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第6章
突然の告白
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存分に東京観光を楽しんだあと、二人は劇場に向かった。蓮十郎の楽屋へ行くと、暖かく迎えてくれた。
「やあ、よう来てくれたなあ」
「蓮十郎兄さん、おめでとうございます。チケットくれてありがとう」
「おめでとうございます。蓮十郎さん、休暇のこと含めて、色々と力を尽くしてくださってありがとうございます」
「いやいや、綾ちゃん。むしろすまんかったなあ。知八さんもついてくることになってしもうて」
「なんであかんの。ええやん」
ぷう、と膨れて知八は言った。
「ええ、知八さんも一緒で楽しいです」
綾之助のことばに知八はすぐ機嫌を直した。
「せやろ。午前中はね、スカイツリーへ行ってきたんですよ。楽しかった!」
知八はいかに楽しい観光をしてきたかを長々と言い立てはじめた。
「ちょっと、知八さん。公演前にあんまり長居したら失礼ですよ」
「ええねん、ええねん。二人とも楽しんでくれたんやったら良かったです」
蓮十郎はあくまで優しい。
「せや。昨日葦嶋さんが来はってな。面白いこと言うてはってん」
ふふ、と楽しそうに笑いながら、蓮十郎が話題を振ってきた。
「拓真さんいてはるやろ。あの人、お見合いしたらしいで。それが好感触やったらしくて」
綾之助は驚いて、しばらく声が出なかった。
「会長さん喜んではったわ。なんかええとこのお嬢さんらしいで。……どこのお嬢さんか忘れたけど」
「忘れたって。蓮十郎兄さんらしいけど」
「そう、なんですか。それは、おめでたいですね」
拓真は、結婚するのか。なんで。なんで、結婚するんや。
綾之助はそう考えた。そんなことを考える自分が怖かった。拓真が何をしようと、綾之助には関係のないことだ。それをとやかく言う権利はない。それなのに、どうして、って考えてしまう。
ああ、やっと分かった。優しくて、誠実で、金持ちやのに偉そぶってない拓真さん。
うちは、拓真さんのことが好きやったんやな。
夜は知八が行ってみたいと言ったレストランで食べることにした。
「蓮十郎兄さんの舞台、良かったな。あんなに歌うまいとは知らんかったわあ」
知八はもりもりとご飯を食べながら言った。
「ええ、そうですね」
綾之助はうっすら笑みを浮かべて答えた。なんだかとても疲れていた。
「ほんまに、ええ舞台でした」
「どうしたん、綾。元気ないね」
「いえ。そんなことないですよ」
「今日、楽しくなかった?」
そう言いながら、知八は上目遣いで綾之助の様子を伺った。
「いえ、すっごく楽しかったですよ!」
慌てて綾之助は言った。
「ほんまか?」
「ええ」
「じゃあ、拓真さんのことか?」
「……」
綾之助はとっさに否定しようとしたが、知八の真剣な顔を見て嘘をつけなくなってしまった。
「なあ、綾。やっぱり、綾之助は拓真さんのことが好きなん?」
「それは、」
綾之助はことばに詰まった。
「別に隠さんでええよ。綾の気持ちも分からんではないし。あの人、ちょっと変わったはるけど、ええ人やと思うよ。せやけど、僕は嫌いや」
「え、なんでですか」
「綾にそんな顔させるから。だって、僕は、綾之助のこと好きやから」
どういう意味やろう、と一瞬綾之助は戸惑った。ただ単純に綾之助のことを好ましく思っている、という意味にも取れる。しかしこの文脈ではまるで……
「綾は僕のこと子供と思てるから、そんなこと、思いもせんかったやろ。でも、僕はずっと綾のこと、好きやったんや」
「それって、」
「綾。僕やったらあかんか? 僕は絶対、綾にそんな顔させへん。だから、」
綾之助は自分が泣いているのに気づいた。なぜ泣いているのか、自分でもよくは分からなかったけれど。
「綾。僕のものになってくれ」
「やあ、よう来てくれたなあ」
「蓮十郎兄さん、おめでとうございます。チケットくれてありがとう」
「おめでとうございます。蓮十郎さん、休暇のこと含めて、色々と力を尽くしてくださってありがとうございます」
「いやいや、綾ちゃん。むしろすまんかったなあ。知八さんもついてくることになってしもうて」
「なんであかんの。ええやん」
ぷう、と膨れて知八は言った。
「ええ、知八さんも一緒で楽しいです」
綾之助のことばに知八はすぐ機嫌を直した。
「せやろ。午前中はね、スカイツリーへ行ってきたんですよ。楽しかった!」
知八はいかに楽しい観光をしてきたかを長々と言い立てはじめた。
「ちょっと、知八さん。公演前にあんまり長居したら失礼ですよ」
「ええねん、ええねん。二人とも楽しんでくれたんやったら良かったです」
蓮十郎はあくまで優しい。
「せや。昨日葦嶋さんが来はってな。面白いこと言うてはってん」
ふふ、と楽しそうに笑いながら、蓮十郎が話題を振ってきた。
「拓真さんいてはるやろ。あの人、お見合いしたらしいで。それが好感触やったらしくて」
綾之助は驚いて、しばらく声が出なかった。
「会長さん喜んではったわ。なんかええとこのお嬢さんらしいで。……どこのお嬢さんか忘れたけど」
「忘れたって。蓮十郎兄さんらしいけど」
「そう、なんですか。それは、おめでたいですね」
拓真は、結婚するのか。なんで。なんで、結婚するんや。
綾之助はそう考えた。そんなことを考える自分が怖かった。拓真が何をしようと、綾之助には関係のないことだ。それをとやかく言う権利はない。それなのに、どうして、って考えてしまう。
ああ、やっと分かった。優しくて、誠実で、金持ちやのに偉そぶってない拓真さん。
うちは、拓真さんのことが好きやったんやな。
夜は知八が行ってみたいと言ったレストランで食べることにした。
「蓮十郎兄さんの舞台、良かったな。あんなに歌うまいとは知らんかったわあ」
知八はもりもりとご飯を食べながら言った。
「ええ、そうですね」
綾之助はうっすら笑みを浮かべて答えた。なんだかとても疲れていた。
「ほんまに、ええ舞台でした」
「どうしたん、綾。元気ないね」
「いえ。そんなことないですよ」
「今日、楽しくなかった?」
そう言いながら、知八は上目遣いで綾之助の様子を伺った。
「いえ、すっごく楽しかったですよ!」
慌てて綾之助は言った。
「ほんまか?」
「ええ」
「じゃあ、拓真さんのことか?」
「……」
綾之助はとっさに否定しようとしたが、知八の真剣な顔を見て嘘をつけなくなってしまった。
「なあ、綾。やっぱり、綾之助は拓真さんのことが好きなん?」
「それは、」
綾之助はことばに詰まった。
「別に隠さんでええよ。綾の気持ちも分からんではないし。あの人、ちょっと変わったはるけど、ええ人やと思うよ。せやけど、僕は嫌いや」
「え、なんでですか」
「綾にそんな顔させるから。だって、僕は、綾之助のこと好きやから」
どういう意味やろう、と一瞬綾之助は戸惑った。ただ単純に綾之助のことを好ましく思っている、という意味にも取れる。しかしこの文脈ではまるで……
「綾は僕のこと子供と思てるから、そんなこと、思いもせんかったやろ。でも、僕はずっと綾のこと、好きやったんや」
「それって、」
「綾。僕やったらあかんか? 僕は絶対、綾にそんな顔させへん。だから、」
綾之助は自分が泣いているのに気づいた。なぜ泣いているのか、自分でもよくは分からなかったけれど。
「綾。僕のものになってくれ」
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