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第二章

第二十九話「幻の館の正体」

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 草むらの中にいる俺は身長20cmの指の長さくらいの大きさになってしまっていた。

 「ちっさ!何これ!すげえっ、小さくなった!?」

 俺は不思議な光景にくるくると回って興奮していた。
 だけど、こんな小さい体になってしまったらどうやって妖精の館に向かえばいいのだろうか。
 俺は小さくなった体で腕を組みながら考えた。

 小さくなったことによってなのか、あたりの様子も変わってくる。
 さっきまで小さかったきのこなどが同じぐらいの高さになっていたり、カバンなど手に持っていけるものが自分の背より大きくなったりと、見えているものに興奮がやまない状態だった。

 「と、とにかくこれからどうしたらいいのだろうか……」

 一旦落ち着かせようと深呼吸をするものの、これからどうしたらいいのか考えると先程よりも見つけるのに至難の業が必要なのではないかと考えた。

 「あれ、キミ誰?」

 俺は小さくなった体のまま声がする方を振り返ると、羽を生やした小さな男の子がいた。
 それはまさに想像していた通りの、妖精の姿だった。
 
 「!……すまない、妖精の館まで連れて行ってくれ!」

 「……何言ってるの?妖精の館ならほら!」

 妖精の男の子と思われる彼が指差す方向を見たら、妖精の国へようこそと書いてある立て看板を見つけた。
 そう、妖精の館はこの国の中にあるのだ。

 「妖精の国……、ということは館もこの国にあるってことか?」

 俺は口に手を当てながら考えていたら、くすくすと笑い声が聞こえた。

 「お兄さん面白いね。同じ妖精なのに妖精の館を知らないなんて」

 俺はその言葉に首をかしげて、一度妖精の顔を見つめた。
 同じ妖精なのに?と頭の中で言葉が渦巻いていた。

 「いや、俺は人間で!」

 「何言ってるの?羽ついてるじゃない?」

 羽と言われて手探りで背中を触ると、確かに背中には薄くて透明がかった綺麗な青色の羽が生えていた。
 一体いつの間にそんな羽が生えていたのだろかと考えながらも、にこにこと微笑んでくる少年の視線が気になりニコッと笑い返した。

 「お兄さん、館に行きたいなら僕が案内してあげるよ!ほら、こっちだよ!」

 こっちだよと言われてもと言いたいのは山々だったが、どのみち館には用があったためどうにかして羽を動かそうと試行錯誤した。
 その結果念じれば動くことが分かり、なんとか少しだけ宙に浮くことができた。
 鳥になる感覚ってこういうことなのだろうかと、苦笑しつつ少年を追いかけた。

 「ここが妖精の館って呼ばれる、ラビリアさんのおうちなんだよー」

 片手を掲げながら自慢げな表情で紹介するので、俺は思わず拍手をした。
 そのまま中に入るべく扉をノックすると、ゆっくりと開くので怖くなり後ずさった。

 「怖いよねー。自動で空くんだもの、ラビリアさんは本当にからくりを作るのがうまいんだー」
 
 怖いと言いながらも笑って中に入る少年を冷めた目で見つめながら一緒に入っていった。
 妖精の館と呼ばれる屋敷の中はすごく暗く肖像画なども飾ってあり、ホラーなところだと思ってしまった。

 「わあ!ラビリアさあぁぁぁん!大丈夫!?ねえ、大丈夫なのー?!」
 
 慌てる少年の後ろからひょっこり顔を出して、辺りを見回した。
 からくりをよく作ると言っていたが、この有様じゃどこになにがあるのかわかったもんじゃないってくらい散らかっていた。
 そんな中でうつぶせになりながら、気を失っているかのようにびくともしない女性の姿があった。

 「この人がラビリアさん……?」

 騒ぎ出す少年を余所に冷静な様子で脈と心臓が動いているか確かめた。
 脈も正常だし、心臓も動いていた。
 単なる居眠りだった。

 「これは完全に……、寝ているな」

 「スイーツがいっぱい……、甘いのだいすきー……」
 
 万が一死んでいたら危ないと思い確認をしてみたが、ただの寝ているだけだと分かって少年を落ち着かせた。
 少年は本当に大丈夫なのという顔で涙目になりながらこちらを見つめてくる。
 
 「ああ、大丈夫だ。ベッドとか寝室はどこだ?運ぼう」

 寝ているラビリアさんをお姫様抱っこするようにかかえたまま、寝室をどこにあるのか聞いてみた。
 少年は泣きべそをかきながら寝室の場所まで案内してくれた。

 「これでいいだろう……。何なんだあのざまは」

 ベッドに寝かせると、気持ちよさそうに眠りながらヨダレを垂らしていた。
 この人本当に大丈夫かと呆れながらも見つめていると、少年が俺の体中の匂いを嗅ぎ始めた。

 「何この香りー!すごいいい匂いがする!お兄さんの体から甘い香りがするー!」

 「甘い香り?ああ、それはスイーツとかの香りだと思うぞ」

 甘い香りに顔が崩壊するほど幸せそうな顔をしていた。
 俺は自分の体の匂いを嗅ぎながら首をかしげたまま呟いた。
 
 「スイーツ……って、なに?」

 スイーツについても知らないようだったので、口をぽかんと開けたまま少年を見つめた。
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