳の片方を瞑る。むむ、やはりこの人は怖いな。
このままこうしていると、さっきから感じる八神の視線と佐山の視線に撃ち落されそうだ。僕は曖昧な笑顔のまま会釈して、その場を立ち去ることにした。
「俺、しくったかな」
「なにが?」
僕が視線に誘われるように佐山の隣に行くと、あいつはビール片手にそう呟く。
「水口さんのことだよ。あんた、変に意識してないよな」
「は? 何言ってんだよ。これ以上の厄介をしょい込む趣味はないよ」
おまえのヤキモチはともかく、八神にまた関わるなんて冗談じゃない。
「でも、おまえが妬いてるのはちょっと楽しいかも」
僕はわざとあいつに上目遣いする。佐山は黒目勝ちの瞳をよりまん丸くした。
「なんだとっ。可愛すぎだろ!」
「うわっ。こら、もう……」
佐山はグラスを持ったまま僕を抱きしめる。みんな酔っ払ってるからいいけど、人前も甚だしい。それにビールが僕のパーカーを汚してる。
――――でも、いいか。今日はクリスマスだ。
宗教的になんの関わりもないけれど、きっと今日は愛する者が自由に愛を叫べる日だ。
「キスしていいか?」
「うん。いいよ」
佐山はグラスをそこらに置いて、改めて僕の頬を大きな手で覆う。あいつの切れ長の双眸が僕を見てる。僕の……唇を見てる。
「好きだよ……倫……メリークリスマス……」
言いながら降ってきた少し厚めの唇。僕が焦がれてやまないセクシーな唇だ。
――――僕も……大好きだよ。
いつものようなディープキスではなく、僕らはお互いの唇の感触を味わうように静かに食み合った。
周りがなんだか騒がしい。みんな相当出来上がって、僕らに注目してるはずはないのに。頭の上から紙吹雪が舞ってきた。指笛と佐山コールが聞こえ、音楽が鳴る。
何事かと僕らは唇を離して周りを見ると、頭上のくす玉が割れていた。いつの間にこんな仕掛けが。そこにはこんな文字が躍っていた。
『祝 受賞! 日本音楽レコード大賞 アルバム特別賞!!』
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