空に舞う白い羽根

ねる

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廻りだす運命

天界の法

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 天使達が集まった裁判所には、拘束された一人の男天使が叫ぶ。
 ラフィアとリンもリンの母親に付き添いで来ていた。
「見逃してくれよ……俺は死んだセレネに会いたかっただけなんだ」
男天使の言い分を、燈色の髪に左右がカールになっている女天使ティーアは聞いていた。
ティーアは天界の治安を守る部隊に所属している一員である。
「貴方は娘に会いたいという理由で禁じられている黒天使の術である蘇生呪文を使用しようとしていた。
 どれだけ危険か分かってるのですか?」
天界では黒天使の交流や呪文の取得を固く禁じている。
男天使は娘を亡くし(天使は長寿だが、怪我や病気そして死はある)娘に会いたくて天界の法を犯したのである。
 蘇生呪文は聞こえは良いが、一人の
命を犠牲にしなければならず、男天使は人間の女の子を誘拐し蘇生呪文に利用しようとしたのだから始末が悪い。
 「法に触れるのは理解してたさ、でもよアンタ達はオレらのように貧しくて娘に満足に治療を受けさせてもらえなかった現実を知ってるのかよ」
 男天使は悲痛な表情を浮かべた。
 聞いている話だと、男天使の家庭は貧しく、暮らしていくのがやっとだったらしい。
 その上、娘が病に倒れてもお金がないという理由から治療を断られたという。
 天界には豊貧の差があり、生活に困らない豊かな層と、男天使のように生活が逼迫している層がある。
 ラフィア達は豊かな層の方ではあるが、男天使が可哀想に思えてきた。
「……確かに、それはお気の毒でした。でも犯罪は犯罪です」
  ティーアは冷たく言い放つ。
「ムェズさん、貴方には地獄に行ってもらいます。そこで自分が犯した罪の重さを知りなさい」
 ティーアの言葉と共に二人の天使が現れ、ムェズは泣き叫ながら歩かされた。
「嫌だぁ! オレは行きたくない!」
ムェズの声にラフィアは胸が痛くなった。
地獄は一度入ったら最後で永遠と苦しみを味わうという。
 黒く開いた扉があり、ムェズは天使に連れられ扉を潜った。
「セレネェェ!」
娘の名が裁判所に広がる中、地獄に続く扉は閉じられた。
「皆さんもご存じだと思いますが、黒天使に関わることや術を学ぼうとすることはいかなる理由であれ禁止です
  黒天使のことだけではありません、天界の法を破るのも同様です」
ティーアは歩きながら天使達に語る。
天界の法とは、窃盗、殺人等の犯罪行為をしてはいけないという事である。
 未成年のラフィアでもそれは理解していた。
「もし破るようなことがあれば、死ぬより辛い現実が待ってますので覚えておいてください」
 ティーアの言葉がラフィアの心に重くのし掛かった。
  ムェズのした行いは許されることではない。しかしセレネに会いたいという想いに偽りを感じなかった。
 もし、貧しくてもセレネが病気を治すことができたらムェズは法を破らずに済んだと思うとやりきれなかった。

   三年が経ち十五歳になった今でもラフィアは忘れられなかった。
天使昇級のお祝いパーティーが終わり、自室に一人きりで横になっている時にふとムェズの裁判が脳裏に甦り、憂鬱になる。
「……色々あって疲れてるのかな」
ラフィアは呟く。
天使への昇格 、謎の声、そして……
「何で黒天使が両親と話していたのかな」
ラフィアの頭には疑問が沸く。
両親とイロウがどういう会話をしていたのかは分からない。
いくら思い出そうとしてもできない。
「どうして黒天使が天界にいるの? 入れないはずだよね」 
天界には黒天使の侵入を防ぐ結界が張られている。
なので天界に入ることは難しいはずだ。
 考えても分からない。リンに聞けば少しは分かるかもしれないが……
  頭がごちゃごちゃしてきたので、思考を止める。 
「もうやめよう、訓練始まるんだし早く寝よう」
ラフィアは机に置いてあるランプの光を消して、毛布の中に潜り込んだ。
「明日はどんな事が待ってるんだろう」
 期待と不安が入り交じる中、ラフィアは青い瞳を閉じる。
 ラフィアの意識は暗闇に落ちていった。

 どれくらいの時が経った頃だろうか、けたたましいノック音が耳に飛び込んできた。
「ラフィ……起きなさい」
 母親の声だった。
 ラフィアは重い瞼を開き、カーテンに目を向けるが、光は差していない。
「まだ夜じゃない」
ラフィアは不満げに口走る。
寝坊かと思ったが違ったからだ。
「治安部隊の人が見えてるの、あなたに話があるって」
しびれを切らした母親は言った。
治安部隊と聞き、ラフィアは身震いがした。
「話って……何?」
「詳しいことはお母さんも聞いてないの、ちゃんとした身なりをしなさい」
 不安が胸に広がる中、ラフィアは髪の毛をとかし、寝巻きから私服に着替えた。
「あっ、ペンダント忘れてた」
ラフィアは黄色い宝石のついたペンダントを首に下げた。
話によると記憶を失った時にも持っていたらしい。家族がくれたか自分が買ったかは思い出せないが、お守りとして今でも大切にしている。
 部屋から出ると母親は複雑な表情でラフィアを見つめた。パーティーの時は笑っていたのが嘘のようだ。
 ラフィアは母親と並んで歩く。
 リビングを通り、玄関まで来た。
「開けるわよ、くれぐれも失礼のないようにね」
「う、うん」
ラフィアは頷いた。
扉はゆっくりと開かれる。そこには数人の天使と、ティーアが真ん中に立っていた。
「こんばんは、お休みの所申し訳ありませんね」
ティーアは謝罪を述べる。
「それで……用件は何です」
「その事ですが、ラフィアさんには署にご同行願いたいのです」
同行と聞き、母親は顔色を変えた。
「娘が何かしたのですか」
「ラフィアさんは貴女の本当の娘さんでは無いでしょう……まあその事はさておき、ラフィアさんに話を聞くだけですよ」
  ティーアは母親からラフィアに目線を変えた。
「ラフィアさんが正直に話してくれればすぐに終わりますので、心配は無用です」
  行きたくない、とラフィアは内心思った。しかし拒んでも母親とリンに迷惑をかけてしまう。
 ラフィアの体は不安で震えたが、一歩進む。
「わたし……行きます」
「いい心掛けですね。では早速行きましょうか」
ティーアと数人の天使は白い羽根を広げ空を浮かび、ラフィアも同様に飛んだ。
「ラフィ!」
母親に呼ばれ、ラフィアは振り向くと母親は悲しそうな顔を浮かべている。
 同行を拒まれたことがショックだったようだ。
 見たくなかった表情にラフィアの心は痛む。
「ちょっと行ってくるね。すぐに戻るから
 もしリン君が起きたら大丈夫だって伝えておいて」
ラフィアは明るく言った。
ラフィアはティーア達と共に治安部隊の本拠地に向かった。
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