30 / 32
第二章
第二十九話「幻の館の正体」
しおりを挟む草むらの中にいる俺は身長20cmの指の長さくらいの大きさになってしまっていた。
「ちっさ!何これ!すげえっ、小さくなった!?」
俺は不思議な光景にくるくると回って興奮していた。
だけど、こんな小さい体になってしまったらどうやって妖精の館に向かえばいいのだろうか。
俺は小さくなった体で腕を組みながら考えた。
小さくなったことによってなのか、あたりの様子も変わってくる。
さっきまで小さかったきのこなどが同じぐらいの高さになっていたり、カバンなど手に持っていけるものが自分の背より大きくなったりと、見えているものに興奮がやまない状態だった。
「と、とにかくこれからどうしたらいいのだろうか……」
一旦落ち着かせようと深呼吸をするものの、これからどうしたらいいのか考えると先程よりも見つけるのに至難の業が必要なのではないかと考えた。
「あれ、キミ誰?」
俺は小さくなった体のまま声がする方を振り返ると、羽を生やした小さな男の子がいた。
それはまさに想像していた通りの、妖精の姿だった。
「!……すまない、妖精の館まで連れて行ってくれ!」
「……何言ってるの?妖精の館ならほら!」
妖精の男の子と思われる彼が指差す方向を見たら、妖精の国へようこそと書いてある立て看板を見つけた。
そう、妖精の館はこの国の中にあるのだ。
「妖精の国……、ということは館もこの国にあるってことか?」
俺は口に手を当てながら考えていたら、くすくすと笑い声が聞こえた。
「お兄さん面白いね。同じ妖精なのに妖精の館を知らないなんて」
俺はその言葉に首をかしげて、一度妖精の顔を見つめた。
同じ妖精なのに?と頭の中で言葉が渦巻いていた。
「いや、俺は人間で!」
「何言ってるの?羽ついてるじゃない?」
羽と言われて手探りで背中を触ると、確かに背中には薄くて透明がかった綺麗な青色の羽が生えていた。
一体いつの間にそんな羽が生えていたのだろかと考えながらも、にこにこと微笑んでくる少年の視線が気になりニコッと笑い返した。
「お兄さん、館に行きたいなら僕が案内してあげるよ!ほら、こっちだよ!」
こっちだよと言われてもと言いたいのは山々だったが、どのみち館には用があったためどうにかして羽を動かそうと試行錯誤した。
その結果念じれば動くことが分かり、なんとか少しだけ宙に浮くことができた。
鳥になる感覚ってこういうことなのだろうかと、苦笑しつつ少年を追いかけた。
「ここが妖精の館って呼ばれる、ラビリアさんのおうちなんだよー」
片手を掲げながら自慢げな表情で紹介するので、俺は思わず拍手をした。
そのまま中に入るべく扉をノックすると、ゆっくりと開くので怖くなり後ずさった。
「怖いよねー。自動で空くんだもの、ラビリアさんは本当にからくりを作るのがうまいんだー」
怖いと言いながらも笑って中に入る少年を冷めた目で見つめながら一緒に入っていった。
妖精の館と呼ばれる屋敷の中はすごく暗く肖像画なども飾ってあり、ホラーなところだと思ってしまった。
「わあ!ラビリアさあぁぁぁん!大丈夫!?ねえ、大丈夫なのー?!」
慌てる少年の後ろからひょっこり顔を出して、辺りを見回した。
からくりをよく作ると言っていたが、この有様じゃどこになにがあるのかわかったもんじゃないってくらい散らかっていた。
そんな中でうつぶせになりながら、気を失っているかのようにびくともしない女性の姿があった。
「この人がラビリアさん……?」
騒ぎ出す少年を余所に冷静な様子で脈と心臓が動いているか確かめた。
脈も正常だし、心臓も動いていた。
単なる居眠りだった。
「これは完全に……、寝ているな」
「スイーツがいっぱい……、甘いのだいすきー……」
万が一死んでいたら危ないと思い確認をしてみたが、ただの寝ているだけだと分かって少年を落ち着かせた。
少年は本当に大丈夫なのという顔で涙目になりながらこちらを見つめてくる。
「ああ、大丈夫だ。ベッドとか寝室はどこだ?運ぼう」
寝ているラビリアさんをお姫様抱っこするようにかかえたまま、寝室をどこにあるのか聞いてみた。
少年は泣きべそをかきながら寝室の場所まで案内してくれた。
「これでいいだろう……。何なんだあのざまは」
ベッドに寝かせると、気持ちよさそうに眠りながらヨダレを垂らしていた。
この人本当に大丈夫かと呆れながらも見つめていると、少年が俺の体中の匂いを嗅ぎ始めた。
「何この香りー!すごいいい匂いがする!お兄さんの体から甘い香りがするー!」
「甘い香り?ああ、それはスイーツとかの香りだと思うぞ」
甘い香りに顔が崩壊するほど幸せそうな顔をしていた。
俺は自分の体の匂いを嗅ぎながら首をかしげたまま呟いた。
「スイーツ……って、なに?」
スイーツについても知らないようだったので、口をぽかんと開けたまま少年を見つめた。
0
お気に入りに追加
791
あなたにおすすめの小説
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました
ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが……
なろう、カクヨムでも投稿しています。
迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~
飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。
彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。
独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。
この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。
※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
下級兵士は断罪された追放令嬢を護送する。
やすぴこ
ファンタジー
「ジョセフィーヌ!! 貴様を断罪する!!」
王立学園で行われたプロムナード開催式の場で、公爵令嬢ジョセフィーヌは婚約者から婚約破棄と共に数々の罪を断罪される。
愛していた者からの慈悲無き宣告、親しかった者からの嫌悪、信じていた者からの侮蔑。
弁解の機会も与えられず、その場で悪名高い国外れの修道院送りが決定した。
このお話はそんな事情で王都を追放された悪役令嬢の素性を知らぬまま、修道院まで護送する下級兵士の恋物語である。
この度なろう、アルファ、カクヨムで同時完結しました。
(なろう版だけ諸事情で18話と19話が一本となっておりますが、内容は同じです)
2/7 最終章 外伝『旅する母のラプソディ』を投稿する為、完結解除しました。
2/9 『旅する母のラプソディ』完結しました。アルファポリスオンリーの外伝を近日中にアップします。
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる