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3『過去の聖戦』

3 エピローグ

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ゼノ

あれから半年。

久しぶりに休みが出来て、悩んだ結果天地谷を訪れた。

相変わらず天地谷は綺麗に縦に分かれている。タイタスの一撃で思いっきり割られたからな。

空を飛んでいると、上からジェガロの姿が見えた。

「相変わらず人の姿が大好きだな」

「ゼノか」

声をかけながら、傍に降りる。竜のジェガロも今は殆どの時間を人化して過ごしているらしい。

「久しいな。どうじゃ、復興の方は」

「元々主要だった都市はほぼ全壊だからな。魔法があるとはいえ人族だし、完全に元通りっていうのはもう一年かかるかもなぁ」

「じゃが、人族用に作ってもらった都市も、悪魔族が置いていった都市もある。住むには困るまい」

「まぁな」

天地谷の頂上付近から、世界を見渡す。

見える全てが、今は人族の大地だ。

天使族と悪魔族がこの世界から姿を消し、天使族に匿われていた人族も、悪魔族の奴隷だった人族も混乱するかに思われた。

だが、意外にも全員が事情を知っていた。世界が分かたれ、天界と魔界が生まれたこと。きっと《観測者》が最後の最後に伝えてくれたのだろう。理解も納得も出来なくても、天使族と悪魔族がいない事実だけは変わらない。

お陰で随分対応が楽だった。混乱もなく、戦争の終結や人族の解放に誰もが喜んでいた。

その後は、少しずつ人族だけの世界を創り上げていった。生活水準の向上や、食料の確保、商法の決定などやることは沢山あったが、ゆっくりと世界を変えていった。

「にしてもジェガロ、天使族と悪魔族の話は今禁句だからな」

「今はお主しかおらんじゃろう」

「そうだけどさ」

変わったことの一つとして、天使族と悪魔族の扱いだ。一部で二種族の存在を無かったことにしようという動きが生まれた。もうこの世界は人族のものなのだと。奴隷扱いした奴らの存在を消せと。

意外とその風潮が広まっていった。これから生まれてくる子供達にわざわざ二種族の存在を伝えて怯えさせるのもどうかと。人族が奴隷だったことを告げて威厳を無くすのもどうかと。

威厳って何だよって感じだけど。

正直、これについてはかなり迷った。

無かったことになんてしたくなかった。その中で生きてきた生命を忘れたくなかった。

俺と同じ意見の人々もいたが、二極化による対立が激化しそうになったところで箝口令を敷くことにした。思ったよりも反二種族側が武力に出ようとしたのだ。

こちらの意見を押し付けるともっと激化しかねない。俺達は人族同士で争いたいわけでもないし、ここで無理に意見を通して誰かが怪我をしても意味はない。

結局、天使族と悪魔族の存在は禁句となり誰もが口を噤むようになった。

反二種族側の人々は、それでも俺達のような人々とはやっていけないと大陸の最奥に都市を築いている。後に三王都と呼ばれる場所である。

たとえ、種族が一つになっても争いは起きるんだと思わされた。三種族の共生よりも、まずは人族の統制を取らなくてはならない。

理想が遠のくように感じた。それでも、遠回りでも一歩ずつ頑張らなくちゃ。

勝手にため息が出て来た。ジェガロが笑う。

「はははっ、大変そうじゃのう」

「そりゃそうだ。休みもあったもんじゃない」

「知っておるぞ、一国の王なんじゃって?」

「そうなんだよ。俺ってそんな柄じゃねえのにな」

呆れたように返しておく。

俺は、一国の王になっていた。

人族だらけになったこの世界で、誰かが指揮を執る必要があったからだ。もちろん俺だけが王になったわけじゃないけれど、元々人族の代表として天使族と接していたし、戦争も作戦とか考えていたしで、周りから推しに推されて王になった。

人族の王制の誕生である。

いや、本当に俺が王って何だって感じで。何かこうこっ恥ずかしい気もするけれど。

その分、この人族の世界に尽力を注ぐことが出来ている。この立場だからこそ、出来ることもあるようだ。

でも、俺がうちの王国の初代王かよ。それに何で俺の姓を取ってレイデンフォート王国なんだ。

やっぱりしっくりこない。

「そういや、あのちっこいのは何処にいった?」

「ん、ああ、シロな。シロならこの世界の何処かか、或いはあっち側じゃねえかな」

「……そんなさっぱりした関係じゃったか?」

「アイツにも俺以外に追いかけるもんが出来たんだよ」

シロとは、四か月も逢っていない。

……もうそんなに経つか。あいつ、連絡寄越すって言ってたのにくれねぇし。

人族だけの世界になって二か月経過した頃。

シロは言った。

「私、消えた皆の事探しに行くわ」

突然のことに眼を見開いた。それも彼女は一人で行くという。

ついていくと言っても、

「こんな状態の世界を置いてけぼりにするつもり?」

と普通に怒られた。いや、そりゃそうだけど。

シロとしては、《観測者》に言われた消えたソウルス族の所在が気になるのだろう。

とはいえ、次元の狭間って何処だよ。

探す当てはあるのかと聞いたら、

「知らないわ。適当に世界を歩き回って方法を探してみる」

なんて、適当なことを言っていた。

「ついでに、道中復興も手伝ってくるわよ」

そりゃシロの膂力なら復興もぐんぐん進むだろうけど。

何だか寂しい想いだった。

てっきり、シロはずっと傍にいるもんだと思っていたから。

そんな想いが顔に出ていたのか、シロが笑う。

「馬鹿ね、ちゃんと帰ってくるわ! 途中連絡もするし! てか、この間に私の存在の偉大さを思い知ることね!!」

そうして元気にシロは去っていった。ちなみに連絡は全く来ない。

不思議とシロの事だから他の男にどうとかそんなことは思わないけれど、元気にやっているだろうか。まぁアイツの事だ、元気にやっているだろう。

にしても、魔力の無い癖にどうやって連絡を取る予定なんだろうか。

「それで、異変は特にないか?」

振り向きながら尋ねる。

「ん? うむ、何も変わらん」

「悪いな、暇だろ?」

「構わん、頼ってもらってのも悪くない」

ジェガロの言い方に笑ってしまう。

俺達の視線の先、そこには巨大な二つの扉があった。一つには太陽の紋様が、もう片方には月の紋様が描かれている。

これは、天界と魔界へと通じる扉だ。

《観測者》は俺達の力で世界を繋ぐ道を作ることが出来ると言っていた。

ただ、何でもそれぞれの世界から全力で魔力を注ぐことで無理矢理次元を繋げる荒業だったらしい。滅茶苦茶疲れること疲れること。

沢山の力を借りて漸く開けられるって、相当至難の業だよな。

意外だったのは、ベグリフもしっかり協力してくれたこと。魔界側からちゃんと魔力を注いでくれていた。まぁ、魔界側はどうやらアイツ一人だったようで、こちらは増員する必要があったが。

繋がった道の先で、ベグリフは言った。

「お前を殺すのは、俺だ」

律義にどうも。

この世界に興味がないと言っていたベグリフだが、どうやら、しっかり俺という存在が興味になったらしい。

どうせ、それ以外にも理由があるんだろうとも思う。

ベグリフはそもそも自分が以前にいた別次元とやらへ行こうとしているようだ。つまり、この次元を繋げる荒業にも興味があったのだろう。以前ベグリフは別次元へ行く方法、つまりこの次元と別次元を繋げる方法を掴めていないと言っていた。その助力になってるのかもしれないな。

と言っても、《観測者》は三世界間の次元距離を縮めたと言っていた。それでこんなに魔力を込めてやっとなんだから、次元距離とやらが長い場合は殆ど不可能なのかもしれない。

「ベグリフ!」

繋いだ扉を閉じる前に、ベグリフへ叫んだ。

「お前のやったことは許さない。でも、絶対いずれぶっ倒して俺が悪かったですって謝らせてやるからな!」

「ふっ、精々足掻くんだな」

そして、扉が閉じた。

基本的に魔界間の行き来は禁止にしている。そんなほいほい開けられても困るし。

それに、あいつにもやらなきゃならないことがあるらしい。

「お前達が手を出さん限り、俺達が侵攻することはないだろう」

ベグリフはそう言っていた。俺達から手を出すことなんてあり得ないし、奴がしょうもない嘘をつくとも思えない。

だが、扉が閉じる寸前に奴がニヤリと笑ったような気がした。

本当に気の抜けない相手だ。

ジェガロには今、万が一にも開かないようにこの扉を監視してもらっているのだった。

「んじゃ、これからも頼むな」

「ああ」

さて、扉の様子も確認したところで戻ろうかと思った時。

「ゼノ!」

呼ばれて背後を見る。

「こんなところにいたんですねっ」

「エイラ」

宙を風の絨毯に乗ってエイラがやってきた。

エイラがこの世界で漆黒の翼を広げることはない。

エイラは魔力を押さえ人族のように振る舞って生活しているのだ。

「もう、ゼノの事を皆が探しまくってますよ」

「え、あれ俺今日は休み貰ってんだけど――」

「聞いてません。それにしても遠出し過ぎです! もっと王になった自覚を持ってください」

「お、おう、何だか悪い」

「さぁ乗って! 早く行きますよ!」

「ああ、ジェガロ! またな!」

「忙しそうで何よりじゃ」

全然何よりじゃないよ。

急かされて、風の絨毯に乗る。すぐにエイラがスピードを上げてくれた。

彼女の後姿を見つめる。

世界を繋ぐ扉を作った数日後に、エイラは俺の前に姿を見せた。

突然俺の元へ訪ねるから、驚いて持っていた書類は全て落として混ぜてしまったんだ。

長いこと姿を見せないから。本当に死んだと思っていた。一応姿を探してもいなかったから死んだと思っていた。

けれど、フィグルが生かしてくれたのだと彼女は泣きながら言った。

「私こそ救ってもらってばっかりでした! 私だって、大好きだったんです!」

「エイラ……」

わんわんと泣く彼女を、俺は抱きしめるしかなかった。

どうやらつい先日目が覚めたらしく、人気のない場所に寝そべっていたらしい。これも《観測者》の仕業だろうか。

というか、悪魔族は全て魔界に行くはずなんだが。エイラの立場を考慮してくれたのかもしれない。

エイラの隣で、フィグルは眠るように息を引き取っていた。穏やかな表情で優しい笑みを浮かべていたんだそうな。

エイラが彼女を埋めたという場所まで行って、皆で手を合わせた。

《観測者》の奴がもっと早く時を止めてくれたらとか一瞬脳裏をよぎるけれど、これは我が儘だ。そもそもあのまま行けばこの世界が終わっていたのだから。

それに、《観測者》も干渉するには覚悟が必要だったのだろう。最後まで悩んだ末に、俺達の世界を終わらせたくないと干渉してくれたのだ。

《観測者》、ありがとう。

お陰で世界はまだ続いている。まだ未来は続いている。

フィグル、今までありがとう。

お陰でベグリフの力を封印できた。あれがなきゃ、俺達はそもそもベグリフに勝つことも出来ず、たとえ《観測者》が同じ条件を述べたとしてもベグリフは世界の創造を受け入れなかっただろう。

「ゼノ」

隣で涙を流しながら祈るエイラが、声をかけてくる。

「何があっても、どんなに遠回りをしても理想を叶えましょう」

「……ああ、そうだな」

フィグルやケレア。

今まで犠牲になってきた、そして理想を願ってくれた生命の分も俺達は前を見据えて歩き続けなければならない。

もう、止まることは出来ない。

絶対、叶えるからな。

風の絨毯が更に風を切り、エイラの黒髪が靡く。

……ふむ。

何故だか、無性にその頭を撫でたくなって手を伸ばした。

「ちょっ、な、乙女の頭に何してるんですか!?」

「いや、何かな。いつも傍で助けてくれてありがとうって思って」

戻ってきてくれてから、エイラは俺をずっと傍で支えてくれた。元々四魔将だった頃に慣れていたのか、エイラのお陰で王としての公務も復興もどんどん進んでいる。

「にしても急過ぎですよっ、もう!」

パッとエイラが傍から離れ、撫でられた髪を整える。

髪から覗いた耳が赤かった。

その様子に笑みが零れた。

……あ。そういえば。

「というか、エイラ」

「もう、何ですかっ」

「いや、えーっと、忙しく忘れてたけどさ、んーと戦争前の、あの告白って……」

そう告げると、エイラの顔全てが真っ赤になった気がした。

ベグリフの元へ行く前に、エイラから大好きだって言ってもらった。

今思えば、あの返事を全くしていない気がする。

「ばっ、なっ、あれは、あれですよ! 告白でも言わなきゃゼノはベグリフの元へ行ってしまいそうだなって思ったから出ただけで! 他意はありません!」

「そ、そうだったのか……」

「そうです! 私がゼノの事を好きだなんて、あり得ないじゃないですか!」

「お、おう……」

凄い勢いで言われ、こちらも頷かざるを得ない。

でも、そっか。

安心もするけれど、そんな言わなくてもとは思う。

「俺は、エイラのこと好きだけどなー」

「っ、あーはいはい、私もゼノの事が好きですよー」

彼女の棒読みに笑ってしまう。

気持ち込めろよと言っても、そんなものはありませんなんて言われて。

でもさ、エイラ。

確かに恋愛の意味じゃないけどさ。

ずっと一緒にいてくれて、本当に嬉しいんだ。

 

しっかり、大好きだぞ。

 

エイラに連れられて、漸く自室に戻ってくる。

ここは元々悪魔領にあった都市で、悪魔領の都市は全くと言っていいほど綺麗なままなので使わせてもらっていた。つまり、ここがレイデンフォート王国だ。しっかり立派な城まである。ここは元々誰の城なんだろうな。

後に、元々エイラのものであることが明らかになるが。

自室に戻ると、

「どこに行ってたんですかー!」

そんな怒っているのに可愛らしい声が飛んできた。

慌てて謝る。てか、どうやら俺の代わりに公務までやってくれてるみたいで。

全力で謝り倒す!

「セラ、迷惑かけて悪い! この通りだ」

「もー!」

どっさり書類の乗った机で頬を膨らませるセラ。その仕草も可愛いけれど、今は兎に角謝らなければ。

「ゼノが居ない間、セラ様が対応してくださってたんですよ」

「いや、本当に悪いっ。しっかり休みだと思ったんだけどさ」

「私だって休むつもりで来たんです! それなのにいつの間にか書類に囲まれてましたー!」

「ご、ごめんって」

「それでは、ごゆっくり怒られてくださーい」

そう言ってエイラが居なくなる。

あんにゃろう……。

すぐにセラの元へ向かい、ありがとうと言いながら頭を撫でる。

依然、プイっと頬を膨らませて顔を逸らしたままだ。

……何か子供みたいだな。

「後は俺がやるから。本当にありがとう」

「どういたしましてー!」

投げやりに言葉が返ってくる。それに苦笑しつつ椅子からお姫様抱っこの要領でセラを持ち上げた。怒っている割にはしっかり首に両手を回してくる。鼻腔を甘い香りがくすぐった。

どうやら天界の方での仕事で参っているらしい。幼児退行している気がしなくもない。

天界でも、セラはハート家の三女として多くの仕事に携わっていた。

そもそも天使族は急に世界が変わり、当然の如く混乱したことだろう。地形や天候など何もかもが違うのだ。

それをハート家の三姉妹がどうにか混乱を沈めたらしい。今では、三人が先頭に立って統治しているようだ。幸い、家屋等は用意してあったみたいで、上手く利用しながら天界への理解度を広げているようだ。

アイのような女王を夢見て。

 

アイは、死んだ。

 

時が止まった時、シノやエクセロなど他の面々はまだどうにか命を繋いでいたが、アイは既に致命傷を受けていた。

庇った人族に背後から刺されたのだという。

《魔魂の儀式》によって洗脳された人族を、アイは助けたのだろう。そして、その人族は操られるがままにアイを刺した。心臓を斬り付けるような形で胸を貫いたそうだ。

天界に強制転移した後に、セラが駆け付けた時にはもう遅く、

「大好き、よ、あなた達……」

そう言って、アイは息を引き取った。

元女王が人族に殺されたということで、当然天使族の中では人族への反感がかなり広がった。また他の都市においても《魔魂の儀式》に操られた人族が戦況を搔き乱していたらしく、余計に人族は糾弾される対象にもなっていた。

それでも、今は落ち着いているという。

セラ達三姉妹が、アイの娘達が力強く人族を擁護したからである。

一番アイに近い彼女達の言葉は、何よりも重く、そして優しかった。

アイの死後、三姉妹は母親の死を乗り越えて天界の統治を始めた。人族について優しく語りながらも、天使族に救いの手を差し伸べていった。

その姿に天使族は心を突き動かされたのだ。

今では、人界と違って争いの種もなく良くやっている、らしい。

流石あんたの娘達だ。

そう思わざるを得ない。

どうやら今日は久々の休みに天界から扉を通ってきて、俺へ会いに来てくれたらしい。天界との行き来は魔界程厳しくはなく、ある程度の身分であれば行き来可能だった。今はシノとエクセロが頑張っているのだろう。

にしても、さっきまでいたんだけどな。入れ違いだったか。

「わざわざ俺に会いに来てくれたんだろ?」

「……まぁ、ゼノも忙しいのは分かってます。でも、最近少し構ってくれませんよね」

口を尖らして、呟くようにセラが言う。

本当に、可愛いやつだな。

「この後も残りの公務をやるのでしょう。私はお邪魔ですよね」

「んなわけないだろ。言っただろ、休みはちゃんと取ってたんだって。少し情報が食い違ったというか、俺が少しズボラだっただけで。急な奴はセラが代わりに対応してくれたみたいだし、今すぐしなきゃいけないことはもうないよ」

そう言って、セラをベッドに下ろす。ベッドに身を預ける彼女の美しい髪に手を触れた。

「事務作業もやってくれていたみたいだしな、セラにはうんとお礼しないと」

「それなら、ギュッとしてください」

ねだるように、セラが俺へ両手を差し出してくる。

 

その左手薬指には、俺と同じ指輪がしてある。

 

「今日は甘えん坊だなぁ」

そう言いながら、ゆっくりと被さるようにセラを抱きしめる。彼女の体温が伝わる。女性らしい柔らかい身体はどれだけ触れても飽きる気はしない。

「これだけでいいのか?」

「……キス、してください」

顔を上げると、セラはもう大きな瞳を潤ませていた。頬も朱色に染まっている。そんな眼で見られて、嫌だとは言えない。

そもそも俺がしたくて尋ねたんだから。

「お安い御用で」

ゆっくりとセラへ顔を近づけていく。

俺とセラの結婚には反対意見が幾つも上がっていた。

セラが天使族であるというのは誰もが知っていて、人界では箝口令に反するだとか天使族が人界を出入りするのかとか。天界の方でも人族はやめておけなんて一悶着もあったらしい。

でも、こればかりは譲る気はなかった。

たとえ誰になんと言われようと、俺はセラと結婚する。そう固く誓っていた。

セラの事を愛しているのは当たり前だ。ただ理由はそれだけじゃなくて。

セラとの結婚が、理想への再出発になる気がした。

人界と天界を繋げて、いつか魔界も繋げられるような。そんな最初の一歩に思えた。

そんな想いが伝わったのか、反対以上に祝福する声が多く寄せられたのだ。

これまで関わった人族の皆や、天使族からも沢山のおめでとうを貰った。

嬉しかった。

これまでの出来事は、決して無駄なんかじゃなかった。

たとえ世界は分かたれても、紡いできた想いは繋がるんだ。

いつか、反対意見も全てが繋がって、悪魔族とも繋がれるように。

「セラ、大好きだ」

「私も大好きです、ゼノ」

 

俺達が、理想への架け橋となれるように。

 

そして、俺達は唇を重ねた。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※



全てをカイとイデアに語り終える。

どんな思いで二人は話を聞いているのだろう。

未だに理想を叶えられていない俺を、二人は情けないと言うだろうか。

視線を移す。

セラもエイラも何だか涙ぐんでいた。

何で泣きそうになるかな。

二人の様子を見て苦笑する。そんな俺の背をシロが撫でた。

おかしいな、俺も泣きそうだ。歳か?

本当にこれまで色んな事があって。沢山の嬉しいこと。沢山の悲しいこと。その全てを次の世代へ伝えている。

俺の息子に伝えているんだ。

それだけで、不思議な充実感と感動に包まれた。

結局、また悪魔族と戦争になってしまう。

あの時、ベグリフはエイラが人界にいることを気付いていたのだろう。いずれはエイラの存在を利用して難癖つけようとしていたのだろう。

また、同じ結末を迎えてしまうのかもしれない。《観測者》の想いは踏みにじってしまうのかもしれない。

それでも、俺は違う結末になると確信している。

目の前の存在を見て、そう確信している。

俺に似て無鉄砲で、馬鹿で。

魔力は全く持たないけれど。

 

一番お前は俺に似ているよ。

 

気付けば、皆がお前の背を追って走っている。

俺だって、追いかけてしまいそうになるほどに。

だから、絶対に大丈夫。

 

 

 

俺の想いは、理想は今ちゃんと目の前にある。

 

 

 

全て、ちゃんと受け継がれている。

 

 

 

3『過去の聖戦』END

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