上 下
36 / 53

甘い恐怖

しおりを挟む
「キャいやああああ!」
 女は怪鳥音を発すると、バク転連発で俺との距離を取り、アウト戦法かと思わせておいて、今度はトンボ連打で俺との距離を一気に詰めて来た。トリッキーで目まぐるしく動き回って、どんな戦法を取るのか全く読めない。
「キャいやああああ!」
 女は俺の懐の内部に侵入してきた。酒の影響もあってあっさりと侵入を許してしまった。小さな身体の相手、案外攻撃の手や足を出しにくい距離だ。
 しまった!侵入されたことに驚いていると、
「う、ぐ、が、はっ」
 ボディに食い込みそれでいて焼けるような痛みを連発で感じてしまっていた。とにかく打撃が速かった。狙いも的確でパンチを打つ手とキックを打つ脚の速度が尋常でないほど速い。目には見えているけど、頭の中で反応がついてけていない。
 酒が入っていなくても勝てるかどうか。ボディへの集中攻撃に俺は吐き気を感じて、嘔吐を懸命に堪えた。これも酒の悪影響がダメージを増幅させている。
 ボディの痛みに片膝をついてしまうと、そこへ待っていたのが顔面へのパンチのまとめ打ちであった。1発大きなパンチは狙ってこない。ただただ正確で高速度のパンチが次々に俺の顔面へ炸裂してくる。
「うが……グガッ!」
 パンチを喰らいすぎて意識が朦朧としてくると、強烈なキックの一撃を顔面で受けてしまった。顔面へ爆発的な痛みが襲ってきて泣きそうになってしまったのは、麻袋の山へ吹き飛ばされてしまったその直後であった。

「流石はブラックモア家の秘蔵っ子、ルーシーだけあるぜ!俺が敵わなかったあの強いアミーゴを、あっさりとのしちまいやがった!」
「あのアイアンバトラーの愚息も強いが、ルーシー様はもっと強かったってことだ!」
「ルーシー様万歳!ブラックモア家に栄光あれ!」
 黒づくめや底ザどもが浮かれ上がる。ムカつく、と思えるほどの余裕さえ今の俺にはない。ルーシーという名前らしい女の打撃による痛み、実力差からくる恐怖に身体はおろか、頭さえまともに働いてはくれない状態であったのだ。
 それにしても、ブラックモアはこんな恐ろしい身体能力と格闘技の実力を身につけた生体兵器を作り上げていたのか。今の俺ではシラフでも彼女には勝てないだろう。ライムも。ベスぐらいの実力でなんとか勝負になるのか……。
 ルーシーほどの実力をもつ拳闘士を100人も作られたら、スクエアジャングルはブラックモアの手に落ちてしまうだろう。なんとかしなけらば、って今は俺がこの窮地を脱しなければならないけど。

「いくらバトルとはいえ少しやりすぎてしまったわ。とても怖がっているわね。当然よね。もうパンチもキックも打たないし、こんなことぐらいで痛みが引くとは思えないけど、あたしの胸の谷間でしばらく休むといいわ」
 頭部へのダメージから、ルーシーの言っていることが理解できなかった。聞き取れているのかも怪しかったんだけど……。
 腫れ上がり、鼻と口から出血も夥しい俺の頭部を、ルーシーは優しく両手で包み込んでくれて、さらには胸の谷間へと顔を誘い抱きしめてくれたのだ。
 恐ろしいほど強いルーシーであるが胸のボリュームはかなりある。地球で言うところのトランジスタグラマーであるのだ。
 顔がルーシーのおっぱいに触れると、顔中に激痛が走った。離れようとしたけど、それを許さなかったのが彼女のおっぱいの柔らかさ、そして思考も痛みさえ溶解させてしまうような甘く温かな匂いであったのだ。
 匂いも柔らかさも普通の女のものではない。いや、そう感じる。本能がそう告げる。ある程度女の人との性交渉がある男だったら、もっとはっきりと分かっていると思うけど、残念ながら俺はね。
 これもブラックモアにより肉体が改造された結果なのだろう。強さだけではない、女の色香、美しさ。これは本当に恐ろしいことだと思う。

「自分より強い女のモノであったとしても、すごく気持ち良いし、心地も良いよね?」
 俺はルーシーの胸の谷間の中で頭を立てに頷いてしまう。こういう匂いを危険な香りと言うのだろう。それゆえに全く反撃できないのだ。特に女性経験のない俺には……。
「そう言ってもらえて良かったわ。このままこの胸の中で眠らせてあげるわ。永遠にね」
 え?そう思った時には、もう腕はルーシーの両脚に捕らえられてしまっていた。さらに、彼女は両脚で俺の腰を締めげにきている。レッグによるベアハッグ。凄まじい脚力だ……。

「むぐぐ……」
 窒息と強烈な締め付け。このW攻撃に俺の身体はほとんど動かすことができなかった。呼吸が巨大なふたつの胸、全てを吸収してしまう乳房により完全に奪われ、どんなに痛くて苦しくても悲鳴を上げることすら許してくれない。
 このままでは窒息死させられる。その前に、身体が真っ二つにされて死んでしまうのか。
 ぐああああ……。ほ、本当に苦しい……。こう言う死に方、男の本望などと言われているし、俺も少し憧れていたけど、実際は、苦しいだけだ、辛いだけだ。
 うああああ……。誰、だか、た、す、け、て。く、るし……。あ……あ、あ、あ、……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【前編完結】50のおっさん 精霊の使い魔になったけど 死んで自分の子供に生まれ変わる!?

眼鏡の似合う女性の眼鏡が好きなんです
ファンタジー
リストラされ、再就職先を見つけた帰りに、迷子の子供たちを見つけたので声をかけた。  これが全ての始まりだった。 声をかけた子供たち。実は、覚醒する前の精霊の王と女王。  なぜか真名を教えられ、知らない内に精霊王と精霊女王の加護を受けてしまう。 加護を受けたせいで、精霊の使い魔《エレメンタルファミリア》と為った50のおっさんこと芳乃《よしの》。  平凡な表の人間社会から、国から最重要危険人物に認定されてしまう。 果たして、芳乃の運命は如何に?

[完結]幻の伯爵令嬢~運命を超えた愛~

桃源 華
恋愛
異世界アレグリア王国の 美しき伯爵令嬢、 リリス・フォン・アルバレストは 男装麗人として名高く、 美貌と剣術で人々を 魅了していました。 王国を脅かす陰謀が迫る中、 リリスは異世界から 召喚された剣士、 アレクシス・ローレンスと 出会い、共に戦うことになります。 彼らは試練を乗り越え、 新たな仲間と共に 強大な敵に立ち向かいます。 リリスとアレクシスの絆は 揺るぎないものとなります。 力強い女性主人公と ロマンティックな愛の物語を お楽しみください。

僕のおつかい

麻竹
ファンタジー
魔女が世界を統べる世界。 東の大地ウェストブレイ。赤の魔女のお膝元であるこの森に、足早に森を抜けようとする一人の少年の姿があった。 少年の名はマクレーンといって黒い髪に黒い瞳、腰まである髪を後ろで一つに束ねた少年は、真っ赤なマントのフードを目深に被り、明るいこの森を早く抜けようと必死だった。 彼は、母親から頼まれた『おつかい』を無事にやり遂げるべく、今まさに旅に出たばかりであった。 そして、その旅の途中で森で倒れていた人を助けたのだが・・・・・・。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※一話約1000文字前後に修正しました。 他サイト様にも投稿しています。

少女格闘伝説

坂崎文明
青春
 不遇な時を過す天才女子プロレスラー神沢勇の前に、アイドル歌手にして、秋月流柔術の使い手、秋月玲奈が現われる。 人狼戦記~少女格闘伝説外伝~ https://www.alphapolis.co.jp/novel/771049446/455173336

アルゴノートのおんがえし

朝食ダンゴ
ファンタジー
『完結済!』【続編製作中!】  『アルゴノート』  そう呼ばれる者達が台頭し始めたのは、半世紀以上前のことである。  元来アルゴノートとは、自然や古代遺跡、ダンジョンと呼ばれる迷宮で採集や狩猟を行う者達の総称である。  彼らを侵略戦争の尖兵として登用したロードルシアは、その勢力を急速に拡大。  二度に渡る大侵略を経て、ロードルシアは大陸に覇を唱える一大帝国となった。  かつて英雄として名を馳せたアルゴノート。その名が持つ価値は、いつしか劣化の一途辿ることになる。  時は、記念すべき帝国歴五十年の佳節。  アルゴノートは、今や荒くれ者の代名詞と成り下がっていた。 『アルゴノート』の少年セスは、ひょんなことから貴族令嬢シルキィの護衛任務を引き受けることに。  典型的な貴族の例に漏れず大のアルゴノート嫌いであるシルキィはセスを邪険に扱うが、そんな彼女をセスは命懸けで守る決意をする。  シルキィのメイド、ティアを伴い帝都を目指す一行は、その道中で国家を巻き込んだ陰謀に巻き込まれてしまう。  セスとシルキィに秘められた過去。  歴史の闇に葬られた亡国の怨恨。  容赦なく襲いかかる戦火。  ーー苦難に立ち向かえ。生きることは、戦いだ。  それぞれの運命が絡み合う本格派ファンタジー開幕。  苦難のなかには生きる人にこそ読んで頂きたい一作。  ○表紙イラスト:119 様  ※本作は他サイトにも投稿しております。

伊藤さんと善鬼ちゃん~最強の黒少女は何故弟子を取ったのか~

寛村シイ夫
キャラ文芸
実在の剣豪・伊藤一刀斎と弟子の小野善鬼、神子上典膳をモチーフにしたラノベ風小説。 最強の一人と称される黒ずくめの少女・伊藤さんと、その弟子で野生児のような天才拳士・善鬼ちゃん。 テーマは二人の師弟愛と、強さというものの価値観。 お互いがお互いの強さを認め合うからこその愛情と、心のすれ違い。 現実の日本から分岐した異世界日ノ本。剣術ではない拳術を至上の存在とした世界を舞台に、ハードな拳術バトル。そんなシリアスな世界を、コミカルな日常でお送りします。 【普通の文庫本小説1冊分の長さです】

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

処理中です...