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第71話 九条VS神崎

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 背後に人が迫る気配がした。神崎さんだ。

「どうしたの? 戸口で立ち止まって……」

 言い終わる前に息を呑む音が聞こえた。

「久しぶりだな。神崎さん」

 僕の後ろを眺めるよう、九条さんが首を傾げる。今まで見たことのないような冷たい顔だ。僕の心も零下を越えて冷えてきた。でもそんな表情も堪らなくカッコいい。

「どうしました? 金曜日にお目見えとは珍しい」

 僕の前にさっと出る神崎さんも負けてない。物凄いヤバイ場面なのに、僕はどこかワクワクしてる。両雄並び立つみたいなクライマックス、傍観者なら絶対見逃せないシーンだよね。

 ――――て、僕は傍観者じゃない。渦中ど真ん中だよ。

「真砂がジムを週2にしたと聞いて、俺はもしかしたらと危惧してたんだ。案の定で、ガッカリだよ」
「ごめんなさい」

 神崎さんの影に隠れてる場合じゃない。子供じゃないんだから。僕は再び九条さんの面前に出る。

「鮎川さんが謝る必要はありません。私が強引に誘ったんです。それに、もとはと言えば九条さんのいつもの不実が原因じゃないですか」

 神崎さんは『いつもの不実』のところをわざと強く言った。

「な、なんだとっ! おまえには関係ないだろう。そっちだろ、いっつも俺のもんにちょっかい出すの!」
「人聞きの悪いこと言わないでもらいたいですね。あなたの素行不良に悩んだ方がたまたま私のところに来るだけです」

 なるほど。やっぱり今までもこういうことあったんだな。わかりやすいーっ。
 どうやらジム以外にも彼らには共通点がありそうだ。おもしれえ。

「それに、高校時代のことを持ちだされても困りますね」
「え? 二人は高校のとき同窓だったの?」

 思わず僕は口を挟んでしまった。

「まさか。俺がこいつと同窓なわけないだろ。俺は由緒正しい九条家の一族だ。こんな成金野郎が俺と同じ学校に行けるわけがない」
「ええ、私は成金ですがなにか? 自らの才知と努力で今の地位を一から作り上げました。ご先祖様のご威光で何不自由なく暮らしてこられた方にはご理解できないでしょう」

 そうなんだ。九条さんちが何やら凄い家柄なのはわかってたけど、これは双方、かなりのコンプレックスを持ってたな。

 ――――それでもって高校時代はどこか別の場所で知り合ったってわけか。

 僕はまるで他人事のように二人を観察し始めた。てか、今の僕はこの二人のなかに入ってない。僕のことなんかそっちのけで、二人は言い争いをしてるんだ。ヤバイ、ワクワクしてきちゃった。

「真砂、こいつは人のものを欲しがる外道だ。こんなやつに抱かれるなんて俺は我慢ならん。けど、俺にも非があったのはわかってる。今すぐこいつと別れて俺のとこに戻って来い」

 あれ、突然にもお鉢が回ってきちゃった。

「冗談でしょ。それであなたが改心するとこなんか見たことないです。鮎川さん、こいつこそ見初めた相手は見境なくやっちゃう外道です」

 二人がこれほど自らの感情を露わにしたのは見たことがなかった。僕は珍しいものを見るように、二人のイケメンを交互に見つめた。


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