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第1部
第26話 満員電車
しおりを挟む僕らは佐山の今後を決めるべく、色々と相談した。方向性も大体定まり、お互いの役割も認識。何とかやっていけそうだ。収入が安定するまでは、僕も内職すればいいし、二人なら何でもできる。
かと言え、今までお約束してきたお仕事はこなさないといけない。新規の仕事を取捨選択しながら、契約済みの案件をこなしていた。これは後々の蓄えにもなるので、疎かにはできない。
今日はその関係で、乗りたくもない満員電車に乗っている。仕事柄、通勤時間に電車に乗るようなことはないのでかなりつらい。会社員だった時も近場で自転車通勤してたから、満員電車には縁がなかったんだ。日本のサラリーマンは世界一忍耐強いな。これに毎日乗ってるなんて称賛しかない。
――――ん? なんだこれは。偶然かな?
僕はその日、少しぴったりしたパンツスタイルだった。首周り大きめゆったり夏ニットに合わせての選択だ。そのぴったりした尻に誰かが触っている。
僕の目の前にくっついている佐山かと思ったが、あいつは両手を上げていた。もちろん僕もだ。満員電車では男はこうあるべきと教えてもらったので、律儀に実行している。
――――まさかと思うが、痴漢かよ。ったく!
僕は仕方なく上げていた腕を下ろし、痴漢の手を取ろうとした。すると、唐突にお触りの手がなくなった。
「おっさん、俺のもんに触んじゃねえよ」
僕の後ろにいたおっさんは、佐山の逞しい腕に手を取られ、晒されていた。見れば、ごく普通のサラリーマン風の男性だ。魔が差したんだね。女の人と間違えた? ってことはないよな。
「す、すいません。出来心で!」
目の前のガタイのいい佐山に睨まれて、おっさんはさぞ怖かったろうな。すし詰め状態のなか、どうやって行ったのかと思うくらい人波を掻き分けて逃げていった。
『佐山ありがとう。でも、言い方ってあるだろ?』
僕はほとんど体を密着させている佐山に小声で言った。何故なら、周りの乗客が明らかに失笑しているからだ。
僕がおっさんに触られたことも彼らには面白かったんだろうけど、何より佐山の言い方が笑いを誘っているんだよ。冗談だとしても、僕は赤面するしかないじゃないか。
佐山はそれには何も答えなかった。口では。
――――あっ。ったくもう。
今度は僕の前を触る奴がいる。誰かはわかっている。僕の体に密着しながら器用に手を入れた佐山だ。
『お、おまえ……』
小声で言いながら、睨みつける。だが、佐山は素知らぬ顔で僕を触り続けた。しかも、痴漢したことあるんじゃないかと思うほど巧妙でイヤらしい。
――――わ……や、やめろ……。
僕は慌てて奴の腕を取る。だが、奴は僕を上から見下ろす感じでそれを諫める。口角を半分だけ上げて、なおも僕のものをいたぶり続けた。
『やめろよ、ほんと!』
小声で抗議すると、佐山はニヤリと笑う。
『嫌だ。他の奴に触らせるくらいなら俺が触る』
頭おかしいのかこいつは! 僕だって好きで触らせたんじゃないわ! てか、マジでヤバいって。どんどん固くなって自己主張しだす僕の股間。顔も体も熱くなって息があがる。
「〇〇駅ー、〇〇駅ー、お出口は右側です」
車内アナウンスが流れる。僕らの降りる駅だ。大きな駅だから、半数ほどの乗客がドアから吐き出されていく。僕らもその波に乗ってホームへと出た。
「おまえ! 時と場所をわきまえろよ!」
僕はニットの裾をぎりぎりまで伸ばして前を隠しながら吠えた。
「ん? 言いたいことはそれだけか?」
「ト、トイレ行くぞ。責任取れ」
駅には大手デパートが併設されている。僕らはそこの化粧室に飛び込んだ。十分ほど個室を占領したのは言うまでもない。
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