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第1部
第50話 雑誌取材
しおりを挟むミニアルバムを出すと同時にライブをやる。
マイナーなジャンルだから、単独でツアーをするのはさすがに無理だけど、ギタリストとして名前が知れてる佐山だから、関東と関西でいくつかできることになった。旅行はまだまだ無理だけど、こうして外へ行けるのは刺激になる。
街は既に秋の装いだ。歩道を赤く染めた街路樹たちが彩る季節。僕たちは散歩がてら、事務所から歩くことにした。
今からメトロだと3駅分に当たるホテルに行くんだ。ホテルといってもラブホじゃないよ。雑誌のインタビューがあるんだ。「GUITAR FAN」っていう、とってもマイナーだけど、その界隈の人には老舗の雑誌だ。
「気持ちいいなあ! いい季節だ」
佐山はニットシャツにジャケットを羽織り、下はデニム。相変わらず手足が長くてカッコいい。何着ても似合うんだよな。
「そうだな。こんな都会でも、空が澄んでて高い」
そう言って佐山を見ると、クールなグラサンの下で口角が上がってる。ん? また何か良からぬ妄想をしてそうだ。
「倫、今日も可愛い」
「そりゃどうも」
臆面もなくこういうこと言うんだよな。もちろん嬉しいよ、赤面するほど。すると今度は僕の方ににじり寄ってきて、体を触ろうとするんだ。人前とか、あんまり気にしないからこっちが焦っちゃう。
「うー、脱がしたい。襲いたい」
「馬鹿、ほら、着いたぞ」
何枚か写真も撮影する。場所はホテル屋上のガーデンレストランだ。
「あー。さくっと済ませて、家に帰ろう、な」
な、じゃないよ。真面目にやってくれ。
「そうだな。きちんとやればすぐ帰れるぞ。僕も……早く帰りたいよ」
上目遣いで言ってみる。こうしてアーティストのモチベを上げることもマネージャーの仕事だ。多分。
取材は2時間ほどで終了した。インタビュアーは女性記者で佐山ファンの一人だ。既知の人なので安心だけど、佐山に気があるのバレバレなので複雑な心境。マスコミ関係の人には、僕らのこと教えるわけにもいかないし。
「市原さん、写真一枚入りませんか?」
佐山の写真撮影中、その女性記者、和泉さんがそう僕に声をかける。
「何言ってるんですか。時間の無駄ですよ」
「いえいえ、あの例のシュウさんのMV、評判じゃないですか!」
ああ……そういうこと。沖縄、石垣島で撮影したシュウ・マチダのMVは、とても評判がいい。そこに映っている僕もちょっとだけ話題になった。
あれは誰だってことになったんだけど、僕は絶対に公表するなとお願いしている。スタッフの一人で一般人ってことで名前も素性も伏せてもらってた。でも、顔を知ってる人から見れば一目瞭然だよね。
「なら、なおの事困ります。和泉さんも人が悪いな」
「あら、やっぱり。残念」
人のことをスクープするとかやめて欲しい。
「でも、佐山さん、相変わらず素敵ですね。惚れ惚れします」
うん。それは同意するよ。あのMVだって、僕のことなんかより、佐山の方がずっと話題になってたんだ。しかし、そのまさにハートマークになってる瞳。女性には興味ないとは思うけど、用心しておかないと。
「お疲れ様、じゃあ、お望み通り帰ろうか」
撮影も終わり、僕は佐山の元へ行く。すると、奴はまた一段と口角を上げて嬉しそうだ。なんだよ、そんなに嬉しいのか。また顔が熱くなる。
「帰らなくて大丈夫だ。ここに来た時、部屋予約した」
「ああ!? なにやってんだよ!」
そう言えば屋上に行く前、フロントに寄ってたな、こいつ。
「もうカードキーもあるから、ささ、行くぞ」
佐山は僕の手首を掴み、エレベーターへ駆け込んでいく。扉が閉まると同時に抱きしめられ、熱いキスが僕の唇を塞ぐ。
「んん……」
誰もいないけど、防犯カメラに映るじゃないか……。けれどあいつの蕩けるキスに、僕が抗えるはずもない。目指す階に着くまで、僕はあいつのエロ過ぎる唇に絡めとられていた。
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