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第1部
第63話 おまえの城
しおりを挟むいいお天気だ。絶好の引っ越し日和。引っ越し業者の兄ちゃんたちが、手際よく僕らの部屋から段ボール箱を運んでいく。
だが僕らににとって、何よりも楽器を運ぶのが最も大事且つデリケートな作業だ。楽器を運ぶための車だけは事務所からツアー用のものを借り、ここに二人でギターやらアンプやらを積んでいった。ドライバーには助っ人が来てくれている。こういう時、曲がりなりにも組織に加入していることを有難く感じる。
「これで全部かな? じゃあ出発しよう」
「はい、よろしくお願いします。佐山、後でな」
「おお。先に行ってるよ」
楽器と佐山は運転手とともに先に行く。僕はアパートの荷物が全部なくなってから、最後のトラックとともに出発するんだ。
部屋に積まれていた段ボール箱はあっと言う間にトラックの荷台に吸い込まれていく。一通り掃除を済ませ、僕も新しい部屋へと出発した。
「お疲れー」
ようやくギターも荷物も運び終わり、未開封の段ボール箱が部屋を占領している。これからまた、これらの荷ほどきをするわけだけど、とりあえず一息つける。
「おお、ビールだ! さすが倫、わかってるな」
僕は佐山にビールを渡し、お願いしていた防音室を見に行った。
「佐山、ギター全部、ここに置けるか?」
僕のうしろを佐山が付いてきた。防音室には既にアンプやギターが何本か置かれている。僕がプレゼントしたオーダーメイドの黒いピックもケースに入って並べてあった。
「全部は厳しいかな。でも、ここいいな。俺の城」
なんて言ってご満悦だ。
「ここでいい曲沢山作ってもらわないとなー」
「仰せのままに……」
そう言って、佐山は僕を後ろからハグしてきた。早朝からずっと引っ越し作業をしてきた。人が大勢いたからあいつになりに我慢していたのだろう。そろそろかなと思っていたところだ。
「どうした? 佐山」
「意地悪言うなよ。俺はあんたの匂いと感触に飢えてるんだ。匂い嗅がせろ」
完全に犬になってる。まあ、僕もおまえの匂いに触れたい気分だ。僕もおまえ同様、獣だからな。
「新しい家だと匂いが違うからな」
「そうだよ」
いつの間にか手にはビールがない。大きな手で僕を抱きしめ、耳の後ろの柔らかいところにキスをした。僕はあいつの腕の中で反転し、首に手を絡める。佐山は僕の唇が視界に入るとすぐ、それを塞ぎにきた。あいつの少し厚めの唇が僕をうっとりさせる。柔らかい舌が割って入ってくると、条件反射でそれに絡ませた。
「んん……」
甘い甘いキス。防音室は新居特有の匂いがしたけれど、今はあいつでいっぱいだ。
佐山が僕の服を脱がしにかかる。シャツの次は跪いてベルトを外しファスナーを下ろした。
「おまえの城なのに……いいのか?」
「お姫様をお迎えするんだよ」
「姫じゃないよ……あっ」
佐山が口と手を使って僕のものを愛撫しだした。僕は狭い防音室の壁に寄りかかり、あいつの肩に手を置く。おまえの城だものな。好きにするといいよ。
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