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第2部
第51話 二人の距離
しおりを挟む佐山のイケてる写真を見るのが仕事なんて、なんて楽しくて有意義なんだろう。どれもみな、あいつのカッコよさが惜しみなく披露されている。山岸さん(カメラマン)は天才だな。カメラ目線のもそうじゃないのも胸キュンだけど、一番はこれかな。
「市原さん、本当に佐山君のこと好きなんですね」
ため息交じりに言うのは、僕らの担当水口さんだ。僕がずっと機嫌よく、にやけ顔してるのが気に障ったのかも。
相変わらずの大人な雰囲気のスーツが決まってる。こういう業界できっちりネクタイ締めてる人は珍しい。現場にはもう少しラフな格好でくるけど、彼が姿を見せると、途端にピシッとするんだよね。
「あ、失礼しました。役得だなって思って」
僕は正直にそう応えた。当の佐山は社長室に行った。社長に話があるってなんだろう。また僕に内緒で変な事言ってるんじゃないだろうな。佐山は音楽の話だから、心配ない、って言ってたけど。
「佐山君のことなら心配ないですよ」
僕の不安げな表情を読み取ったのか、水口さんが笑う。この方、本当に侮れない。
「水口さんが言うなら大丈夫かな。音楽性の話なら、僕にはわからない。社長が佐山の音楽を気に入ってくれたのが、こちらにお世話になるきっかけですから、相談する相手として間違ってはいないんですよね」
「そうそう。それにそんな大それたことじゃないですよ、きっと」
何を根拠にそう請け負うのかわからないが、水口さんが何も考えなしにそんなことを言うわけがない。だから、僕ももう気にするのをやめた。自分の仕事をしよう。
そのあとすぐに社長室から佐山が戻ってきた。短い時間だったから、本当に大したことじゃなかったのかも。改めて写真を決め、僕らは帰路に着いた。
「な、社長になんの話だったんだ?」
帰りも満員電車にならず、佐山は黙って吊革に両手をかけている。ただ混んでるだけの電車はお気に召さないようだ。
「ん? 気になる?」
「気になるよ。またろくでもないこと提案してんじゃないかと思ってさ」
水口さんに言われているから、それはそんなに心配してない。でも、僕に話さないことが気になってる。たとえ、チンプンカンプンなことだって、教えて欲しいよ。
「わ、信用ないな。でも、提案はしてきた」
「な、何を!?」
え、ちょっと待った。それ、大丈夫なのか?
「うん。ファンクラブの名称」
「え? マジで? なんて付けたんだよ」
「それは内緒。だからこそ、一人で行ったんだから」
ファンクラブの名称。おまえの提案、僕に隠すようなことか? これは、何かが秘密裡に行われている気がする。水口さんも知ってるんじゃないか。疑えば疑うほど、なんのことかわからなくなる。
ただ、社長はともかく、水口さんが心配しなくていいと言ってる限り、僕にとって悪いことではない気はする。少なくとも、僕や佐山にとって、間違った方向じゃない。
――――でも、隠されるのはやっぱり嫌だよ。まさか、八神さんのことじゃないよな?
僕は隣で口角をあげながら窓の外を眺める佐山を見つめる。何か楽しいことでも思い出したかのような表情だ。
「佐山、今、なに考えてる?」
僕の問いに、あいつはさらに締まりのない顔になり、耳元で囁いた。
「もちろん、あんたを喜ばせてるとこ。帰ったらベッド直行な」
耳たぶに息を吹きかけると、軽く唇を触れさせた。僕は思わず赤面して俯いてしまった。そうだよな。僕の気持ちわかってるおまえが、滅多な提案するわけない。信じなきゃ。
僕は少しだけ二人の間にある距離を縮めた。すると、すかさず佐山は僕の右側に体をくっつけてきた。乗客が増えてきた電車のなか、きっと誰も気づかないよね。くっつけられたあいつの体に、僕はまた少し体を寄せた。
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