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第1部
第18話 シングルベッド
しおりを挟む夕食は海の幸、山の幸がふんだんの豪華料理だった。佐山はビールを僕はワインを頂き乾杯。1周年を祝い、極上の料理を楽しんだ。
この宿では自室で夕食を取る。誰とも会いたくない僕たちには最適だ。こんなところにファンがいるとは思えないけれど、二人だけの世界にいたい。今だけは。
「ダブルじゃないんだな」
佐山は寝室を見てそう呟く。宿はツインが基本だから、ダブルやセミダブルのベッドはないんだ。
「別々に寝ればいいじゃん」
僕はそう言ってみた。もちろん本心じゃない。
「へえ。それで本当にいいのか?」
悪戯っ子みたいな表情で僕を見下ろす。いや、いいわけないだろう。
「だって……おまえシングルじゃ狭いだろ。体デカいし」
「俺は嬉しいんだけど? シングルの方が倫とくっつけるから」
浴衣を着ている僕の足をさっと掬って、佐山は僕をお姫様抱っこした。
「な、何の真似だ!?」
僕は佐山より背も低いし体重も軽いけど、これでも180センチに70キロはあるんだ。それをこんな軽々と持ち上げられて、僕は思わず佐山の首にしがみつく。
「お姫様をベッドにお迎えしようと思って」
「誰がお姫様だよっ」
顔が赤くなる。
「暴れるな。落ちるぞ」
佐山に言われて僕はぴたりと止まる。大人しく抱き上げられ、佐山の顔を見た。
「お姫様、しもべにキスしてもらえませんか?」
「おまえ、しもべなの? 王子じゃないんだ」
僕は笑いながら、佐山の頬にキスをした。それが合図だったように、佐山を僕をベッドに放り投げる。そして間髪入れず自分もベッドに身を投げ出した。
「うわ!」
ベッドの上で僕はバウンドする。その波が落ち着くと、僕の上で四つん這いになった佐山と視線を交り合わせる。
「倫」
「はい」
今までにない真面目な表情だ。僕の頬に手のひらをあて、優しい笑みを浮かべた。
「好きだ。今まで、こんなにも人を好きになったことはない。ずっと、俺のそばにいてくれ」
一瞬息を呑む。そして解放される感情。
「佐山……僕も、僕もおまえが好きだ。好き過ぎるくらい好きだ」
僕はあいつの首に手を絡ませ自分のほうへと引き寄せる。佐山はゆっくりと体を落とし、口づけをしてくれた。いつもみたいに淫らなキスじゃなく。優しい誓いのキス。
「いつか、本当に式をあげよう。バリ島なんかいいな」
「佐山……本気か?」
僕はそんな形には拘っていない。日本の社会では、まだ同性婚は認められていないし、籍だって入れなくてもいい。……そりゃ、佐山倫、なんてものになってみたいと思うことはあるけれど。式とかも、夢見てなかった。だけど、確かに誰かに誓いたいって気持ちはある。僕がどれほど佐山を愛しているか、聞かせてやりたいから。
「マンネリ化したころの切り札にする」
「え!? 何言ってんだよ」
僕の目の前で、佐山は笑う。おまえが照れくさくてそんなこと言うの、わかってる。それに、僕たちにマンネリなんかあるはずないじゃないか。
いつもの淫らなキスが僕の体を熱くする。あいつの少し厚めの唇は本当に罪深い。僕はしっかりとあいつの背中に手を回す。浴衣を無造作に脱がし、佐山の愛撫が体中を幸せにしてくれた。
この宿に着いてから、僕らはもう何度も抱き合った。何回天国に行ったか数えられないくらいだ。
それでも、全然足りないんだ。
「足を上げて、もう少し」
「あっ……ううん……」
おまえもそうだろう? 僕をもっともっと味わってほしいんだ。
「佐山……さやま……」
切なげにおまえの名前を呼ぶ。おまえは僕の震える手をとって口づける。感じすぎると震えてしまう僕を、佐山は抱きしめる。優しく、強く。
夜は更けていく。何度も何度も僕はおまえの下で、上で、おまえの前で絶頂を感じ、果てた。気を失ったように倒れて気が付いた時は、部屋に朝の光が差し込んでいた。
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