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第1部

第49話 欲求不満

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 レーベル第一弾として、佐山のミニアルバムをリリースすることになった。今時だから、まずは配信なんだけど、やっぱりアーティストとしては、円盤残したいよね。
 サポートしてくれるメンバーも決まり、レコーディングが始まった。プロデューサーはここのレーベルの看板Pにお任せしたが、全ての曲を佐山が作っているので、二人プロデューサーみたいなものだ。

「よろしくお願いします」

 サポートしていた今までと違い、これからはお願いするほうだ。ミュージシャンにもスタッフにも気持ちよく仕事をしてもらいたい。僕は今まで培ってきたスキルの全てを注ぎ込もうと頑張った。
 みんなのスケジュール調整はもちろん、お弁当の手配、差し入れなども気の利いたものにしたい。そんな細々としたことも全て僕の仕事だ。事務所の若い子に手伝ってもらいながら、ハードな日々を駆け抜けた。

 5曲とも録音が終わり、後はミキシングのみとなった。ここからはプロデューサーさんやエンジニア、そして佐山だけとなるので、ようやく僕の激務期間の前半は終わった。
 スタジオの外で漏れ聞いた佐山の新曲は、今までにない味付けで、シャープでありながら色気のあるあいつらしいナンバーばかりだ。いずれも佐山のギターテクがふんだんに織り交ぜられていて、早くみんなに聞かせたい。

 そして激務期間後半。リリースが迫ると今度は営業が始まる。これこそ僕の腕の見せ所だ。事務所に任せきりにはできない。

「なんだか張り切ってるな。あんまり無理するな」

 最近はアパートでもPCに向かって仕事をしている。メールを捌くだけでもかなり時間が割かれるんだ。そんな僕に、自分の方こそ忙しい佐山がそう声をかけてくれた。

「楽しいから大丈夫だよ。佐山こそ平気か?」
「うーん、実は平気じゃない」
「え!? 体調悪いのか?」
「欲求不満でどうにかなりそうだ」

 おい……。そりゃ、今までみたいな夜も昼もなく重なってるわけにはいかないけど。してないわけじゃない。そんなの僕の方が無理だ。

「今は駄目かぁ?」

 ソファーの後ろから、佐山は僕をバックハグする。耳朶を唇と舌で愛撫しだした。

「こら……」

 あと少しで終わるんだけど……こうなっちゃうとやめないよな。僕も……欲しくなる。佐山の方は峠を越したのかな。でも、こういう激務のときこそ、お互いを欲しがらないとだめだよな。
 と、僕は色々理由をつけ、佐山を迎え入れる。あいつは喉を鳴らす猫のようにソファーの上になだれ込み、僕の唇を食む。

「一区切りついたら、また旅行に行こう。一日中、あんたとやるんだ」

 僕の上で服を脱がしながら、佐山はそう言う。

「いい提案だな」

 僕の鎖骨あたりを佐山の舌が這う。あいつの大きな手が僕の感じやすいところに触れ、僕はぴくんと体を跳ねさせる。

「ああ、いい……やっぱり、ギターより倫を抱いていたい」

 それは光栄だね。僕はギターを弾いてる佐山が好きだよ。だけど、こうして僕を抱いてるおまえはもっと好きだ。

「僕はいつでも、おまえのそばにいるから……あ……」

 魔法の指が僕の敏感なところをまさぐる。どんなに忙しくても、僕を求めてくれるおまえが一番大好きだ。


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