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第2部

第50話 冷やし中華

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 静岡まで中5日という、微妙なスケジュール。僕は前乗りしないといけないので、実際は中4日だ。
 本当は熱海あたりでゆっくりするつもりだったんだけど、先日の食事会での散財が響いてそうもいかなくなった。佐山は不満そうだったけど、一緒に前乗りする約束で一旦僕らのアパートに戻った。

 やっぱり我が家に戻るとホッとする。一度帰ったのは悪くない選択だったかな。佐山も作業部屋でライブ録音を改めて聞き直している。
 帰ったその日に、あいつは僕をバスタブに沈めたし(ホテルのバスタブはどこも狭いとご立腹だった)、それなりに帰ってきたことに満足してることだろう。

「倫、明日、事務所行くんだよな」

 キッチンにいる僕に、作業部屋から顔を覗かせた佐山が聞いてきた。

「ああ、せっかくだから行ってこうようと思って。後半の打ち合わせと写真見てくる」
「なら俺も行く」

 写真というのは、ファンクラブ入会者特典の写真なんだ。普通はデータだけど、ここはアナログに写真集にしてプレゼントする。
 佐山はそんな需要がどこにあるって言うんだけど、先日撮ってもらった写真にはいいのがいっぱいあって、このまま僕のお宝だけにするのは勿体ない(本心は僕のだけにしたい)。水口さんからも提案があったので、どの写真にするかを決めるんだ。

「了解。なんか用事あるのか?」
「ああ。確認したいことがあってさ。電話でもいいんだけど、あんたが行くなら一緒に行こうと思って。満員電車に乗りたいし」

 あほか。この暑いのに満員電車なんか絶対嫌だ。おまえの痴漢ごっこに付き合えるかよ。

「残念だな。明日は10時着にしてるから、満員はないよ」
「えーっ。なんだよ……。混んでるだけの電車なんて最低だよ」

 言いながら、佐山は僕の傍にやってきて、背後からお尻を触る。

「ほらさ。こんなふうに触りたい……」
「邪魔すんなよ。おまえの好きなバリラーメン作ってんだから」

 昼ご飯用にバリ土産のラーメンを冷やし中華風にアレンジ中だ。

「ううん、いいじゃんか。明日ダメって言うんだから」

 相変わらず僕の都合なんかお構いなしだ。僕を後ろから抱きしめながら、大きな右手がエプロンの下に滑り込んでくる。

「あ……もう……」
「ファスナー降ろしていい?」

 いいわけないだろう。

「こら……やめ……」

 聞く前から降ろしてんじゃないか。あいつの手が侵入してきた。包丁持つ手が震えてくる。仕方なく手を止め、あいつの手首を持った。

「だから、やめろって……」

 振り向こうとすると、あいつは器用に僕の顎を持ち、唇を被せてきた。同時に右手の指は僕の制止をあざ笑うように擦りあげる。いつものビキニパンツには、恐らく形のよいテントが出来上がってることだろう。

「んっ……」

 こうなってしまえば、あいつの思うつぼだ。僕のお尻ではあいつの欲情が主張し続けて、それを受け入れるのを想像しちゃうとクラクラしてくる。結局無抵抗になってしまった僕は、佐山の手中に落ちる。

「あ……はぁっ……んん」

 キッチン台に身を預け、奴のやりたい放題をされてしまった。



「旨いなあっ、この冷やし中華! スパイス効いてるし、まさにバリ風冷やし中華だ。写真撮ったか?」

 相変わらずセックスの後はご機嫌だ。いつもはSNSのことなんか気にもしないのに。

「撮ったよ。気に入ってもらえてなによりだ」

 もちろん、僕だって上機嫌だよ。あいつの幸せそうな笑顔。僕にだけ見せてくれる笑顔だもの。



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