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男風呂
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(……冷静になった。俺、かなりやばいことしたのでは?)
シャワーに当たる勇はデコに両手を当てながら先程のことを思い出していた。
いきなり抱きしめ、耳元で囁き、頭を撫でる。本当のカップルならなんてこともない行動なのかもしれないが、勇と紗夜はあくまでも仮のカップルなため、勇の思考は冷静ではいられなかった。
(いやでも、あいつも抵抗してこなかったし……なんなら舐めようとしてきたし)
自分に言い聞かせるようにグリグリとデコに拳を押し当てながら正当化しようとする勇に、先にお湯に浸かる匠海が話しかける。
「お兄さん、さっきはありがとうございます」
「いやいや。元はと言えばこっちに責任があったし」
「それでも本当にありがとうございます」
謝る匠海はお湯の中で正座をしており、丁寧に膝に拳をつけて水面ギリギリまで頭を下げている。
そんな匠海の体を起こさせた勇もお湯に浸かり、水面から出る膝に手を置く。
「それで、あいつがなんでああなったのか知ってるか?」
「まぁ……知ってはいますけど、俺からは言えません。多分、姉さんの言葉で過去になにがあったかは大体予想はつくかと思いますが、ちゃんとしたことを聞きたいなら姉さんの口から聞いてくださると嬉しいです」
どことなく気まずそうに目を逸らした匠海は悔しそうに口を閉ざしていた。
紗夜の叫び声から過去に暴力などの身体と精神などが傷つけられることがあったのだろう。さすがの勇もそのことは察しており、これ以上問い詰めることなく、真面目な声音から軽い口調で雰囲気を変えようと口を開く。
「ま、その辺は追々あいつから話されることを願うとして、あいつのメイクをしてたのって匠海くん?」
「そですね。良かったっすか?」
匠海も勇の意思を察したのか、紗夜の話をやめて勇が持ちかけてきたメイクの話へと移行する。
「めちゃくちゃ良かったよ。多分千咲ぐらいなんじゃね?気づくの」
「あー確かに千咲は気が付きましたね」
「やっぱり?でも、あの腕前ならかなり気づくのに時間かかったろ」
「いや、一瞬でしたね。なんなら姉さんが可愛いことまで見抜いてお兄さんとくっつけさせよう作戦を行おうとしてましたよ」
「……なるほど?俺とくっつけよう作戦ねぇ~……」
しまったと言わんばかりに口を手で覆う匠海の行動など無駄で、顔は笑っていた勇だが、朝の事件の犯人が誰というかを感づき始める。
(全部筋が通った。洗濯物の事件、朝の俺とあいつの喧嘩をしていても動揺するどころか、雰囲気を良くするために変なことを言ったことも。そしてあいつが俺のベッドにいたことも)
千咲の行動の一つ一つを理解した勇は目を細めて微笑みながら、
「千咲が主犯だな?」
「……そーなるっすか?」
「うん。そうなるんだよね」
「っすー……なら、そうっすね。千咲が主犯です……」
すべてを悟った匠海は頭の中で手を合わせて未だに紗夜の胸に埋まっているだろう千咲に何度も何度も謝る。
勇も今すぐにでも怒りに行こうと湯船から出ようとするが、せめてもの抗いをみせる匠海は勇が止まりそうな言葉を考えながら並べだす。
「お、お兄さん。これ、姉さんが入った後のお湯っすよ」
「……はい?」
「だ、だから。姉さんの入った後のお湯ですよ」
匠海からの誘惑にピタッと動きを止めた勇は振り返り、手でお湯をすくい上げる匠海のことをジト目で睨みつけた。
「匠海くん」
「あ、はい……」
「君、いい性格してるね」
「あはは、そっすかね」
「本当にいい性格してるよ。そういう人は嫌いじゃないよ?」
「あ、ありがとうございます。大変光栄でございます」
「そんな匠海くんの千咲を思いやる気持ちに免じて、お湯に浸かる時間を3分ぐらい伸ばしてあげるよ」
「っすー……どうもっす……」
勇の行動に再度、色々な意味で察した匠海は肩までお湯に浸かる勇にしらけた目を送り、男は性欲に従順だなと言う答えが匠海の中には生まれてしまった。
匠海の心を読んだかのようにジロッと匠海の目を見た勇は勘違いされないように言葉を付け足し始める。
「あくまでも匠海くんの止めようとした思いに免じてだからな?決してあいつの残り湯だからとかではないから。てかそれだったらキモいだろ。普通にキモいから」
「そ、そっすよね。流石に残り湯を堪能するためにさっきまでは浸かっていなかったはずの肩を湯船につけていたら流石にキモいっすよね」
「……いや、まじであいつが入った後だからって入り直したわけじゃないからな?」
「知ってますよ。それぐらい」
どうやら匠海の勘違いだったようで、紗夜の残り湯だから浸かり直したわけではないと分かった匠海は微笑みを返し、できるだけ長い時間をかけ、更には千咲のことを忘れさせるまで話続けるのだった。
「あっつ!長いこと浸かりすぎた。のぼせる寸前だったわ」
「いや、俺……のぼせたっす……」
「まじ?水持ってこようか」
「お願いします……」
あれから約50分が経ち、湯船では余裕そうに話していた匠海も今では膝に手を付けて肩で呼吸をし、ズボンは履けたものの上半身は裸でタオルを頭にかけていた。
だが、匠海の頑張りは功を奏し、完全に頭の中から千咲のことを忘れた勇は匠海同様に上半身だけは裸でタオルを首にかけて洗面所を後にした。
「あ……服着ないと……」
すぐに気がついた匠海のしおらしい声は扉を超えることもなく、なにも気が付かない勇はそのままリビングへと入ってしまった。
(匠海に水を渡す前に俺も一口飲みたいな)
そんな事を呑気に考えながらキッチンの前に移動し、棚からコップを取ると冷蔵庫から取り出した水を注ぐ。
「あー生き返る。あと1分でも長く入ってたら絶対のぼせてたな」
ふ~、と息を吐きながらコップにもう1度水を注ぎ直しながらリビングの方へ顔を向ける。
当然まだリビングに居る女子二人は勇の方を眺める。紗夜は目を見開きながら顔からかなり下にある腹筋あたりに目が吸い込まれており、千咲は勇の顔と紗夜の顔を交互に眺めてササッと紗夜から距離を取った。
シャワーに当たる勇はデコに両手を当てながら先程のことを思い出していた。
いきなり抱きしめ、耳元で囁き、頭を撫でる。本当のカップルならなんてこともない行動なのかもしれないが、勇と紗夜はあくまでも仮のカップルなため、勇の思考は冷静ではいられなかった。
(いやでも、あいつも抵抗してこなかったし……なんなら舐めようとしてきたし)
自分に言い聞かせるようにグリグリとデコに拳を押し当てながら正当化しようとする勇に、先にお湯に浸かる匠海が話しかける。
「お兄さん、さっきはありがとうございます」
「いやいや。元はと言えばこっちに責任があったし」
「それでも本当にありがとうございます」
謝る匠海はお湯の中で正座をしており、丁寧に膝に拳をつけて水面ギリギリまで頭を下げている。
そんな匠海の体を起こさせた勇もお湯に浸かり、水面から出る膝に手を置く。
「それで、あいつがなんでああなったのか知ってるか?」
「まぁ……知ってはいますけど、俺からは言えません。多分、姉さんの言葉で過去になにがあったかは大体予想はつくかと思いますが、ちゃんとしたことを聞きたいなら姉さんの口から聞いてくださると嬉しいです」
どことなく気まずそうに目を逸らした匠海は悔しそうに口を閉ざしていた。
紗夜の叫び声から過去に暴力などの身体と精神などが傷つけられることがあったのだろう。さすがの勇もそのことは察しており、これ以上問い詰めることなく、真面目な声音から軽い口調で雰囲気を変えようと口を開く。
「ま、その辺は追々あいつから話されることを願うとして、あいつのメイクをしてたのって匠海くん?」
「そですね。良かったっすか?」
匠海も勇の意思を察したのか、紗夜の話をやめて勇が持ちかけてきたメイクの話へと移行する。
「めちゃくちゃ良かったよ。多分千咲ぐらいなんじゃね?気づくの」
「あー確かに千咲は気が付きましたね」
「やっぱり?でも、あの腕前ならかなり気づくのに時間かかったろ」
「いや、一瞬でしたね。なんなら姉さんが可愛いことまで見抜いてお兄さんとくっつけさせよう作戦を行おうとしてましたよ」
「……なるほど?俺とくっつけよう作戦ねぇ~……」
しまったと言わんばかりに口を手で覆う匠海の行動など無駄で、顔は笑っていた勇だが、朝の事件の犯人が誰というかを感づき始める。
(全部筋が通った。洗濯物の事件、朝の俺とあいつの喧嘩をしていても動揺するどころか、雰囲気を良くするために変なことを言ったことも。そしてあいつが俺のベッドにいたことも)
千咲の行動の一つ一つを理解した勇は目を細めて微笑みながら、
「千咲が主犯だな?」
「……そーなるっすか?」
「うん。そうなるんだよね」
「っすー……なら、そうっすね。千咲が主犯です……」
すべてを悟った匠海は頭の中で手を合わせて未だに紗夜の胸に埋まっているだろう千咲に何度も何度も謝る。
勇も今すぐにでも怒りに行こうと湯船から出ようとするが、せめてもの抗いをみせる匠海は勇が止まりそうな言葉を考えながら並べだす。
「お、お兄さん。これ、姉さんが入った後のお湯っすよ」
「……はい?」
「だ、だから。姉さんの入った後のお湯ですよ」
匠海からの誘惑にピタッと動きを止めた勇は振り返り、手でお湯をすくい上げる匠海のことをジト目で睨みつけた。
「匠海くん」
「あ、はい……」
「君、いい性格してるね」
「あはは、そっすかね」
「本当にいい性格してるよ。そういう人は嫌いじゃないよ?」
「あ、ありがとうございます。大変光栄でございます」
「そんな匠海くんの千咲を思いやる気持ちに免じて、お湯に浸かる時間を3分ぐらい伸ばしてあげるよ」
「っすー……どうもっす……」
勇の行動に再度、色々な意味で察した匠海は肩までお湯に浸かる勇にしらけた目を送り、男は性欲に従順だなと言う答えが匠海の中には生まれてしまった。
匠海の心を読んだかのようにジロッと匠海の目を見た勇は勘違いされないように言葉を付け足し始める。
「あくまでも匠海くんの止めようとした思いに免じてだからな?決してあいつの残り湯だからとかではないから。てかそれだったらキモいだろ。普通にキモいから」
「そ、そっすよね。流石に残り湯を堪能するためにさっきまでは浸かっていなかったはずの肩を湯船につけていたら流石にキモいっすよね」
「……いや、まじであいつが入った後だからって入り直したわけじゃないからな?」
「知ってますよ。それぐらい」
どうやら匠海の勘違いだったようで、紗夜の残り湯だから浸かり直したわけではないと分かった匠海は微笑みを返し、できるだけ長い時間をかけ、更には千咲のことを忘れさせるまで話続けるのだった。
「あっつ!長いこと浸かりすぎた。のぼせる寸前だったわ」
「いや、俺……のぼせたっす……」
「まじ?水持ってこようか」
「お願いします……」
あれから約50分が経ち、湯船では余裕そうに話していた匠海も今では膝に手を付けて肩で呼吸をし、ズボンは履けたものの上半身は裸でタオルを頭にかけていた。
だが、匠海の頑張りは功を奏し、完全に頭の中から千咲のことを忘れた勇は匠海同様に上半身だけは裸でタオルを首にかけて洗面所を後にした。
「あ……服着ないと……」
すぐに気がついた匠海のしおらしい声は扉を超えることもなく、なにも気が付かない勇はそのままリビングへと入ってしまった。
(匠海に水を渡す前に俺も一口飲みたいな)
そんな事を呑気に考えながらキッチンの前に移動し、棚からコップを取ると冷蔵庫から取り出した水を注ぐ。
「あー生き返る。あと1分でも長く入ってたら絶対のぼせてたな」
ふ~、と息を吐きながらコップにもう1度水を注ぎ直しながらリビングの方へ顔を向ける。
当然まだリビングに居る女子二人は勇の方を眺める。紗夜は目を見開きながら顔からかなり下にある腹筋あたりに目が吸い込まれており、千咲は勇の顔と紗夜の顔を交互に眺めてササッと紗夜から距離を取った。
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