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番外編 シャワーの後で
4 九条宗太郎 出張中の場合
しおりを挟む今すぐ真砂を抱きたい。
そう思えば、居ても立っても居られない。すぐ車のキーを持ち、愛車を駆る。あいつは少し怯えたような、でも実際は期待で胸いっぱいの目をして俺を待っている。
「いい子だ。真砂……」
あいつに俺は溺れる。虜にしてやるつもりが、まさか逆転してるのか? 愛らしい唇と誘う眼差し。このちょっとタレ目がやばいよな。長いまつ毛が縁取る淫靡な様がたまらん。
なのに……。車でちょっと行くわけにはいかなくなった! 俺の仕事のせいだけど。
こういうことは今までも何度もあった。出張が多いのは最初からわかってることだ。そういう場合の対処の仕方も俺はちゃんとわかってる。
「えっちなことしたい」
画面の向こうにいる真砂は真っ赤な顔して狼狽えてる。なんて可愛いんだろう。あざといのだとしても許せる。ああ、今すぐこの腕に抱きたいのに……。
フランスでの仕事は順調だし楽しい。一つ一つ積み上げてきたものが、形となっていく。この感じが俺は好きだ。
もちろん日本とは違って、資材が間違って届いたり、経験のない者が配置されていたりと問題は多々。けど、それもこの仕事の必然な部分と腹を括ってからは逆にウェルカムになってる。慣れとは恐ろしいものだ。
「ソウ、マルカム社から資材が来たんだけど、メニューと違うんだ。変更した?」
現場近くの事務所でモバイルを見ていた俺のところに、リールがやって来た。金髪青い目の美しい男だ。
外人には映画に出て来そうな『美少年』が普通にいるが、こいつはその中でも飛び切り上等だな。髪は絹のように透き通って、肌も日焼け知らずでお人形のようだ。
しかもこう見えて、20代後半のオクスフォード大学出エリートなんだよな。
「え? どういうことだ。変更なんかしてねえぞ」
リールはフランス人だが英語も話せる。俺はフランス語はイマイチなので、ここでは英語を公用語にしてもらってるんだ。ま、その英語も完全自己流だけどな。
結局、どこかのお偉いさん指定の資材が横入りしてきたのだと判明。俺は激怒して追い返した。
全く、なにを考えてるのか。俺が選んだ資材でないもののどこを信用しろと言うのか。
「あ、ソウ、来て来て! みんなで写真撮るって」
怒りを鎮めようと、スマホ画面の真砂の顔を見ていたらリールがやってきた。うん、天使のような笑みだな。
こういう時には真砂を抱きしめたいって思うけど、ちょっとは慰められた。
「ええ? 修学旅行気分だな。全く」
言いながら、俺は自然と笑顔になる。現地の連中とチームワークよく働くのは全てにおいて大前提だ。
俺はスマホを胸ポケットにしまい、みんなが待つ場所へと移動した。
「ねえ、ソウ。さっき何見てたの? 時々、ニヤニヤしながらスマホ見てるよね?」
リールは俺の隣でポーズをとる。シャッターが下りる寸前、俺の耳元で囁いた。
「ん? 気になるのか?」
写真タイムが終わり、メンバーは持ち場に着こうと足を進めていく。リールは俺の目を真正面に見て頷いた。
「うん。すっごく気になる。だって……」
「だって? どうした?」
きらりとサファイアのような瞳が光る。それは高山の雪解け水で出来た湖のように美しい反面、獲物を狙う豹の目のようにも感じた。
「ずっとあなたのこと見てたんだ。好きになったから」
久しぶりに俺の正直な身体がビビッと反応した。
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