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第2部

第70話 兄弟

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 騒然とした楽屋を避け、僕は控室にお兄さんを招き入れた。初めからそれを予想して準備していたんだ。

「今、佐山を呼びますので」
「ありがとう」

 似てると言えば似てるかもしれない。でも、そうと言われない限り、兄弟とは思わないだろう。あまりに現在の環境が違い過ぎる。
 言ってしまえば簡単だけど、社会人としてそれなりに地位にあるお兄さんは、実年齢より貫禄があるし、どこから見ても常識人そのものだ。

「申し遅れました。私は佐山さとし、巧の四つ年上の兄です。貴方は、弟のマネージャーさんですよね?」
「はい。彼には世話になっています」
「いや、世話になっているのは巧のほうでしょう」

 と、お兄さんは笑う。あ、笑顔はなんとなく似てるな。

「あいつとはもう何年も会ってない。でも、扱いにくいのはわかってます」
「あ、いえ。そんなことは……ないです」
「そう? ほんとですか?」

 佐山はどちらかというと、扱いやすい。これは僕だけの感想かもしれないけど。

「はい」
「なるほどね。それは安心しました」


 僕はお兄さんを部屋に残し、急いで佐山のところに戻った。あいつはシャワーを浴びるところだったが、間一髪間に合った。

「えー。シャワー浴びるまで待たせろよ」
「そんなわけ行くかっ! じゃあ、それまで僕が相手しようか」
「えっ……わかった。すぐ行く」

 真面目な話、僕は佐山なしでもう少しお兄さんと話したかった。だけど、何年ぶりかに会う兄弟の再会を邪魔するのは気が引けた。にしても、なんでそんなに嫌がるのか。



「や、兄貴。久しぶりだな」
「巧! いや、ライブ素晴らしかったぞ。感動したよっ」

 佐山の顔を見るなり破願するお兄さん。やっぱり会いたかったんだよね、きっと。なんだか鼻のあたりがツンとしてきた。涙が出そうだ。

「そか。ま、来てくれて良かったよ。やっと……兄貴にまともな商売と思ってもらえるようになったってわけだ」
「巧、私は別に……」

 再会に興奮を表していたお兄さんとは違って、佐山は冷淡に対応した。おまえ、そんなふうに言うなよ……。

「そうだ。紹介しておくよ。俺をまともにしてくれた人だ」

 佐山は後ろにいた僕の背中を押す。

「公私ともに俺を支えてくれてる。挨拶はもうしただろうけど」
「ああ、もちろん……。おまえが信頼してる方だとすぐわかったよ」

 お兄さんは、僕にもう一度優しい視線を送ってくれた。僕も再び頭を下げる。

「倫。俺、少し兄貴と話あるから、先に店行っといてくれ。みんなが待ってるだろ」
「ああ、そうだな。ゆっくりでいいぞ。連中、すぐ酔っぱらうだろうから、急がなくて平気だ」
「すぐ行くよ」

 仙台の時とは違う。おまえの遅刻は僕がなんとでもするよ。今日は気の置けない連中ばかりだし。
 それでも僕は少し心配だった。何年ぶりかに会う兄弟なのに、随分と温度差がある。

 ――――大丈夫かな……。

 僕は後ろ髪を引かれる思いで、酔っ払いが集う飲み会の会場へ急いだ。



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