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第2部
第63話 隠し事
しおりを挟む打ち上げで、ドラマーの塩谷さんがこっそり打ち明けてくれた。ツアーが始まったころから、八神さんとはしっくりいかなくなってたと。それは他のサポートメンバーもなんとなく感じていたらしい。
理由はわからないけど、彼が佐山とのデュオを目論見だしたことも原因の一つじゃないかな。佐山にとっては、そんな微妙な音のズレも気になったはずだ。多分。
「もう1回……」
白々と空が明るくなってきた。余韻を楽しみながらウトウトと寝落ちする瞬間、またあいつが覆いかぶさってくる。
「ひと眠りさせてくれ。もう朝だけど」
一晩中、僕を責め立てたくせに、こいつはまだ足りないという。おねだりは僕の専売特許なのに、どういうことだ。
「ううっ。でもこんなに気持ちいいの久しぶりなんだよ。だから……」
「それは聞き捨てならないな。久しぶりとは心外だっ」
「あ、いや。いっつも気持ちいいけど、隠し事しながらだったからさ」
他事考えてたのはおまえの方っていうオチなのか。でも確かに、シンプルなのがモットーのおまえにとって、色々画策するのは結構負担だったんだろうな。
「最初から、僕に言えばよかったのに……。僕も無駄に悩まなくて済んだ」
唇を尖らせて訴えると、すかさずキスをしてくる。キスをせがんでんじゃないってば。
「んん……ばか……あ……」
結局お代わりされてしまった。
「そういえば、京都とかで電話してきたのも彼だったのか? おまえ、不機嫌だったろ」
ようやく朝シャワーを浴び、パンツを穿くことが出来た。あいつがまた発情しないよう、さっさと服を着なくては。
「え? ああ、あれは違うぞ。知り合い」
薄手のパーカーをサクッと着て、佐山の顔を覗く。この期に及んで、まさか新たな隠し事じゃないだろうな。
「佐山。おまえ、まさかまだ隠し事してんじゃないだろうな。また気持ちよくできなくなってもいいのか?」
脅しをかけて問いてみた。すると、あいつはわかりやすく狼狽える。
「いや、これはなんて言うか。色恋沙汰の話でもないし。隠してたんじゃなくて、いつ言えばいいかなって。うん、頃合いを見計らってただけなんだ」
「じゃ、それは今だ。僕は待つつもりはないよ。その知り合い。どういう関係なんだ?」
僕は佐山に詰め寄る。唇と唇が触れ合う近くまで寄り、あいつの髭剃りあとの顎をつんつんと指でつついた。
「え……と」
「言えば、きっともっと気持ちが良くなるぞ」
上目遣いで奴を見上げる。佐山の小鼻がぴくぴくしてる。面白すぎだろ。
「あ、兄貴なんだ」
えっ……!? 兄貴? お兄さん? 全く予想もしなかった解答が佐山の口から飛び出した。いや、だからって誰を想定してたわけじゃないけど。
「な、なんでお兄さんから電話があったらおまえは不機嫌で、しかも僕に隠すんだよ!」
至極当然な魂の叫び。なのにあいつはキョトンとして僕の顔を見下ろしている。そして俄かに口角を上げ、僕をベッドの上に再び押し倒す。
「なんだよっ。なにするんだ!」
「さっきより気持ち良くなるかな?」
「なるかぁっ! アホ!」
僕の容赦ない足蹴りに、さすがの佐山も床の上にひっくり返った。チェックアウトまで数10分。納得できる説明を聞くまでは、指1本触らせない。
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