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第2部

第91話 急転直下

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 僕らは今、雲の合間から見える北海道の大地を見下ろしている。都会のように密集したビルや家はなく、広々とした平野と雪に覆われた山々が眼下に広がる。飛行機の小さな窓からでも、その雄大さは伝わった。

「まだあと三日あったのにさ」
「仕方ないだろ。それどころじゃないよ」
「そうかあ? リモートでも十分じゃないか」
「何言ってるんだよ。向こうはわざわざロスから来てるんだぞ」

 隣のシートで不服そうな佐山に僕は窘める。僕らは北海道旅行を途中で切り上げ、東京に戻ることになった。

 理由は今朝来たメールだ。二つのメールのうち一つは、事務所の水口さんからで、これも驚きの内容だった。

「でも、年末楽しみが増えたなあ。なあ? 倫」
「わかってるよ。全く……」


 水口さんからのメールは、佐山のCDが、優秀アルバム賞なるものの候補になったということだった。
 そう、通称レコ大、あの日本音楽レコード大賞のだ。僕はそれを大興奮そのまま佐山に伝えたら、こいつは間髪入れずこう返してきた。

「よしっ。裸にエプロンに一歩近づいた!」

 いや、そこかよ。もちろん忘れてないけどさ。僕の興奮は一挙に冷めた。
 まあ、いいよ、それは。このジャンルで優秀賞なんかもらっちゃったら、それはそれで快挙以外の何物でもない。僕は甘んじて裸にエプロン付けてやるよ。

 あいつは既に妄想たくましく、僕を後ろから抱き寄せる。せっかく着た服を脱がそうとするのを防ぎながら、僕は水口さんにメールを返した。

「もう、待てよ。もう1通怪しいのが来てるから」
「そんなの後でいいだろ?」
「おまえのほうこそ後にしてくれ」

 僕はタブレットであいつを制し、さらっとメールを眺め見た。

 ――――はっ? なんだこれは。

 てっきり迷惑メールかなにかだろうと思って読み始めると、全く予想もつかない内容。念のために翻訳ソフトに入れたくらいだ。

 ――――いや、これこそ迷惑メールじゃね?

 送信者のアドレスをコピペして検索してみる。付いてるURLなんか押してはいけない。これは迷惑メールが来た時の鉄則だ。そして僕は、その検索結果に驚愕した。

「マジか……」
「どうした? まだ賞を獲ったわけじゃないだろ?」

 僕に拒否され、ベッドの上でぶーたれている佐山が問いかけてくる。僕はそれに返事もせずに水口さんに電話をかけた。

「お疲れ様です。すみません、お忙しいところ。至急調べて欲しいんですけど……」

 それから1時間も経たないうちに、僕らは機上の人となった。



「だけど、倫。それって本当なのか? なんか俺、信じられないんだけど」
「本当だよ。水口さんに調べてもらったし、ついさっき、事務所にも連絡来たって」

 英文のメール。それは、誰もが名前くらいは知っている、米国の有名映画プロデューサーからのものだった。来年クランクイン予定の映画の音楽を佐山に任せたいというオファーだったんだ。




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