145 / 181
145 千葉にて(2)
しおりを挟む
中年男が部屋から連行されていくのを見送ると、怜は溜息をついた。
「お腹空いた……」
「おつかれさま~」
残っていた隊員が、怜の肩を気さくに叩いて部屋を撤収していく。
「おつかれさまでした~。皆さん、気をつけて帰ってください。後処理の隊は?」
「下で待機してます。交代します」
「よろしくお願いします」
礼儀正しく言う怜に、他の隊員も手を振って出ていく。
「おう怜、おつかれ」
一番近くにいた隊員が、ゴーグルを外して声をかけた。縦も横も怜の倍はありそうなガタイだ。
「おつかれさまです高田さん。今回もありがとうございます」
「腹減ったな。帰りどうするんだ?」
肩の力を抜き、怜は微笑んだ。
「警備が迎えに来ているはずなんですよね。直接帰ります。高田さんもこのまま部隊と一緒に?」
「だな。埼玉も、もう少しで制圧できそうなところだから、気が抜けねぇ」
「引き続き、よろしくお願いします」
「おう。車まで警備してやる」
「ありがとうございます」
怜は微笑んだ。薫が信頼しているメンバーのひとりとあって、高田は面倒見が良かった。細かいことを気にしない豪快な性格は、一緒にいて気持ちがいい。
高田の方も怜が気に入っており、今回のような大掛かりな作戦の時には率先してサポートに入っている。
自分のヘルメットを脱いだ高田は、それをカポンと怜にかぶせた。
「後で報告を送っておく。とりあえず行くぞ」
「はい」
素直に怜がついてくるのを確認すると、高田はアサルトライフル片手に部屋を出た。
怜は普段、ヘルメットどころか防弾ベストも着ない。だいたい黒のジャケットに白いTシャツ、ジーンズというのが定番だった。下手するとジャケットも着ない。人前に出る時に常に無防備な格好でいるのも怜の仕事のうちであり、高田はそれをよく理解している。
すべての人間の視線と意識を怜に集中させる。
薫が怜に課した役割について、腹心の部下たちは少し厳しいのではないかとさえ思っていた。
今、『東京』は荒れている。悪さをしている者は、自分たちのねぐらをどんどん追い出されている状態だ。他の地域に戻ればすぐ警察に捕まるような連中が、『東京』でも居場所をなくしつつある。そいつらの敵意をすべて怜に集め、警察をはじめとした行政機関は、陰で着々と仕事を進めていた。
怜は自分の役を完璧にこなしていた。作戦中は傲慢な態度で敵を挑発し、誰も目が離せないカリスマ性を放つ。自衛軍は基本的にカーキ色の装備だが、そのド真ん中を真っ白なTシャツで動き回る怜は、いついかなる時も攻撃される危険と隣り合わせだった。
まともな人間なら耐えられない仕事。それなのに怜は不思議なほど動じなかった。むしろ自分の立場に馴染むにつれ、怜の態度は堂々としたものになっている。部隊全員のリーダーとして当たり前に指示を出し、生き生きと敵を追いつめる。
隠されていた才能は、いまや全開だった。こうした怜の素質を早い段階で佐木が見抜いていたとすれば、その眼力には感服するほかない。
高田はそんなことを考えながら、屋敷の入り口に向かった。他の者と連携して狙撃を警戒し、迎えに来た黒いセダンのドアを開けてやる。
「ありがとうございます。高田さんも気をつけて」
「おう。おつかれ。ゆっくり休め」
「おやすみなさい」
おまけにこれだ。作戦や仕事以外では、怜は相も変わらず礼儀正しく、謙虚な態度を崩さなかった。行動を共にする者に対して気遣いを忘れず、命を粗末にするような作戦は絶対に立てない。
最初はトラブルもあったが、今や隊員たちは怜を可愛がるようになっていた。
佐木は、どこまでわかってて怜を中心に据えたんだろうな。高田はそんなことを考えながら、怜がセダンの後部座席に滑り込むまで警戒を続ける。
「ありがとうございました」
静かな礼と共に返されたヘルメットを受け取り、車の中を覗き込む。
怜の奥には見覚えのある姿が、影に沈むように座っていた。高田はそいつにも手を軽く振ると、ドアを閉めた。
ま、うまくいってるのなら、文句をつける余地はねぇ。
からかうような笑みを浮かべたまま、高田は部下たちへ撤収の指示を出すために振り返った。
「お腹空いた……」
「おつかれさま~」
残っていた隊員が、怜の肩を気さくに叩いて部屋を撤収していく。
「おつかれさまでした~。皆さん、気をつけて帰ってください。後処理の隊は?」
「下で待機してます。交代します」
「よろしくお願いします」
礼儀正しく言う怜に、他の隊員も手を振って出ていく。
「おう怜、おつかれ」
一番近くにいた隊員が、ゴーグルを外して声をかけた。縦も横も怜の倍はありそうなガタイだ。
「おつかれさまです高田さん。今回もありがとうございます」
「腹減ったな。帰りどうするんだ?」
肩の力を抜き、怜は微笑んだ。
「警備が迎えに来ているはずなんですよね。直接帰ります。高田さんもこのまま部隊と一緒に?」
「だな。埼玉も、もう少しで制圧できそうなところだから、気が抜けねぇ」
「引き続き、よろしくお願いします」
「おう。車まで警備してやる」
「ありがとうございます」
怜は微笑んだ。薫が信頼しているメンバーのひとりとあって、高田は面倒見が良かった。細かいことを気にしない豪快な性格は、一緒にいて気持ちがいい。
高田の方も怜が気に入っており、今回のような大掛かりな作戦の時には率先してサポートに入っている。
自分のヘルメットを脱いだ高田は、それをカポンと怜にかぶせた。
「後で報告を送っておく。とりあえず行くぞ」
「はい」
素直に怜がついてくるのを確認すると、高田はアサルトライフル片手に部屋を出た。
怜は普段、ヘルメットどころか防弾ベストも着ない。だいたい黒のジャケットに白いTシャツ、ジーンズというのが定番だった。下手するとジャケットも着ない。人前に出る時に常に無防備な格好でいるのも怜の仕事のうちであり、高田はそれをよく理解している。
すべての人間の視線と意識を怜に集中させる。
薫が怜に課した役割について、腹心の部下たちは少し厳しいのではないかとさえ思っていた。
今、『東京』は荒れている。悪さをしている者は、自分たちのねぐらをどんどん追い出されている状態だ。他の地域に戻ればすぐ警察に捕まるような連中が、『東京』でも居場所をなくしつつある。そいつらの敵意をすべて怜に集め、警察をはじめとした行政機関は、陰で着々と仕事を進めていた。
怜は自分の役を完璧にこなしていた。作戦中は傲慢な態度で敵を挑発し、誰も目が離せないカリスマ性を放つ。自衛軍は基本的にカーキ色の装備だが、そのド真ん中を真っ白なTシャツで動き回る怜は、いついかなる時も攻撃される危険と隣り合わせだった。
まともな人間なら耐えられない仕事。それなのに怜は不思議なほど動じなかった。むしろ自分の立場に馴染むにつれ、怜の態度は堂々としたものになっている。部隊全員のリーダーとして当たり前に指示を出し、生き生きと敵を追いつめる。
隠されていた才能は、いまや全開だった。こうした怜の素質を早い段階で佐木が見抜いていたとすれば、その眼力には感服するほかない。
高田はそんなことを考えながら、屋敷の入り口に向かった。他の者と連携して狙撃を警戒し、迎えに来た黒いセダンのドアを開けてやる。
「ありがとうございます。高田さんも気をつけて」
「おう。おつかれ。ゆっくり休め」
「おやすみなさい」
おまけにこれだ。作戦や仕事以外では、怜は相も変わらず礼儀正しく、謙虚な態度を崩さなかった。行動を共にする者に対して気遣いを忘れず、命を粗末にするような作戦は絶対に立てない。
最初はトラブルもあったが、今や隊員たちは怜を可愛がるようになっていた。
佐木は、どこまでわかってて怜を中心に据えたんだろうな。高田はそんなことを考えながら、怜がセダンの後部座席に滑り込むまで警戒を続ける。
「ありがとうございました」
静かな礼と共に返されたヘルメットを受け取り、車の中を覗き込む。
怜の奥には見覚えのある姿が、影に沈むように座っていた。高田はそいつにも手を軽く振ると、ドアを閉めた。
ま、うまくいってるのなら、文句をつける余地はねぇ。
からかうような笑みを浮かべたまま、高田は部下たちへ撤収の指示を出すために振り返った。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
首輪 〜性奴隷 律の調教〜
M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。
R18です。
ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。
孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。
幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。
それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。
新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる