過去と未来と現在と

hyui

文字の大きさ
上 下
4 / 18

懺悔(後編)

しおりを挟む
翌日…。

静かな教会に、少年の喚き声が響いてきた。
「離せ!離せよ~!離せったら~!」
「な、何の騒ぎですか?一体…。」
キョトンとする神父さんの前に、少年の耳をつねりながらジャンが入ってきた。
「よう。神父さん。前のかっぱらい、捕まえてきたぜ。」
「か、かっぱらいじゃないやい!」
「ほー。じゃ、この十字架と食器は何だ?」
「そ、それは…おいらのだよ!おいらの!」
「嘘つけ。教会からかっぱらったもんだろ。」
「ジャンさん。もうその辺にしてあげて下さい。盗んだことはもう良いですから。」
「だから盗んでなんかないって…!」
「そうですね。昨日からウチの十字架が一つと食器が一式無くなっていたのは、きっと偶然なんですね。」
「~~~!」
少年はそれ以上の反論はしなかった。

「しかし、なんでそんなマネをしたんですか?」
「どうせ捨てられたんだろ?孤児になったからやむなく盗みを働いた。そんなところだろ。」
「…。」
「ジャンさん…。子供に向かってそんな…。」
「…殺されたんだ。」
「え…?」
「父ちゃんと母ちゃん、昨日誰かに殺されちゃったんだ。金も全部持ってかれて…。」
「それは気の毒に…。それでそんなことをしたんですね。」
コクリと少年は頷いた。
「その…、殺されたのはどこの何て人なんだい?」
「ビル…。ビル・マックイーン…。」
「え!」
突然ジャンが声をあげた。
「ジャンさん。どうしたんです?」
「い、いや。なんでもない…。坊主、今日飯のあてはあるのか?」
「ないけど…。」
「じゃあ俺んちに来ないか?子供一人くらいなら問題ない。」
「え…?本当?でもどうして?」
「なんだ?来ないのか?」
「い、行くよ!行く!」
「決まりだな。坊主、名前は?」
「サムだよ。おじさんは?」
「ジャンだ。」
自己紹介しあった二人は、一緒に教会を出ていった。
「ジャンさん…。自分の道を見つけたのですかね?」
神父はそんな二人を微笑みながら見送った。


それから数日。懺悔室にて。
「どうですか?ジャンさん。サムくんの様子は。」
「…元気なもんだよ。悲しいくらいにな。今日はサムの事で相談に来たんだ。」
「と、言いますと?」
「サムの両親を殺したのは…俺なんだ。」
「!   何と…。」
「あの日の殺しのターゲット名がビル・マックイーンだった。間違いない。俺が彼と妻を殺した後、組織がそいつの横領した金を回収したんだ。」
「サムくんはそのことは?」
「多分知らない。殺された日、あいつは外に遊びに行っていたそうだ。自分の父親が何で殺されたのかもわかってないだろう。」
「そうですか…。」
「神父さん。俺はどうすればいい?どうすればあいつに償える?」
「…本人に罪を打ち明けるのが一番でしょう。あなたをどうするかは、それから彼が決めることです。あなたはそれがどんなことであれ、受け止めねばならない。それが贖罪となるでしょう。」
「…そうだな。いつまでもこのままではいられない。ありがとう。思い切って打ち明けてみるよ。」
「どうか、頑張って下さい。」
ジャンは決意を胸に懺悔室を後にした。


後日、懺悔室にて。
「…こんにちは。神父さん。」
「おや、サムくん。ここに来るなんて珍しい。何があったんですか?」
「父ちゃんが…かえって来ないんだ。」
「父ちゃん…?ジャンさんのことですか?」
「うん。昨日、父ちゃんがおいらの両親を殺したのは俺だ、って言って来たんだ。正直ビックリしたよ。優しくしてくれた父ちゃんが、おいらの親の仇だったなんて…。」
「それで、どうしたんですか?」
「どうもしないよ。おいらの両親を殺したかもしれないけど、父ちゃんは一人ぼっちになったおいらを守ってくれた。今はおいらの大事な人なんだ。」
「そうですか…。」
「悪いのは父ちゃんじゃない。悪い命令をした奴らが悪いんだ!そう言ったら、次の日から姿が消えちゃったんだ。この教会ならもしかして来てるんじゃないかと思ったんだけど…。」
「残念。来ていませんね。きっと急用ができたのでしょう。家で待っていなさい。そのうち帰ってきますよ。」
「うん…。」
サムは寂しげに帰って行った。

同日。懺悔室にて。
「神父さん。」
「その声はジャンさん!?どこに行っていたんですか?サムくんが心配していましたよ。」
「…そうか。」
「ずいぶん懐いているみたいですね。あなたのことを父ちゃんなどと呼んで…。」
「…複雑な気分だよ。俺はあいつに自分の罪を打ち明けた。お前の両親は俺が殺したんだって。あいつは許してくれたよ。本当に悪いのは、悪い命令をした奴らだ、ってな。その一言で、俺なりのケジメの付け方を思いついたんだ。」
「ケジメ?」
「あの組織をぶっ潰す。それで俺が犯した罪は消えないが、今後あいつのような思いをする子供は減るだろう。」
「ジャンさん。しかしそれでは…。」
「神父さん。あんたに頼みがある。俺からの最期の頼みだ。聞いてほしい…。」


数日後、懺悔室。
「神父さん…。父ちゃんが帰って来ないんだ。」
「サムくん…。あなたのお父さん…ジャンさんは自分の罪と向き合い、立派な最期を遂げました。」
「え…。最期って…?」
「自分が所属していたマフィア組織を壊滅させたのです。たった一人で…。」
「そ、そんな…。じゃあ父ちゃんは…。」
「…ジャンさんから伝言を預かっています。あなたの今後の面倒を見るようにと。そして自分の溜め込んだ金を全てあなたに譲ると。」
「…そんなのいらない。父ちゃんが帰って来てくれないなんてやだよ…!」
「サムくん。人間はいつか自分の罪と向き合わねばならないのです。あなたのお父さんは、自分の罪から逃げず立派な最期を遂げたのです。そんなお父さんに愛されたことを誇りに思いなさい…。」
「うわぁぁん…!うわぁぁん…!」
その日の懺悔室からは、少年の泣き声がいつまでも、いつまでも響き続けていた…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

パワハラ女上司からのラッキースケベが止まらない

セカイ
ライト文芸
新入社員の『俺』草野新一は入社して半年以上の間、上司である椿原麗香からの執拗なパワハラに苦しめられていた。 しかしそんな屈辱的な時間の中で毎回発生するラッキースケベな展開が、パワハラによる苦しみを相殺させている。 高身長でスタイルのいい超美人。おまけにすごく巨乳。性格以外は最高に魅力的な美人上司が、パワハラ中に引き起こす無自覚ラッキースケベの数々。 パワハラはしんどくて嫌だけれど、ムフフが美味しすぎて堪らない。そんな彼の日常の中のとある日の物語。 ※他サイト(小説家になろう・カクヨム・ノベルアッププラス)でも掲載。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夏色パイナップル

餅狐様
ライト文芸
幻の怪魚“大滝之岩姫”伝説。 城山市滝村地区では古くから語られる伝承で、それに因んだ祭りも行われている、そこに住まう誰しもが知っているおとぎ話だ。 しかしある時、大滝村のダム化計画が市長の判断で決まってしまう。 もちろん、地区の人達は大反対。 猛抗議の末に生まれた唯一の回避策が岩姫の存在を証明してみせることだった。 岩姫の存在を証明してダム化計画を止められる期限は八月末。 果たして、九月を迎えたそこにある結末は、集団離村か存続か。 大滝村地区の存命は、今、問題児達に託された。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

バーチャル女子高生

廣瀬純一
大衆娯楽
バーチャルの世界で女子高生になるサラリーマンの話

処理中です...