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第2部

第71話 目の前の誘惑

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  飲み会の居酒屋はカオスだった。主役がいようといまいと、彼らには関係ないんだろう。とりあえず、酒があれば楽しいのだ。
 音楽の話題も最初の5分くらい。同業者の噂話から下ネタに移り、女性アイドルの話から下ネタに移り。変態なのはどうやら佐山だけでないことを改めて理解した。

「お疲れ様です」

 カオスな連中に酒と食べ物をあてがって定位置に行くと、青山君が僕にビールを注いでくれた。

「さっきはありがとうね」
「いえ……あの方、佐山さんのお兄さんですよね?」
「あ、うん。やっぱり似てるかな」
「はい。すぐわかりましたよ」

 そうなんだ。僕は佐山の近くに居過ぎるのかな。似てるとこより、似てないところを探してしまったのかもしれない。
 背後でバカ騒ぎのボリュームがひと際上がる。佐山が上機嫌の輪に入る姿が見えた。


 千秋楽の打ち上げでもないので、二次会でお開きになった。東京から僕らはタクシーで自宅に戻る。と言っても、当然事務所持ちだ。二次会で僕は、三杉さんにたっぷり絡まれてしまった。なんでか懐かれてるんだよね。

「起きろ。アパートに着いたぞ」
「んん……もう?」

 深夜のご帰還。時間もかかったので、佐山はぐっすりだ。タクシーから泳ぐように降り、なんとかエレベーターに詰め込む。

「倫、こっちに……」

 壁に寄りかかりながら、僕を抱き寄せいつものキスをする。全く、横着なキスだな。最後に飲んだのか、ハイボールの味がする。それでも僕は十分に酔ってしまいそうだったよ。



 翌朝、シャワー室から聞こえる水の音で目が覚めた。あいつが僕を起こさずに行くなんて珍しい。

「もう8時か。僕も起きるかな」

 スマホで時間を確認し、のそのそと起き上がる。風呂場に行くと湯気の向こうで、佐山が逞しい胸板にお湯を浴びせているのが見えた。微動だにせず、腰に手をあて瞑想しているふうだ。

 ――――……めっちゃカッコいい。

 当然のことながら、お兄さんとのことは気になっていたし聞きたかった。だけど、目の前の誘惑に僕は正直に反応した。

「佐山っ」

 僕は生まれたままの姿になり(当たり前)、佐山を後ろから抱きしめた。

「ん? おー、今朝は端から調子いいな。俺の大好物が自らやってきた」

 細かい水しぶきが顔にかかる。それもまたいい。

「なんで一人でシャワー浴びてんだよ」

 いつも佐山が言うことを拝借。

「後であんたを襲おうと思ってね。でも、場所は選ばんから」

 くるりと体を回転させると、あいつの彫りの深い顔がすぐ目の前に迫ってきた。少し厚めでエロさ満載の唇がクローズアップされて……。

「ん……うふっ」

 期待通りの口づけを受けて、僕は積極的に舌を絡ませる。くせっ毛が濡れてしたたる雫まで色っぽい。あいつはそれに呼応するように僕を壁際に追い詰め、お互いの体を密着させた。

「うんっ……あ……」
「待ってられないとは、困ったやつだな」
「おまえに……言われたくないよ」
「そりゃそうか」

 耳元でふっと息を吐く。それだけでチーズのように蕩けてしまいそう。欲情するのはおまえだけじゃないんだ。僕だって、いっつもおまえに魅せられてる。

「ああっ……」

 あいつが僕の前で跪き、指で、唇で、舌で欲の塊をいたぶりまわす。あまりの快感にどうにかなりそうだよ。壁にもたれかかっていても膝ががくがくしてくる。そのうち、目のまえにいくつものスパークが弾け最高の瞬間がやってきた。

「はあっ! うっ……」

 僕はそのまま膝から崩れ落ちる。はあはあと荒い息遣いのまま、佐山の腕に抱きとめられた。

「さやま……」
「あんたの乱れるとこ、たまらん……」

 低音の甘い声が僕をまた魅了する。請われるままにキスをして、再び沼へと誘われた。
 僕はあいつの股間でそそり立つものにむしゃぶりつく。僕の髪をかき混ぜながらつく、ため息がかかるようだ。邪魔するものは何もない。僕らは果てしない愛欲に溺れていった。



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