11 / 49
迫りくる危機
治安部隊の聴取
しおりを挟む
机と椅子だけしかない殺風景な取調室に、ラフィアはティーアから問い詰められていた。
「ラフィアさん、正直に答えてください、貴女は儀式の時に声を聞きましたよね?」
「はい、聞きました」
ラフィアはよく通る声で言った。
ラフィアが治安部隊の取調室に連れてこられたのは天使昇給の儀式時に黒天使がラフィアに話しかけてきたことだ。
姿は見えなかったが、力からして黒天使のものだという。
「何て言っていたか覚えてますか?」
「えっと……確か、この時を待っていたぞと言っていました。知らない男の人でした」
ラフィアが話した内容を、ティーアの隣にいた天使・カーシヴが素早く書き込む。
「話した相手の顔は見えましたか?」
「いえ、声だけでした」
「分かりました。お話ししていただき有難うございます」
ティーアはラフィアに律儀に頭を下げた。
ラフィアは不安になった。もしかしたら重い罰が下るのでは……と。
しかしティーアの対応は意外なものだった。
「驚かないで聞いて下さいね、これは私の想像ですが話を聞く限り、黒天使は貴女を狙ってるでしょう」
ティーアの声色には真面目さがこもっている。
「何で……ですか?」
突拍子もない話にラフィアは困惑した。
「天使昇給の儀式という我々の警備がある中、危険を犯してまでテレパシーでメッセージを送るなんて黒天使はしないんですよ、普段の日も同様です。
我々に見つかれば黒天使もただじゃ済まない事は分かっていますから、しかし今回黒天使は危険を承知で貴女にテレパシーを飛ばした。黒天使が貴女に接近したいというのは目に見えています」
「わたし、今日天使になったばかりですよ、どうして狙われるんですか」
ラフィアは言った。黒天使と戦ってきた天使ならまだしも、ラフィアは今日天使になって、黒天使と戦を交えてないので、黒天使に恨みを買うようなことはしていない。
「黒天使が狙っているのは恐らく貴女の力でしょう、上級天使は言ってました。ラフィアさんだけ他の天使に比べて大きいと」
「冗談……ですよね」
「私が冗談を言うと思いますか? メルキなら可能性はありますけどね」
信じたくないラフィアとは裏腹に、
ティーアはあくまで真剣だった。
メルキのことを呼び捨てにするのは、メルキがかつて治安部隊の同僚だったことの名残りらしい。
「これって大事なことですよね、何ですぐに知らせないんですか?」
「確かに問題ですね。メルキの事ですから単に忘れてるだけだと思いますが、後ほど注意しておきます」
一つの問題を解消し、ラフィアは一番知りたい事を、恐る恐る訊ねた。
「わたしのことは……罰しないんですか?」
「まさか、そんな事しませんよ、我々は自分の意思で黒天使と接触する輩は罰しますが、貴女は黒天使から一方的に接近されたんですから、むしろ我々が貴女を守りますよ」
「そう……ですか」
ティーアの言葉に、ラフィアは安心した。リンや母親に心配かけずに済むからだ。
治安部隊もその辺の分別はするようだ。
「話を戻しますが、実際力を調べた方が良さそうですね」
ティーアは筆記を取っていたカーシヴに耳打ちし、カーシヴはすぐさま取調室を飛び出した。
ほどなくし、カーシヴは水晶玉を持って現れた。
「これは力計測玉、名の通り力を計測するものです。まずは手を当てます」
ティーアは力計測玉に手を当てた。すると玉は黄色く輝き始める。
「手を当てると、光って力のレベルが分かります。一番下が赤から始まり、青、緑、黄色、紫、そして一番上が虹色といった順です」
ティーアは説明した。
様子を見ていたカーシヴは目を丸くする。
「ティーアさん、また力が上がりましたね」
「貴方は仕事に集中しなさい」
「あっ、すいません」
カーシヴは謝罪した。
ティーアは手を離すと、水晶の色は消え元の透明色になる。
「手を当てるだけですからね」
「分かり……ました」
ラフィアは生唾を飲み込み、そっと水晶に手を当てる。自分の力は赤か髪の毛と同じ色である青が良いところだと思った。
が、現実はラフィアの予想を遥かに超えていた。何故なら水晶玉は虹色に輝いているからだ。
「す……凄いです」
ティーアは興奮を抑えられない様子である。
「私はここに勤めて五年は経ちますが、虹色を見たのは初めてです」
「この事も記録に残して良いですよね?」
カーシヴは水晶玉をまじまじと見つめる。
「勿論です。あ、もう手は離して大丈夫ですよ」
ティーアに言われ、ラフィアは水晶玉から手を引いた。
「……そんなに、凄いんですか?」
「ええ、それはもう、ラフィアさん貴女は頑張ってお勉強すれば天界を治める神様になれますよ、虹色を出せる天使は神様級の力を持っているって証ですから」
壮大な話にラフィアは軽く目眩がした。自分が神様なんて受け入れがたいからだ。
「でも、それって可笑しくないですか」
「可笑しくはありませんよ、ごく稀にですが、昇給の儀式で貴女のように強い力を持った天使も出てくるんです。その人達は黒天使の声を聞いたという報告は受けてませんけどね」
どうやら黒天使の声を聞いたのは自分だけのようで、ラフィアは怖さのあまり体が震える。
これから実戦訓練も行われて、天界を出る機会も増えるとメルキは言っていた。そんな時に黒天使が現れないとも限らない。
もし黒天使に捕まったら天使は生きて戻って来られない。
いや、テレパシーを天界内に飛ばす位だから天界の結界を破って侵入も考えられる。
悪い考えばかりが過り、不安でたまらなくなる。
「ティーア士官、ラフィアさん怖がってますよ」
カーシヴが耳打ちして、ティーアは言い過ぎたことを後悔した。
「ああ、不安を煽るようなことを言ってしまいすみません」
「いえ、良いんです。どっちにしても授かったものを捨てるなんてバチが当たりそうですから、大切にはします」
今のラフィアには、そう言うのが精一杯である。
苦労して試験に合格して天使になれたのに、今度は自分の力がいらないなんて言ったら、ラフィアの両親に叱られてしまう。例え自分の身の丈に合わない力だとしてもだ。
不安は消え去った訳ではないが、そう思ってないと心が挫けそうになる。
「それはいい心がけですね。我々もラフィアさんの身に危険が及ばないように最善を尽くします」
「え……ええ、有難うございます」
ラフィアはぎこちなく言った。
二人の会話は、外から聞こえた爆音と揺れにより強制終了することとなった。
「ラフィアさん、正直に答えてください、貴女は儀式の時に声を聞きましたよね?」
「はい、聞きました」
ラフィアはよく通る声で言った。
ラフィアが治安部隊の取調室に連れてこられたのは天使昇給の儀式時に黒天使がラフィアに話しかけてきたことだ。
姿は見えなかったが、力からして黒天使のものだという。
「何て言っていたか覚えてますか?」
「えっと……確か、この時を待っていたぞと言っていました。知らない男の人でした」
ラフィアが話した内容を、ティーアの隣にいた天使・カーシヴが素早く書き込む。
「話した相手の顔は見えましたか?」
「いえ、声だけでした」
「分かりました。お話ししていただき有難うございます」
ティーアはラフィアに律儀に頭を下げた。
ラフィアは不安になった。もしかしたら重い罰が下るのでは……と。
しかしティーアの対応は意外なものだった。
「驚かないで聞いて下さいね、これは私の想像ですが話を聞く限り、黒天使は貴女を狙ってるでしょう」
ティーアの声色には真面目さがこもっている。
「何で……ですか?」
突拍子もない話にラフィアは困惑した。
「天使昇給の儀式という我々の警備がある中、危険を犯してまでテレパシーでメッセージを送るなんて黒天使はしないんですよ、普段の日も同様です。
我々に見つかれば黒天使もただじゃ済まない事は分かっていますから、しかし今回黒天使は危険を承知で貴女にテレパシーを飛ばした。黒天使が貴女に接近したいというのは目に見えています」
「わたし、今日天使になったばかりですよ、どうして狙われるんですか」
ラフィアは言った。黒天使と戦ってきた天使ならまだしも、ラフィアは今日天使になって、黒天使と戦を交えてないので、黒天使に恨みを買うようなことはしていない。
「黒天使が狙っているのは恐らく貴女の力でしょう、上級天使は言ってました。ラフィアさんだけ他の天使に比べて大きいと」
「冗談……ですよね」
「私が冗談を言うと思いますか? メルキなら可能性はありますけどね」
信じたくないラフィアとは裏腹に、
ティーアはあくまで真剣だった。
メルキのことを呼び捨てにするのは、メルキがかつて治安部隊の同僚だったことの名残りらしい。
「これって大事なことですよね、何ですぐに知らせないんですか?」
「確かに問題ですね。メルキの事ですから単に忘れてるだけだと思いますが、後ほど注意しておきます」
一つの問題を解消し、ラフィアは一番知りたい事を、恐る恐る訊ねた。
「わたしのことは……罰しないんですか?」
「まさか、そんな事しませんよ、我々は自分の意思で黒天使と接触する輩は罰しますが、貴女は黒天使から一方的に接近されたんですから、むしろ我々が貴女を守りますよ」
「そう……ですか」
ティーアの言葉に、ラフィアは安心した。リンや母親に心配かけずに済むからだ。
治安部隊もその辺の分別はするようだ。
「話を戻しますが、実際力を調べた方が良さそうですね」
ティーアは筆記を取っていたカーシヴに耳打ちし、カーシヴはすぐさま取調室を飛び出した。
ほどなくし、カーシヴは水晶玉を持って現れた。
「これは力計測玉、名の通り力を計測するものです。まずは手を当てます」
ティーアは力計測玉に手を当てた。すると玉は黄色く輝き始める。
「手を当てると、光って力のレベルが分かります。一番下が赤から始まり、青、緑、黄色、紫、そして一番上が虹色といった順です」
ティーアは説明した。
様子を見ていたカーシヴは目を丸くする。
「ティーアさん、また力が上がりましたね」
「貴方は仕事に集中しなさい」
「あっ、すいません」
カーシヴは謝罪した。
ティーアは手を離すと、水晶の色は消え元の透明色になる。
「手を当てるだけですからね」
「分かり……ました」
ラフィアは生唾を飲み込み、そっと水晶に手を当てる。自分の力は赤か髪の毛と同じ色である青が良いところだと思った。
が、現実はラフィアの予想を遥かに超えていた。何故なら水晶玉は虹色に輝いているからだ。
「す……凄いです」
ティーアは興奮を抑えられない様子である。
「私はここに勤めて五年は経ちますが、虹色を見たのは初めてです」
「この事も記録に残して良いですよね?」
カーシヴは水晶玉をまじまじと見つめる。
「勿論です。あ、もう手は離して大丈夫ですよ」
ティーアに言われ、ラフィアは水晶玉から手を引いた。
「……そんなに、凄いんですか?」
「ええ、それはもう、ラフィアさん貴女は頑張ってお勉強すれば天界を治める神様になれますよ、虹色を出せる天使は神様級の力を持っているって証ですから」
壮大な話にラフィアは軽く目眩がした。自分が神様なんて受け入れがたいからだ。
「でも、それって可笑しくないですか」
「可笑しくはありませんよ、ごく稀にですが、昇給の儀式で貴女のように強い力を持った天使も出てくるんです。その人達は黒天使の声を聞いたという報告は受けてませんけどね」
どうやら黒天使の声を聞いたのは自分だけのようで、ラフィアは怖さのあまり体が震える。
これから実戦訓練も行われて、天界を出る機会も増えるとメルキは言っていた。そんな時に黒天使が現れないとも限らない。
もし黒天使に捕まったら天使は生きて戻って来られない。
いや、テレパシーを天界内に飛ばす位だから天界の結界を破って侵入も考えられる。
悪い考えばかりが過り、不安でたまらなくなる。
「ティーア士官、ラフィアさん怖がってますよ」
カーシヴが耳打ちして、ティーアは言い過ぎたことを後悔した。
「ああ、不安を煽るようなことを言ってしまいすみません」
「いえ、良いんです。どっちにしても授かったものを捨てるなんてバチが当たりそうですから、大切にはします」
今のラフィアには、そう言うのが精一杯である。
苦労して試験に合格して天使になれたのに、今度は自分の力がいらないなんて言ったら、ラフィアの両親に叱られてしまう。例え自分の身の丈に合わない力だとしてもだ。
不安は消え去った訳ではないが、そう思ってないと心が挫けそうになる。
「それはいい心がけですね。我々もラフィアさんの身に危険が及ばないように最善を尽くします」
「え……ええ、有難うございます」
ラフィアはぎこちなく言った。
二人の会話は、外から聞こえた爆音と揺れにより強制終了することとなった。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる