30 / 63
第八話 紳士な第二王子②
しおりを挟むフェリクス様は、優し気な感じとは裏腹で、案外積極的だった・・・。
ログネル王国女王から直々の申し出とはいえ、義理で会いに来ていたのなら、私が再度連絡するまで何もせず待っていたのではないかと思う。嫌々婚約者候補にされたのなら、相手からまず連絡しろよとか考えるのが普通じゃない?
だから、朝門のところにいて、私を認めた後、ヘルナル殿と変装用の名で呼ばれたときは正直なところ驚いた。とにかく今日帰ったら文を送って、と考えていた矢先、先制攻撃を受けた感じだった。さらに、買い物に付き合えってことでしょう?武器や防具とかを選んでくれとかだったらいいなあ。それ以外なら無理かも・・・しれない。それにこれは世間で言うところのデートなのでは?気の利いた言葉など言えるだろうか・・・。
何とか笑顔を作った。答える口調は高飛車にならないように気を付けた。
『ありがとうございます。私で良いのですか?』
『はい。ヘルナル嬢が良いのです』
その言葉に私はちょっとだけときめいた。
『ありがとうございます。そう言っていただきまして嬉しいです』
柔和な表情で私を見つめてくる。
『急なことで申し訳ないのですが、今日用事がないのであれば、どうでしょう、お付き合いいただけませんか?』
『はい、もちろん喜んでお付き合い致します』
私は強張る口を何とか開いて答えた。
彼はしばらく私を微笑んで見て、『ありがとうございます。断られたらどうしようかと思いました』などと言う。
背を向けて去っていく姿を見送りながら、私は今日ついてきてくれたロニヤを宿舎に走らせる。即カイサが飛んできた。
『今日授業が終わった後、エルベン王国のフェリクス・エルベン様とお会いしますから』
『左様でございますか』
『・・・何か見繕いたいとかで、私についてきて欲しいと言われたの』
そうカイサに今日の授業後のことを伝えたところ、カイサは笑顔でさささっと私の身だしなみを確認し、最後には笑顔でありながら、目が笑っていない様で二三歩詰め寄られた。怖くてこちらが思わず二三歩下がってしまう勢いだった。
『・・・なるほど、購入したいものがあると言われるのですね。それでお嬢様に選ぶのを手伝ってほしいと言われる・・・。これはお嬢様に選んでもらうのは口実で、本心ではお嬢様の好みを知りたいということなのでしょうね・・・。なるほどなるほど、・・・つまりお嬢様に何か贈りたいとかお考えなのでしょうね・・・。まあ、あの第二王子なら紳士でしたし、性格はお嬢様の好みでしょうし、私も嫌な感じはしませんでしたし・・・』
カイサの言葉は、最後のほうは小声で正確には聞き取れていなかったが。
『お、贈るにしても、べ、別の方に、お贈りになるのではない?』
『そんなわけありません!それなら、一人で選ばれるに決まっています!』
カイサと一緒に戻ってきたロニヤが横から鼻息荒く答える。カイサはおや珍しいとでも言いたげな表情でロニヤを見る。
『そ、そう?』
『当たり前です!』
ロニヤがさらにフンスと、鼻息を荒くした。
顔が赤くない。いつもは私と話すときは赤面して、話せないロニヤが興奮している。
たじろぐ私をカイサがじっと見つめてからおもむろに口を開く。
『ロニヤの言う通りでございます。あの王子がお嬢様に送りたいと思われたのでしょう』
『・・・』
私が気恥ずかしくなって黙り込むと、突然カイサが更に詰め寄る。
『よろしいですか!お嬢様も何かをお買い求めになるなら、絶対武器や防具などはその場で購入なさいませんように!その場で購入されるのは、絶対宝飾品や文具、小物類だけです!お分かりですね!』
『は、はい・・・』
気圧されて、何度も何度もコクコク頷く。怖い。
ということで、私は学園のある街ルベルティの商店街に来ている。前には私の護衛ではなく、王子の護衛二人が露払いのように進み、私と王子が隣だって歩き、その後ろを私の侍女カイサと王子の侍従、そして私の護衛ヴィルマルと王子の護衛が歩いている。
私は朝の門で私を待っていた王子の姿を思い出していた。その姿に少しだけ嬉しくなった。
あの、前の俺様王子のような自分勝手で人の都合を考えない人とは大違いだ。あの王子なら同じ場合では、まずこちらの都合を考えずに押し掛けてきて、一緒に来いとか言いそうじゃない?
隣を歩きながら、ちらりと横目で表情を伺う。
この人は穏やかなところと肌の白さと青い目が印象的な美男子だ。背の高さも比較的背の高い私と並んでも肩の上に目線が来るため、ちょうど良い高さ。まあ、比較的私も浮かれてしまっているが、この王子は私の好みだった。
アリオスト王国の街ルベルティの商店街をゆっくり歩いていく。最近安価で作られるようになった硝子の窓から商店の中を覗き込むことができる。
第二王子殿下は途中宝飾店、文具店、装飾店を数軒通り過ぎる。行く場所がわからない。きょろきょろしていた私が意を決して尋ねる。
「あの?」
私の言葉に足を止める。そして微笑みながら私を見た。
「はい」
「見繕うものとは何でしょうか?」
「・・・ああ」
顎に手をやり、一瞬だけ難しい顔になって考えた後、ポンと手を打つ。
「お伝えしておりませんでしたね」
「はい、聞いておりませんでした」
「・・・とある出来事がありまして、必要に迫られまして、武器を選んでいただければと思いまして」
「・・・はい?」
私の眉間の皴が深くなったと思う。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
私よりも姉を好きになった婚約者
神々廻
恋愛
「エミリー!お前とは婚約破棄し、お前の姉のティアと婚約する事にした!」
「ごめんなさい、エミリー.......私が悪いの、私は昔から家督を継ぐ様に言われて貴方が羨ましかったの。それでっ、私たら貴方の婚約者のアルに恋をしてしまったの.......」
「ティア、君は悪くないよ。今まで辛かったよな。だけど僕が居るからね。エミリーには僕の従兄弟でティアの元婚約者をあげるよ。それで、エミリーがティアの代わりに家督を継いで、僕の従兄と結婚する。なんて素敵なんだろう。ティアは僕のお嫁さんになって、2人で幸せな家庭を築くんだ!」
「まぁ、アルったら。家庭なんてまだ早いわよ!」
このバカップルは何を言っているの?
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
アダムとイヴ
桃井すもも
恋愛
私には、婚約者がおります。
その名をアダム様と仰います。
私の名がイヴですから、アダムとイヴで「創世記」の例のお騒がせカップルと同じ名ですね。
けれども、彼等と私達は違います。
だって、アダム様には心を寄せる女性(ひと)がいらっしゃるのですから。
「偶然なんてそんなもの」のお二人も登場します。
からの
「ままならないのが恋心」へ連なります。
❇例の如く、100%妄想の産物です。
❇妄想遠泳の果てに波打ち際に打ち上げられた、妄想スイマーによる寝物語です。
疲れたお心とお身体を妄想で癒やして頂けますと泳ぎ甲斐があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる