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第6章
その8
しおりを挟む「大丈夫なのか……本当に」
「あれ? マジで心配してくれてるの? だったら……」
「お、おまえの心配じゃない。下手を打ったら、あいつに迫るすべを失うから……」
「へええ、まあいいけど。それなら俺が失敗したって関係ない。政永様は次の手を打つだけだからさ」
「え、そうなのか……」
元愛人なのに、そんな使い捨てみたいな。いや、お庭番などそういうものだが。隼は釈然としない思いを抱える。
「私は……おまえを使い捨てのようには考えていない。仲間とともにいくのであっても、無事に戻ることを……第一にしろ……」
なんて先ほどとは真逆を口にする。
「ハヤさん……うん、わかった。でも、必ず奴らの息の根を止める材料は仕留めてくるから」
今度はまぜっかえすことをしなかった。素直に隼の言葉が心に響いた。
――――だから、好きなんだよね、ハヤさんのこと。
夕闇が迫るころ、紫音は長屋を出立する。
「もしもの時は笛を吹くから。そしたら一条様と一緒に突入して。俺らの仲間もすぐに加勢に来る手はずになってる」
「ああ。わかっている」
もしもの時、それは彼らの命が危うい時ではない。あくまでその場で取り押さえられる場面になればだ。ただの賊として捕まっただけでは少なくとも大目付は加勢に来ることなどない。
「だが、おまえが危険な時はどうすればわかるのだ?」
「それは……」
紫音は言い及ぶ。
「そんなの決めてないよ。危険なめには合わないし」
「じゃあ、今すぐ決めろ」
真剣なまなざしで迫られ、紫音はここで誤魔化すのは難しいと判断したのか、仕方なさそうに言葉を繋いだ。
「俺たちがドジを踏めば、それなりに屋敷はざわつくと思うけど……そうだね、派手に築山から花火でも上げようかな」
「おまえ……」
「ほんとだよ。でも、俺はそんなドジ踏まないから。安心して」
今度は逆に紫音から真剣なまなざしを向けられる。隼もそれ以上はさすがに言えない。
――――こいつもお役目として行くのだ。信用してやらないと。
「わかった。ホントにまずいと思ったら、花火でも笛でもなんでもいいから合図しろ。いや、お屋敷の様子がおかしかったら、私は勝手に踏みこむから心配するな」
隼の言葉が終わって一瞬の間。紫音は隼に抱き着いた。
「おい、こら……」
「ありがとう。ハヤさん……」
いつもなら、即効振りほどくのだが、隼はそうしなかった。代わりにとんとんと背中を軽く叩いてみせた。それからゆっくりと体を離す。
「じゃあ、あとでね」
紫音は新妻姿のまま、長屋を後にする。彼が本来の姿、忍び装束に変わるまで半時、夜の闇はすぐそこまで迫ってきていた。
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