上 下
102 / 208
番外編 僕とあいつのいちゃバリな日

その6(倫目線)

しおりを挟む


 このホテルでの最終日。僕らは朝早くからプライベートビーチを散歩した。

 僕は海よりプール派だけど(砂まみれになるのが嫌)、ここではシュノーケリングで綺麗な小魚を見たり、バナナボートで子供みたいに騒いだりしてきた。
 その時の無邪気な僕らの歓声や佐山のはち切れんばかりの笑顔がスライドショーのように脳裏に浮かんでは消えた。
 
 潮風が気持ちよくて朝日が肌に与えた熱をさらってゆく。
 日焼け止めを塗っても少し黒くなった佐山の後を僕は無言で歩いた。

「あ、あそこで休もうか」

 ビーチにはマッサージを受ける時用のテラスが点々と置かれている。早朝はもちろん誰もいないから、僕らはそこに腰を下ろした。

「遊んだなあ」

 僕はため息をつくように口にする。佐山が肩に腕を回した。僕の鼓動が少し早くなる。

「俺もこんなに遊んだのは小学生の夏休み以来だ。頭空っぽになったよ。でも心は満杯」
「ええ、どういう意味?」

 僕があいつの方に顔を向けたのを佐山は逃さない。視界が塞がれたと思うと同時に熱いキスが降ってきた。少し厚めの唇が僕のそれに触れ、しなやかな舌も動員してゆっくりと責められる。

「んん……」
「心はあんたで満杯」

 何の照れもなく紡がれる言葉。僕はいつもメロメロになってしまう。お前を好きになってよかったって、毎回確認してしまうよ。
 僕はしばらくの間、あいつの甘いキスに溺れた。



 次に僕らが向かったのはバリ島の内陸部に位置するウブド。緑豊かな田園風景が広がる山間部だ。僕もここには行ったことがないので楽しみにしていた。
 ホテルは少しランクを落としたけど、小さいながらプールがついていたりで充分。天蓋付きのダブルベッドにバリ特有の家具が並ぶ、渓谷ビューの部屋を選んだ。
 こちらでは美術館に行ったり緑の中をウォーキングしたりと、ゆったり過ごすつもりだ。

「同じバリ島とは思えない風景だな」

 ホテルの部屋に続いたテラスに出て、佐山が深呼吸をしている。
 見渡す限り深い緑だ。渓谷には棚田もあり絶景と呼んでいい。それに景色ばかりか空気まで違う。気温も低く涼しくて、何より濃い酸素の味がした。

 食事はヌサドゥァでの教訓をもとに朝食のビュッフェはやめ、部屋のテラスで食べることにした。ロビーにはおしゃれな露店が何件か並ぶので、そこから食べたいものを買ってくるんだ。

 オーシャンビューのリゾートホテルよりもずっと落ち着いた生活が始まり、佐山がギターを抱える時間が長くなった。
 バリは神々の島と言われるくらい、それを彷彿とさせる建造物や装飾品、音楽が溢れている。ウブドに来てその感覚はより深くなる。目にする絵画も宗教を題材にしたものが多かった。
 きっとこれらのものは佐山にとって良い影響を与える。僕はそう確信していた。



つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺

toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染) ※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。 pixivでも同タイトルで投稿しています。 https://www.pixiv.net/users/3179376 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/98346398

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

処理中です...