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第1部
第35話 ギブはまだ遠い
しおりを挟む「で? 倫は彼女にどう言って別れたんだ?」
『僕が満足するまで』、の約束で僕らは求め合った。何度も僕は挑んで、佐山はそれに応えた。正直まだ足りなかったけど、頑張るあいつがちょっと気の毒になって勘弁してやったのだ。
シャワーを浴びて、すっきりしたところで、あいつがそんなことを聞き出した。
「なんだよ。そんなことどうでもいいだろ? 相手も呆れて、僕のことなんか笑い話のネタにしかなってないよ」
そうなんだよ。僕は嘘を吐くのが苦手で、彼女の前で正直に言ったんだ。
『ライブで会った男性に一目ぼれしました! ごめんなさい!』
ってさ。潔いだろ? 彼女はもちろん呆れたよ。男に取られるとは思ってもみなかったって。ただ、僕はまだ社会人一年生だったし、彼女は大学生。付き合い始めて日も浅かったから、もめることはなかった。
『ライブなんかに誘うんじゃなかった』
彼女は最後にそう言ってた。ちょっと涙ぐんでて申し訳なかったな。もう一年も前のことなんて、なんだか信じられないや。普通の恋愛をしていた僕がちゃんと生きていた世界。なんて遠くになってしまったんだ。
「まあ、運命だったんだな。俺との出会いは」
佐山は満足そうにそう言う。確かに僕の運命は大きく変化した。普通の結婚や家庭を持てないって、ちょっとだけ脳裏を掠めたけど、そんなこと、どうでもいいと思うくらいおまえを好きになってた。今もその気持ちは変わらない。
「他人事みたいに言うなよ。僕は……家族にもカミングアウトしてないんだから」
二つ下の妹だけには暴露したけど、親にはまだ言ってない。会社を辞めて怪しい? マネージャー業を始めただけでも断絶状態なのに、言えるわけがない。今はまあ、この断絶状態が有難いんだけどね。
「後悔してるのか? 俺、ご両親に挨拶に行けというなら行くぞ」
佐山が真剣な表情で僕を見た。僕は佐山のために淹れた珈琲を彼の前に置いた。
「後悔するほど馬鹿じゃないよ。挨拶ねえ。笑える」
スーツを着て、僕の両親の前で頭を下げる佐山を想像したら、なんだか可笑しくなってしまった。
「なんだよ。俺は結構真剣だぞ。あんたが望むなら、敵陣に踏み込むことも辞さない」
僕はムッとしている佐山を見て、心から嬉しかった。本気でそう思っていてくれることがとてもありがたかった。
「そうだな。いつか、きっとそんな日がくるかもな」
僕はカップを持ちながら、佐山の頬にキスをする。佐山はくるりと顔をこちらに向け、僕の唇を塞ぐ。
「ううん」
カップがフルフルと震えている。あいつはキスをしたまま僕の手からカップを取ってテーブルの上に置いた。
「まだ満足してないだろ?」
重ねたままの唇でそう佐山が囁いた。
「知ってた?」
「もちろん。俺は約束を守るから。ギブするまで抱いてやる」
折角着たシャツを佐山は脱がしてしまう。ボトム、ショーツと剥がしていくと、そのまま僕の体に身を沈めていく。僕の両足を上げさせ、敏感なところを指で撫ぜる。
「あ、うう…んっ」
ぬるぬるとした感覚が僕を貫き、僕はまた夢中になってあいつの髪をかき混ぜた。固くなったものを愛撫するあいつの舌が僕を何度でも天国に連れて行く。残念だけど、ギブはまだまだ遠いな。
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