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第1部
第82話 やめてはいけない。
しおりを挟む正月明けの旅行は散々考えてバリ島にした。ホテルなんかも僕が決めた。ここで佐山には十分な充電をしてもらうつもりだ。いい刺激になるといいな。
クリスマスライブまであと一週間。リハーサルも残すところあと一回になった。今日、僕らは会場の最終チェックに来ている。
「チケットは800枚完売です。当日はオールスタンディングで行きますから」
「了解です。非常口とか、そういうのはきっちりお願いしますね」
このライブハウスキャパでは最大値だ。大切なイベントであるクリスマス、佐山のライブを選んでくれたことに僕は感謝する。でも、僕は自信を持っているよ。来てくれたお客さんたちが満足してくれるって。
「倫、当日あんたはどこにいる?」
「え? ああ、多分舞台袖にいるよ。ちゃんと送り出してやるから」
楽屋からステージに向かう通路を抜けると、舞台袖に出る。そこでは音響さんたちが機械とともにいるスペースがあって、その横に僕らスタッフが控える場所がある。
ライブハウスの場合、大抵それが狭いけれど、まあ、椅子も置いてあったりで(座らないけど)、僕はいつもそこで佐山たちの演奏を見ている。
あってはならないことだけど、メンバーの誰かが倒れたり、お客さんがステージに上がってきたりというアクシデントに備えているんだ。でも、なんでそんなこと聞くんだろう。いつものことなのに。
僕らは旅行の準備も兼ね、西急ハンズに寄って買い物してから家路に着いた。海外旅行なんて付き合ってから初めてだ。自ずと話題はその話になる。リビングのテーブルにもガイドブックが何冊も広げられていた。
「水着もう一着買っていこうか?」
「あ、それなら現地で買おう。いい店あるんだ」
僕はまず、海辺のヌサドゥアに宿を取った。そこの近くにはショッピングモールがあって、何でも揃うんだ。ホテルにもあるけど、高いからね。
「太らんようにジム行かんとなぁ。泳ぐだけじゃ足りんよな」
「そうだな。ホテルのジム、毎日一緒に行こう」
「うんうん。そこのシャワー室はどんなかな」
また悪いことを考えているな。
「シャワーは部屋にもあるぞ」
「なんだよ。ふふん、何考えてるんだ?」
ヤラシイ表情で僕を見る。目が水平の三日月になってる……。
「おまえと同じことだけど?」
「それは相当スケベだな。へへっ」
何考えてんだよ、おまえは。呆れた表情でいると佐山が背中にもたれかかってきた。
「ううー。俺は妄想だけでもう逝きそうだ」
「それは簡単でいいな。遠慮しなくていいぞ」
「なんだよ。冷たいな……」
僕の耳タブを軽く齧ると、舌を入れてくる。
「こら……」
「感じるだろ? ほら……ほら……」
あいつの手が僕の感じるところをまさぐりだす。首筋を吸血鬼みたいに軽く食み、僕を挑発した。
「やめ……」
「ん? やめる?」
悪戯っ子のように尋ねるあいつに僕は言う。
「ばか……やめるなんて許さない……」
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