26 / 36
お隣さん
しおりを挟む
アパート住まいの山田はお隣さんに困っていた。
「あの野郎…!いつもいつも夜遅くに物音立てやがって…!」
深夜の2時頃、山田の隣からはいつも妙な音が鳴る。そのせいで山田は近頃寝不足になっていた。
堪りかねた山田は、アパートの管理会社に抗議した。
「俺の隣の部屋のやつが、いつも深夜に騒ぐんだ。あんたらから注意してくれ!」
「はい…。分かりました。ではあなたの部屋番号とお名前をどうぞ。」
「部屋番号は206号室。名前は山田だ。」
「206号室の山田様ですね?確認いたしますので少々お待ちください…。」
しばらく保留中の音楽が流れたあと、またオペレーターが電話に出た。
「…恐れ入りますが、ご確認いたします。206号室の山田様でお間違いありませんね?」
「ああ、そうだ。」
「妙ですね…。お隣には誰も住んでらっしゃいませんが?」
「そんなバカな!現に隣から物音が毎晩聞こえて…!」
「そのお隣に住まわれている方をお見かけしましたか?」
オペレーターの質問に、山田は返答に詰まった。
「あ、いや…。見たことはない、かな…。」
「何かの聞き間違いでしょう。一応、こちらでも調査してみますのでまた何かありましたらご連絡下さい。」
「あ、ああ…。分かりました…。」
煮え切らないまま、山田は電話を切った。
(誰も住んでないだと?何かの聞き間違いだと?そんなはずはない。この数日、ずっとこの音に悩まされたんだ。何かの間違いのはずがない!)
悶々としながら、山田はその夜も床についた。
…深夜2時。
バリッ グチャッ ビリッ……
いつもの妙な物音で山田は目を覚ました。例の耳障りな隣の物音だ。
「野郎…!また騒いでやがるな…!もう、勘弁ならん!」
山田は思い切って、隣に乗り込むことにした。
「あの!隣に住んでるものですが!」
こんこんと強めにノックする山田だったが、応答はない。しかも中から未だにあの物音がしている。
「~~~~!!」
頭にきた山田はドアを開けて無理やり入ることにした。
「おいあんた!いい加減にしろよ!」
部屋の中は全体が薄桃色一色になっていた。家具らしい家具は一切なく、そこらにドロドロの粘液まみれになった衣服が散らかっていた。空気は妙に生暖かく、異様な臭気が部屋全体に広がっていた。
(何だ?この部屋…。ここの住人は一体何をやってるんだ?)
「どなたかな?」
部屋の奥から声がした。ここの住人らしい。
「と、隣の部屋のもんだ!夜遅くに物音がするから苦情言いにきたんだよ!」
「おお…。それはそれは。大変失礼なことをした。」
声の主が部屋の奥から現れた。部屋の中だというのに、黒いハットを目深くかぶり、黒いコート、黒いスラックスと全身黒ずくめだった。顔は見えず、男か女かもわからない。
「あんた、一体こんな時間に何やってるんだ。」
「ペットに餌をやってたんですよ。私のペットがいつもこの時間に腹を空かせるのでね。」
「ペットだと?冗談よせ。そんなもんどこにいるんだ。」
山田は部屋の中を見回したが、ペットどころか、物一つ見当たらなかった。
「気づきませんかな?あなたはずっと私のペットを見ているのですが…。」
「人をおちょくるのもいい加減にしろ。本当の理由を言え!」
「ですから、理由は先程述べたじゃありませんか……」
と、いきなり部屋の床が歪み始めた。床だけじゃない。よく見れば、壁も一面まるで生きもののように脈打っている。
「な、なんだ!?」
「…どうやらまだお腹がすいていたようですね。意地汚い子だ…。」
そう言って、黒衣の住人は消えてしまった。
「お、おい!どこ行きやがった!おい!」
住人が消えた後、部屋の天井が、壁が徐々に狭まってきた。そこら中から生暖かい粘液が噴き出してくる。山田がその粘液に触れた部分はたちまち溶けてしまった。
「な、なんだ!?この部屋は!まさかペットって…!?」
押し迫る壁から、無数の白い突起が飛び出し、山田の全身を貫いた。一度貫くだけでは飽き足らず、二度、三度と何度も貫く。その度に山田の肉が、骨が粉々に砕かれていく…。
遠のく意識の中、山田は自分が毎晩聞いていた音はこの音だったんだな、と思うのだった。
…お隣さんのこと、よくご存知ですか?何という名で、何をしているか知っていますか?
知っておいた方が、身のためかもしれませんよ…。
「あの野郎…!いつもいつも夜遅くに物音立てやがって…!」
深夜の2時頃、山田の隣からはいつも妙な音が鳴る。そのせいで山田は近頃寝不足になっていた。
堪りかねた山田は、アパートの管理会社に抗議した。
「俺の隣の部屋のやつが、いつも深夜に騒ぐんだ。あんたらから注意してくれ!」
「はい…。分かりました。ではあなたの部屋番号とお名前をどうぞ。」
「部屋番号は206号室。名前は山田だ。」
「206号室の山田様ですね?確認いたしますので少々お待ちください…。」
しばらく保留中の音楽が流れたあと、またオペレーターが電話に出た。
「…恐れ入りますが、ご確認いたします。206号室の山田様でお間違いありませんね?」
「ああ、そうだ。」
「妙ですね…。お隣には誰も住んでらっしゃいませんが?」
「そんなバカな!現に隣から物音が毎晩聞こえて…!」
「そのお隣に住まわれている方をお見かけしましたか?」
オペレーターの質問に、山田は返答に詰まった。
「あ、いや…。見たことはない、かな…。」
「何かの聞き間違いでしょう。一応、こちらでも調査してみますのでまた何かありましたらご連絡下さい。」
「あ、ああ…。分かりました…。」
煮え切らないまま、山田は電話を切った。
(誰も住んでないだと?何かの聞き間違いだと?そんなはずはない。この数日、ずっとこの音に悩まされたんだ。何かの間違いのはずがない!)
悶々としながら、山田はその夜も床についた。
…深夜2時。
バリッ グチャッ ビリッ……
いつもの妙な物音で山田は目を覚ました。例の耳障りな隣の物音だ。
「野郎…!また騒いでやがるな…!もう、勘弁ならん!」
山田は思い切って、隣に乗り込むことにした。
「あの!隣に住んでるものですが!」
こんこんと強めにノックする山田だったが、応答はない。しかも中から未だにあの物音がしている。
「~~~~!!」
頭にきた山田はドアを開けて無理やり入ることにした。
「おいあんた!いい加減にしろよ!」
部屋の中は全体が薄桃色一色になっていた。家具らしい家具は一切なく、そこらにドロドロの粘液まみれになった衣服が散らかっていた。空気は妙に生暖かく、異様な臭気が部屋全体に広がっていた。
(何だ?この部屋…。ここの住人は一体何をやってるんだ?)
「どなたかな?」
部屋の奥から声がした。ここの住人らしい。
「と、隣の部屋のもんだ!夜遅くに物音がするから苦情言いにきたんだよ!」
「おお…。それはそれは。大変失礼なことをした。」
声の主が部屋の奥から現れた。部屋の中だというのに、黒いハットを目深くかぶり、黒いコート、黒いスラックスと全身黒ずくめだった。顔は見えず、男か女かもわからない。
「あんた、一体こんな時間に何やってるんだ。」
「ペットに餌をやってたんですよ。私のペットがいつもこの時間に腹を空かせるのでね。」
「ペットだと?冗談よせ。そんなもんどこにいるんだ。」
山田は部屋の中を見回したが、ペットどころか、物一つ見当たらなかった。
「気づきませんかな?あなたはずっと私のペットを見ているのですが…。」
「人をおちょくるのもいい加減にしろ。本当の理由を言え!」
「ですから、理由は先程述べたじゃありませんか……」
と、いきなり部屋の床が歪み始めた。床だけじゃない。よく見れば、壁も一面まるで生きもののように脈打っている。
「な、なんだ!?」
「…どうやらまだお腹がすいていたようですね。意地汚い子だ…。」
そう言って、黒衣の住人は消えてしまった。
「お、おい!どこ行きやがった!おい!」
住人が消えた後、部屋の天井が、壁が徐々に狭まってきた。そこら中から生暖かい粘液が噴き出してくる。山田がその粘液に触れた部分はたちまち溶けてしまった。
「な、なんだ!?この部屋は!まさかペットって…!?」
押し迫る壁から、無数の白い突起が飛び出し、山田の全身を貫いた。一度貫くだけでは飽き足らず、二度、三度と何度も貫く。その度に山田の肉が、骨が粉々に砕かれていく…。
遠のく意識の中、山田は自分が毎晩聞いていた音はこの音だったんだな、と思うのだった。
…お隣さんのこと、よくご存知ですか?何という名で、何をしているか知っていますか?
知っておいた方が、身のためかもしれませんよ…。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
監獄の部屋
hyui
ライト文芸
初投稿となります。よろしくお願いします。
異次元に迷い込んだ男の話他、短篇集となっています。
2017/07/24
一まず、完結といたします。
もっと面白いものが書けるよう、これからも頑張ります。
読んで下さった方々、ありがとうございました!
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる