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86 【2年前】(63)
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「車の運転?!」
チームリーダー会議の後に事務室に呼ばれたタケとレンは、周囲の目もかまわずに声を上げた。サキの近くに座っていたチームリーダーのミヤギが、やっぱりという顔で溜息をつく。
「おれたち2人は参加できないってことですか?」
「戦闘に参加しなくたって、今回の作戦では重要なポジションだ。そもそもタケ、お前は肩が治り切ってないだろう? 2人ともタカトオと直接顔を合わせて脅迫されてる。俺はお前たちの精神状態が心配だし、肝心な時に死んでほしくない。だから奴と直接撃ち合う可能性の少ない、輸送チームの方をやってほしい。ミヤギも足が本調子じゃないから戦闘ではなく輸送を仕切る。その副官としてチーム編成を手伝ってくれないか」
タケはレンの横で唇を噛んだ。確かに、彼はまだ三角布で左肩を固定している。誰が見ても右手しか使えない状況だ。それでもタケは食い下がった。
「だって、グループが一番大変な時に……」
「大変な時だからこそ、適切な役割分担は重要だ。そして俺は、人的被害を最小限に抑えるための戦略を考え、全員の命に責任を負わなきゃならない。タケ。これは決定事項だ。その肩をこれ以上痛めるな。レンの運転の横で、輸送車の護衛を頼む。お前が不満なのもわかるが、いざという時に、お前は仲間を担いで銃を撃ちながら逃げられるのか?」
うつむくタケの横で、レンは黙っていた。サキの決断は妥当だ。この会話を聞いている事務室のチームリーダーたち、目の前に座っているミヤギ、さっき事務室を出ていったエトウ、全員がこの決定を最善のものと考えている。人質になった者の受けたストレスを考えれば、誰も異議を唱えない。そして、タケとレンの状態を真摯に考えているからこそ、サキは絶対に自分の決定を曲げたりしない。
「レン、ミヤギと組んで足りない人員を準メンバーから補充してくれ。ルート選別やシフト編成など、輸送関係の責任者はミヤギになる」
「了解しました」
レンは簡潔にそう答えた。おそらく、自分がリーダーでも同じ決定をするだろう。そう思ってから、レンは不思議な感覚に襲われた。
自分がリーダーだったら? そんなことを以前に考えたことはなかった。だが数日サキと行動を共にした後の今、レンは多くの人数を束ねてひとつの組織にするには、どういった心構えが必要なのか、どんな性格が要求されているのかも、少しずつ学び始めていた。
隣のタケは、どうしてそれがわからないのだろう? 怪我をした状態で、自分の命を直接脅かした者と対峙できると考えているのだろうか。レンは、今の自分が父親とまともに撃ち合えるとは思わなかったし、それを試そうという気も起きなかった。そうした綱渡りができるのは、サキかエトウぐらいしかいない気がする。
宿敵を目の前にして、復讐より挑発を選ぶサキのような男でなければ、この全面対決で冷静にタカトオを制することはできない。
ミヤギがタケに言う。
「なぁ、不本意なのはオレも同じだ。でも、物理的に敵の数を減らしていく今回の作戦、人を運ぶのがどれだけ大変で重要か、わからないか? ドンパチだけが戦争じゃない。な?」
しぶしぶといった感じでタケが頷く。
「ほら。お前は人を見る目があるとオレは思ってる。今までも、お前はずっと有能なサポートとしてオレと組んでくれただろ? 大事なチームメンバーが、こんなところで死なれるのは困るんだ」
訥々とした話し方のミヤギに、タケは仕方ないという顔で溜息をついた。
「了解しました。全面的に、サキさんの決定に従います」
タケの答に、事務室全員がホッとした顔になった。部屋を出ていく者が数人、タケの右肩を軽く叩いていく。サキが真剣に案じている目でタケを見つめる。
「お前が活躍してくれることを、俺は信じてる。終わった後の功績分配も、すべて公園のチームと同等なものになる。頼むから……死なないでくれ」
「わかりました。最善を尽くします」
にこりとサキが笑い、ミヤギはタケとレンを連れて事務室を出た。
ミヤギの後ろをついていきながら、レンはちらりとサキを見た。サキはタブレットの地図を使って、チームリーダーたちと作戦の細部を詰める作業を始めている。
そう。自分がタカトオの息子であることを一切誰にも悟らせることなく、サキはレンが父親に再び接触しないよう配慮してくれた。
ただ──。レンは、最後にサキの目を見たかった。自分が最前線から外された真の理由が、自分が無能だからではないのだと、自分がサキの秘密の恋人だからではないのだと、確証が欲しかった。
ただそれだけ。レンは自分がまだ、サキのチームの一員としての価値を持っているのかということだけが、知りたかったのだ。
チームリーダー会議の後に事務室に呼ばれたタケとレンは、周囲の目もかまわずに声を上げた。サキの近くに座っていたチームリーダーのミヤギが、やっぱりという顔で溜息をつく。
「おれたち2人は参加できないってことですか?」
「戦闘に参加しなくたって、今回の作戦では重要なポジションだ。そもそもタケ、お前は肩が治り切ってないだろう? 2人ともタカトオと直接顔を合わせて脅迫されてる。俺はお前たちの精神状態が心配だし、肝心な時に死んでほしくない。だから奴と直接撃ち合う可能性の少ない、輸送チームの方をやってほしい。ミヤギも足が本調子じゃないから戦闘ではなく輸送を仕切る。その副官としてチーム編成を手伝ってくれないか」
タケはレンの横で唇を噛んだ。確かに、彼はまだ三角布で左肩を固定している。誰が見ても右手しか使えない状況だ。それでもタケは食い下がった。
「だって、グループが一番大変な時に……」
「大変な時だからこそ、適切な役割分担は重要だ。そして俺は、人的被害を最小限に抑えるための戦略を考え、全員の命に責任を負わなきゃならない。タケ。これは決定事項だ。その肩をこれ以上痛めるな。レンの運転の横で、輸送車の護衛を頼む。お前が不満なのもわかるが、いざという時に、お前は仲間を担いで銃を撃ちながら逃げられるのか?」
うつむくタケの横で、レンは黙っていた。サキの決断は妥当だ。この会話を聞いている事務室のチームリーダーたち、目の前に座っているミヤギ、さっき事務室を出ていったエトウ、全員がこの決定を最善のものと考えている。人質になった者の受けたストレスを考えれば、誰も異議を唱えない。そして、タケとレンの状態を真摯に考えているからこそ、サキは絶対に自分の決定を曲げたりしない。
「レン、ミヤギと組んで足りない人員を準メンバーから補充してくれ。ルート選別やシフト編成など、輸送関係の責任者はミヤギになる」
「了解しました」
レンは簡潔にそう答えた。おそらく、自分がリーダーでも同じ決定をするだろう。そう思ってから、レンは不思議な感覚に襲われた。
自分がリーダーだったら? そんなことを以前に考えたことはなかった。だが数日サキと行動を共にした後の今、レンは多くの人数を束ねてひとつの組織にするには、どういった心構えが必要なのか、どんな性格が要求されているのかも、少しずつ学び始めていた。
隣のタケは、どうしてそれがわからないのだろう? 怪我をした状態で、自分の命を直接脅かした者と対峙できると考えているのだろうか。レンは、今の自分が父親とまともに撃ち合えるとは思わなかったし、それを試そうという気も起きなかった。そうした綱渡りができるのは、サキかエトウぐらいしかいない気がする。
宿敵を目の前にして、復讐より挑発を選ぶサキのような男でなければ、この全面対決で冷静にタカトオを制することはできない。
ミヤギがタケに言う。
「なぁ、不本意なのはオレも同じだ。でも、物理的に敵の数を減らしていく今回の作戦、人を運ぶのがどれだけ大変で重要か、わからないか? ドンパチだけが戦争じゃない。な?」
しぶしぶといった感じでタケが頷く。
「ほら。お前は人を見る目があるとオレは思ってる。今までも、お前はずっと有能なサポートとしてオレと組んでくれただろ? 大事なチームメンバーが、こんなところで死なれるのは困るんだ」
訥々とした話し方のミヤギに、タケは仕方ないという顔で溜息をついた。
「了解しました。全面的に、サキさんの決定に従います」
タケの答に、事務室全員がホッとした顔になった。部屋を出ていく者が数人、タケの右肩を軽く叩いていく。サキが真剣に案じている目でタケを見つめる。
「お前が活躍してくれることを、俺は信じてる。終わった後の功績分配も、すべて公園のチームと同等なものになる。頼むから……死なないでくれ」
「わかりました。最善を尽くします」
にこりとサキが笑い、ミヤギはタケとレンを連れて事務室を出た。
ミヤギの後ろをついていきながら、レンはちらりとサキを見た。サキはタブレットの地図を使って、チームリーダーたちと作戦の細部を詰める作業を始めている。
そう。自分がタカトオの息子であることを一切誰にも悟らせることなく、サキはレンが父親に再び接触しないよう配慮してくれた。
ただ──。レンは、最後にサキの目を見たかった。自分が最前線から外された真の理由が、自分が無能だからではないのだと、自分がサキの秘密の恋人だからではないのだと、確証が欲しかった。
ただそれだけ。レンは自分がまだ、サキのチームの一員としての価値を持っているのかということだけが、知りたかったのだ。
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