破滅の足音

hyui

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お隣さん

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アパート住まいの山田はお隣さんに困っていた。
「あの野郎…!いつもいつも夜遅くに物音立てやがって…!」
深夜の2時頃、山田の隣からはいつも妙な音が鳴る。そのせいで山田は近頃寝不足になっていた。


堪りかねた山田は、アパートの管理会社に抗議した。
「俺の隣の部屋のやつが、いつも深夜に騒ぐんだ。あんたらから注意してくれ!」
「はい…。分かりました。ではあなたの部屋番号とお名前をどうぞ。」
「部屋番号は206号室。名前は山田だ。」
「206号室の山田様ですね?確認いたしますので少々お待ちください…。」
しばらく保留中の音楽が流れたあと、またオペレーターが電話に出た。
「…恐れ入りますが、ご確認いたします。206号室の山田様でお間違いありませんね?」
「ああ、そうだ。」
「妙ですね…。お隣には誰も住んでらっしゃいませんが?」
「そんなバカな!現に隣から物音が毎晩聞こえて…!」
「そのお隣に住まわれている方をお見かけしましたか?」
オペレーターの質問に、山田は返答に詰まった。
「あ、いや…。見たことはない、かな…。」
「何かの聞き間違いでしょう。一応、こちらでも調査してみますのでまた何かありましたらご連絡下さい。」
「あ、ああ…。分かりました…。」
煮え切らないまま、山田は電話を切った。

(誰も住んでないだと?何かの聞き間違いだと?そんなはずはない。この数日、ずっとこの音に悩まされたんだ。何かの間違いのはずがない!)
悶々としながら、山田はその夜も床についた。


…深夜2時。

バリッ     グチャッ       ビリッ……


いつもの妙な物音で山田は目を覚ました。例の耳障りな隣の物音だ。
「野郎…!また騒いでやがるな…!もう、勘弁ならん!」
山田は思い切って、隣に乗り込むことにした。
「あの!隣に住んでるものですが!」
こんこんと強めにノックする山田だったが、応答はない。しかも中から未だにあの物音がしている。
「~~~~!!」
頭にきた山田はドアを開けて無理やり入ることにした。
「おいあんた!いい加減にしろよ!」
部屋の中は全体が薄桃色一色になっていた。家具らしい家具は一切なく、そこらにドロドロの粘液まみれになった衣服が散らかっていた。空気は妙に生暖かく、異様な臭気が部屋全体に広がっていた。
(何だ?この部屋…。ここの住人は一体何をやってるんだ?)
「どなたかな?」
部屋の奥から声がした。ここの住人らしい。
「と、隣の部屋のもんだ!夜遅くに物音がするから苦情言いにきたんだよ!」
「おお…。それはそれは。大変失礼なことをした。」
声の主が部屋の奥から現れた。部屋の中だというのに、黒いハットを目深くかぶり、黒いコート、黒いスラックスと全身黒ずくめだった。顔は見えず、男か女かもわからない。
「あんた、一体こんな時間に何やってるんだ。」
「ペットに餌をやってたんですよ。私のペットがいつもこの時間に腹を空かせるのでね。」
「ペットだと?冗談よせ。そんなもんどこにいるんだ。」
山田は部屋の中を見回したが、ペットどころか、物一つ見当たらなかった。
「気づきませんかな?あなたはずっと私のペットを見ているのですが…。」
「人をおちょくるのもいい加減にしろ。本当の理由を言え!」
「ですから、理由は先程述べたじゃありませんか……」
と、いきなり部屋の床が歪み始めた。床だけじゃない。よく見れば、壁も一面まるで生きもののように脈打っている。
「な、なんだ!?」
「…どうやらまだお腹がすいていたようですね。意地汚い子だ…。」
そう言って、黒衣の住人は消えてしまった。
「お、おい!どこ行きやがった!おい!」
住人が消えた後、部屋の天井が、壁が徐々に狭まってきた。そこら中から生暖かい粘液が噴き出してくる。山田がその粘液に触れた部分はたちまち溶けてしまった。
「な、なんだ!?この部屋は!まさかペットって…!?」
押し迫る壁から、無数の白い突起が飛び出し、山田の全身を貫いた。一度貫くだけでは飽き足らず、二度、三度と何度も貫く。その度に山田の肉が、骨が粉々に砕かれていく…。
遠のく意識の中、山田は自分が毎晩聞いていた音はこの音だったんだな、と思うのだった。


…お隣さんのこと、よくご存知ですか?何という名で、何をしているか知っていますか?
知っておいた方が、身のためかもしれませんよ…。
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