秘色のエンドロール

十三不塔

文字の大きさ
24 / 38
第三章 虹と失認

しおりを挟む


 8



 ――23:14
 少女たちは、途方に暮れていた。
 勝ち筋が見いだせない。状況を改善させる小さな糸口さえも。
 2ラウンド終了後にもう一杯のリキュールを飲むことが決まっているだけでなく、彼等の攻撃はさらに続くのだ。ピンチは終わらないどころか加速度的に押し寄せてくる。ボールをポケットさせたプレイヤーは言うまでもなく、さらに一球を投じることが許されている。ここで新しいポケットに水晶を放り込まれてしまえば万事は窮するだろう。
『銅音、投げさせないで引き留めるの』
(何か案があるの?)
『わからない。ただ、このままじゃなし崩しに負けてしまう』
 星南の身体はここにはない。病室にあって銅音を通してゲームに参画しているのだ。
『ヒントを探すの。その身体は銅音、あなたのもの』
(わからない。ただ怖いよ。こんなのって――)
 カフェインですら摂らない銅音にとって、変調した意識状態は恐怖でしかなかった。一方向精神物質に慣れ親しんでいる星南はリキュールの効果にたじろぐことはなかった。しかし銅音の混乱は星南とのオムニバスの連携を乱す。
 ――秘色のエンドロール。
 二人を繋ぐ紐帯であるキーワードですら、色の意味を失った少女にはその効力を失いつつあった。秘色とはどんな色であったか。銅音には見つけ出せなかった。
(また何か変なものが見えてきたよ。星南、見える?)
『ううん、何も』
 二人の感覚が乖離し始めたのは、悪い兆候だった。
 共有される感覚器官から得られる情報が大きく食い違った場合、オムニバスは維持できなくなる可能性がある。
「……象が見える。あれはサーカスの象?」
 佐倉結丹を取り巻くオーラの端にひとつのイメージが形勢された。どうしてそんな奇体なヴィジョンを見ることになるのか、銅音はいよいよ自分の正気が信じられなくなりつつあった。これもリキュールの及ぼす幻覚のひとつだろうと振り捨てるのは簡単だが、本当にそれだけなのか。星南には何も見えていないらしく、不安げに意識を揺らめかせる。
「――サーカス、象?」佐倉結丹がびくりと肩を震わせた。「なぜ、それを?」
 よろめきと身悶え。銅音の言葉が佐倉の心の敏感な部分に触れたらしい。どんななりゆきでそんなことになったのかわからぬものの――これはチャンスだ、と星南は病室の身を乗り出すようにする。
『もう一押し』星南の思念はスパイク波となって銅音の脳に振動させた。
「象を殺した」
 カンっと乾いた音が響く。
 銅音の言葉とほぼ同時に結丹の手から水晶が落ちたのだった。
「あんたらは二人で嬲り殺した。あの象を」
 銅音と星南の間は生じかけた亀裂は、漆間嶺と佐倉結丹との間でも起こっていた。さらに深刻なかたちで。佐倉結丹の動揺がオムニバスの接続に隙間をもたらす。思わぬ敵の言葉に結丹は胸騒ぎと同時に拭いようのない罪悪感を呼び覚まされたようだ。
 ――戯言に耳を貸すな。佐倉結丹。わたしの可愛い奴隷。
 漆間の声はむしろ逆効果だったろう。それは余計に結丹を傷つける。いや、癒えない傷の存在をありありと思い出させるのだった。
 ――気に留めるな。仕事に集中しろ。おまえはわたしの数ある玩具であり、また数少ない武器でもある。頼りにしているぞ。
 それでも、漆間の説得が勢いづくほどにむしろ結丹の意識は過去に沈んでいった。
 ――銅音は結丹の記憶の断片を水晶の屈折を通して観る。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...