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第1部

第45話 沖縄編 4

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 陽が落ちる前に、僕らは水着になってホテルのプライベートビーチで遊んだ。撮影のクルーはまだ戻っていない。シュウさんは、夕焼けをバックに撮影するらしい。やはり主役は大変だ。

「倫、絶対そのTシャツ脱いだらだめだぞ」

 僕らはこの間買ったばかりの水着を着ているのだけど、佐山はそんなこと言ってくる。全く、誰が僕の裸なんか見たいと思うのか。

「わかってる。日焼けするの嫌だし脱がないよ。おまえも日焼け止め塗っとけよ」

 やはり南国沖縄の太陽熱は本土のそれとはけた違いだ。以前南の島で痛い目にあった経験がある僕は、そこのところ慎重なんだ。
 しかし、折角買った水着を無駄にしなくて良かった。この後の打ち上げもプールサイドでやるとのことだから、このままでも大丈夫だろう。



「市原さん、今度私が撮る映画に出演しませんか?」

 すっかり陽が落ちてから始まった打ち上げ。プールサイドでバーベキューだ。さすが売れてる人は違うなあ。例によってマネさん達と飲んでいると、監督さんがわざわざやってきた。

「いやいや、とんでもないです。僕は裏方が好きなので」
「ええ? でも勿体ないですよ!」

 監督の言葉に、他のマネさん達も「そうだ、そうだ」と追随してくる。彼らはいたって無責任なのだ。

「あの演技は、役者でも難しいです。それに市原さんには透明感もあって……」
「あれ、演技じゃないです。あの楽曲の力あってのことで……。言うまでもないですが、佐山の作品だから出来たことなので。でも、ありがとうございます。少しでもお役に立てたなら何よりです」

 僕はそう言うと、再びマネさん達の輪に入った。監督さんには申し訳ないけれど、僕はそんなこと全く望んでいないんだ。

「相変わらず市原さんは、佐山さんひとすじですね」

 他のマネさん達から、からかわれながらも楽しく飲んでいると、佐山がやってきた。

「倫、食べてるか?」
「ああ、もうお腹いっぱいだよ」
「俺ももう食べるのはいいや。プールで少し泳ごう」

 食べた分を消化したいのだろうか。このホテルのプールはラグーンのようになっていて、夜はライトアップされ、周りの植物たちとともに南国情緒あふれる幻想的な造りだ。一周すればいい運動になるだろう。

「いいなそれ。おまえ、飲み過ぎてないだろうな?」
「大丈夫だよ。明日もあると思って制御したから」

 本当かよ。まあいいや、佐山は酒に溺れるタイプではない。他のモノには溺れ勝ちだけど。僕らは小学生のように、勢いよく水に飛び込んだ。

「気持ちいいな」

 僕らは並んで泳ぐ。泳ぎの得意な佐山は僕を見ながら、横泳ぎをしている。僕はあいつの腕を掴んで引っ張ってもらおうとした。

「うわっ! 何するんだよ」

 佐山は僕をいきなり沈めにかかる。唇から漏れる泡が、ライトニングされた水面に向かって上がっていく。佐山が僕を追いかけ、そのままキスをした。なんだか人魚にでもなったようだ。

「うげっ! 苦しい」

 それもつかの間、苦しくなって慌てて顔を出した。

「ははっ! お、月が綺麗だ」

 遅れて顔を上げた佐山が空を指さす。そこには夜空を独り占めしたように光り輝くレモン型の月が浮かんでいる。

「本当だ」
「倫……」

 佐山が僕の耳元で囁く。大きな葉を持つ植物で、どこからも死角に入る場所だ。あいつがしたいことは手に取るようにわかる。僕もしたいから。
 ゆっくりと振り向くと、佐山の彫の深い整った顔があった。セクシー過ぎる唇が視界を占め、僕のそれを塞ぐ。

「う……ん」

 くぐもった声が僕の喉から漏れると、佐山の腕に力が入る。濡れた肌が卑猥さを増し、水着の下で蠢くものがまるで別の生き物のように主張を始めた。

「ああ、もう駄目だ。部屋へ戻るぞ」

 佐山が唇を触れさせたまま、ため息のようにそう吐いた。

「賛成」

 僕らはプールから部屋へと直行した。部屋のシャワーを浴びるのもそこそこに、ベッドの上で熱い時を過ごした。


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