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第35話 知らん顔

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 向こうの夜だから、こちらは朝。折角の早起きだから締め切りが早まった『砂漠の月』を書くチャンスだ。だから、あっさり終わったビデオ通話が有難いのは有難い。

 ――――けど、なんか今日は淡泊過ぎるよ。まあ、毎度濃厚なのも疲れるけれど。

 もう飽きちゃったのかな。そりゃそうだ。実際触れ合えるわけじゃないものね。
 妄想逞しい僕だって物足りないのは本音だ。それに今日は仕事忙しくて疲れてたんだよ。少しハイになるくらいだったし。

 ――――この子……九条さんとは仲がいいんだろうか。

 僕はダウンロードした画像を引き延ばしてみる。外人の綺麗な男性に鼻ぺちゃの僕が叶うわけない。本家本元の美少年だよ。と言っても、二十歳は過ぎてるんだろうけど。
 作業着姿は色気がないはずなのに、ウェストで両端を結びオシャレに着こなしてる。

 九条さんが淡泊だったのは、彼のせい? いやいや、まさか。そんなこと考えるなんて僕は酷い奴だな。自分はここで、神崎さんのこと気になってるくせに。

 ――――そんなだから、九条さんが浮気してんじゃないかなんて思うんだ。

 うん。もう神崎さんのことは考えない。ナギのキャラ付けにいいインスピレーションを与えてくれて感謝してる。それだけだ。

 画像を九条さんのとこだけ切り取って、別に保存した。服着てる九条さんが見たくなった時はこれを見ればいい。
 僕は満面な笑みを向ける九条さんに笑いかける。早く会いたい。会って、独り占めするんだ。ご本家の美少年にだって、誰にも触らせないんだから。とつぶやきながら。




 なので。僕は金曜日、平常心を鎧にしてジムに向かった。神崎さんがなにか言ってきても無視無視。第一向こうは
『いつでも来ていいんです』と、待ちの姿勢なんだ。僕が知らん顔してたら諦めるだろ。

「鮎川さん、おはようございます……あの」

 舞原さんが爽やか笑顔で近づいてきた。けどすぐに眉を顰める。

「おはよう。なに、なんか顔についてる?」
「いえ……でも。なんか目つき変ですけど何かありました?」

 な ん だ と。君のアンテナは過敏過ぎないか? いや、どんな目つきだよっ。

「なんもないよ。失敬だな、相変わらず」

 図星を突かれた感満載だけど、一応僕は憮然とする。目つき、そんなに変だったかな。

「あはは、すみません。じゃあ早速始めましょう」

 舞原さんに導かれ、またまた新しいマシンを前にする。

「これ、もう使えるのかな」
「大丈夫ですよ。もうすぐふた月になるじゃないですか。真面目に通われて、僕は嬉しいです」

 そうか、もうそんなになるのか。よし、舞原さんが言うなら大丈夫だろう。筋肉増量のために今日も頑張ろう。
 舞原さんと言えば、確か初めの2週間だけ担当が着くと編集長が言ってたような。まだずっとサポートしてくれてるけどいいのかな?

 ――――まあ、僕が来る日はいつも人少ないからな。僕としては助かってるから敢えて聞かなくていいか。

 たまに面倒くさい時あるけど、今は九条さんもいないし舞原さんと話すのは嫌じゃない。当然ためになるし。
 僕が新しいマシンに手こずりながらもガチコンガチコン頑張っていたら、目の前にライトブラウンの髪が。長身で脚長のイケメン、神崎さんだ。

 ――――え? なんだろ。

 神崎さんは僕をちらりと見た。確かに見た。けど、口角を少し上げただけで何も言わずに去って行った。いや、別にそれで構わないんだけど。こっちはトレーニング中だし、話しかけられても迷惑だ。

 ――――でも今までは、それでも構わず寄って来たじゃないか。

 知らん顔するつもりが知らん顔されて……。完全に向こうの戦略なんだろうけど、僕はまんまと引っ掛かっていた。



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