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第55話 報告の続き
しおりを挟む「九条さんが戻ってきて、表情変わりましたね。幸せそうで、なんか妬けちゃいます」
火曜日のジム。舞原さんがマシンの設定をしながら口を尖らした。
「そんなに変わったかな」
「変わりましたよ。タレ目が余計に下がってますよ」
「えっ!? ホント? みんなは可愛いとか無責任に言うけど、僕はこの目は好きじゃないんだ」
僕は自分の目じりを指で上げる。言われるほど垂れてないと思うけど、二重瞼もパッチリ系じゃないからなあ。
「何やってんですか、あははっ。鮎川さん、可愛すぎです」
「可愛い言うなよ。僕は一応舞原さんより年上だからね」
だからなんなのか。と言われたらなんも言えないけど。今は指導してもらってる身だし。
「はいはい。けど、年下が年上可愛いと思ったって悪くないでしょ?」
――――え……それはそうだけど。どういうこと?
「ほら、始めますよ、鮎川さん」
「あ、ああ。うん」
彼が何を言いたかったのか、僕はよくわからなかった。言われるまま、グリップをしっかり握りワイヤーの先に付いた重りを引き上げた。
久しぶりにエアロバイクを九条さんと並んで漕ぐ。帰国して一週間、ようやく九条さんのいる日常に慣れてきた。多分それは、九条さんも同じだ。
仕事の話から、僕はようやくあの日中途半端になった報告の続きを言えた。
「へえ、シリーズ化かあ。俺は疎くて申し訳ないが、真砂にとってそれは凄いことだってのは伝わってるぞ。俺も10冊くらい買うっ」
「えっ! いやいや、それは……大丈夫です」
アライジャはロン毛の頃の九条さんそのものだからなあ。滅茶苦茶カッコよく描いてるけど、ちょっと恥ずかしいや。
「僕の手元に何冊か来るから、サイン入りで差し上げます」
それでも隠しているのも限界だ。ここは素直に僕の本業を晒すことにしよう。
「そうか? それは嬉しいが。でも貢献したいから買う」
貢献してくれるとか、胸が熱くなるよ。
「ありがとう。マジ嬉しい」
こみ上げるものがある。けど、本当はあの日、この感動はあるべきだったんだ。いつまでもしつこいけど、それだけはやっぱり残念に思えた。
よっぽどの好き者である九条さん(と僕)は、この日もシャワールームの個室に二人で籠る。いつもの荒々しい彼の愛撫に僕は身も心も溺れてしまう。
「あ、ううん……っ」
「真砂……こっち向いて。ほら……」
バックハグしながら僕の唇を求める。右手でまさぐってる僕のものは既に限界、爆発寸前になっていた。
「九条……さん……」
シャワーの湯水で汗もよだれも洗い流されていく。激しいキスを受けながら、僕はまた、悦楽の瞬間を味わった。
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