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2『天使と悪魔』
2 第三章第二十六話「イデアの苦悩」
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カイ達がレイデンフォート王国へ帰った後、悪魔族との戦争が近々差し迫っているという旨は、ゼノから人界全域に伝えられた。
箝口令を敷いていたため悪魔族や天使族について何も知らない人々もいる。そう言う人々のためにゼノは昔人族が悪魔族や天使族の奴隷だったところから全てを伝えた。
もちろん悪魔族や天使族の存在を知らなかった人々も知っていた人々も今回のゼノの話には耳を疑った。近々戦争が迫っているという事実は人々に多くの不安を与えていたのだった。
そして数日経って今日は、悪魔族との戦争へ向けて人界全ての王達が話し合う日であった。
五大国と四列島と三王都はそれぞれ仲が悪いが、もはや人同士で争っている場合ではないのである。
話し合いは魔法で行われることになっている。本当はヴァリウスの転移で全ての王を一堂に会させたかったのだが、特に四列島と三王都の王がヴァリウスを警戒して拒んだため、このような形になっている。
カイはゼノと共に会議に出席。本当はカイの必要性は然程ないのだが、カイが自ら出席したいと申し出ていた。
それに合わせてエイラもまた出席を申し出ていたが、ここはゼノとカイの両方から許しが出なかった。エイラは悪魔族との戦争の原因が自分にありどんな誹謗中傷も浴びるつもりだったのだが、カイとゼノはわざわざそんなものは浴びなくていいと断固拒否した。
そんなエイラは唇を尖らせながら、イデアと共にとある場所を訪れていた。
エイラ:
「全く、信じられますかイデア様。カイ様なんて私に『なんだよ、おまえ罵倒されたいとかドMかよ』って言うんですよ! どの口が言いますかって感じですよ」
イデア:
「ふふふ、カイなりの優しさなのだと思いますよ。素直に受け取っておいて下さい」
イデアが苦笑しながらそう返す。
イデア達が訪れているのは、イデアの父親ルーシェンの住まう部屋であった。
ルーシェン達フィールスの王族は、フィールス王国が復興中の今レイデンフォート城に滞在していた。イデアとエイラはとある用事で今ルーシェンとシャルの一室の目の前まで来ていた。
扉を目の前にして、イデアが深呼吸をする。イデアは不安と緊張から少し震えていた。
エイラ:
「イデア様……」
心配そうにエイラがイデアを見つめる。
エイラの視線に気付いたイデアは笑みを作って返した。
イデア:
「大丈夫です、覚悟はしてきたつもりですから」
そして、イデアが扉をノックする。すると中から声が聞こえてきた。
???:
「ん、誰だ」
イデア:
「わたしです、お父様。入っても宜しいでしょうか」
イデアだと分かった途端、中の声の大きさが一気に変わる。
???:
「おお! イデアか! さぁ入って入って!」
イデア:
「失礼します」
呼ばれてからイデアとエイラが中に入る。部屋の中にはベッドの上にルーシェンが、そしてそのベッドの脇にシャルが座っていた。
ルーシェンはイデアの登場に顔を輝かせたが、エイラの姿を見て少し残念そうな表情を浮かべた。久し振りに親子水入らずの時間が出来るのかと期待していたのである。
そんなルーシェンの様子に気付いたエイラがニッコリと笑う。
エイラ:
「すみません、ルーシェン様。残念ながら今日はカイ様ではなく私が一緒ですので」
ルーシェン:
「うーむ、今日は会議の方でいないと思ったから期待していたのだがな」
シャル:
「こら、ルーシェン」
シャルがルーシェンをたしなめる。ルーシェンは咳ばらいをして、イデアへと声をかけた。
ルーシェン:
「イデア、どうした? 何か用事があるのか?」
そう問われたイデアだったが、少し緊張しており上手く言葉が出てこない。
それが分かったエイラは閑話を挟むことにした。
エイラ:
「そう言えばルーシェン様、お風邪の方はもうよろしいのですか?」
ルーシェン:
「ん? ああ、もう随分良くなった。一時は死ぬかと思ったがな」
シャル:
「死因がお湯と間違って冷水を浴びたからなんて国民には死んでも言えませんからね。死んでもらっては困ります」
風邪を引いた理由にエイラが苦笑する。聞いてはいたが随分な理由であった。
エイラ:
「レン様方は今日もフィールス王国ですか?」
シャル:
「ええ、今日は人界の王達による世界を左右しかねない会議がありますし、今日くらいはいいんじゃないかとは言ったのですが、いち早く復興がしたいのだと。誇らしいですね、風邪を引く父親とは違って」
ルーシェン:
「うっ」
バツが悪そうにルーシェンがそっぽを向く。
そして、その会話を断ち切るべくルーシェンがイデアへと再び声をかけた。
ルーシェン:
「そ、それでイデア、黙ってばかりだがどうした?」
イデア:
「あ、えっと……」
ルーシェン:
「まさかお父さんの風邪がうつったのか!?」
イデア:
「いえ、違います。それだったらここへ来ませんよ」
苦笑してイデアが返す。そしてイデアは大きく深呼吸をした。
ここへはルーシェンとシャルにとある質問がしたくて訪れていた。しかし、その質問というのが少し厄介で、聞くこと自体少し二人に申し訳なく、また万が一予期している答えが返ってきた場合、イデアは立ち直れそうにもなかった。
それでも、イデアが遂に勇気を振り絞って口を開いた。
イデア:
「お、お父様、お母様。これからわたしがする質問は、決して二人のことを疑っているわけでも信じていないわけでもありません。それでも、はっきりさせなければならないことがあるのです」
イデアのその真剣な様子に、ルーシェンとシャルが少し戸惑う。だが、イデアの緊張が伝わったのか、二人共気を引き締めて臨んだ。
ルーシェン:
「何だ」
イデア:
「その……」
イデアが更にもう一度深呼吸を行う。
そして、告げた。
イデア:
「わたしは、本当にお父様とお母様の娘なのでしょうか」
イデアの質問にルーシェンとシャルの両名が目を丸くする。
エイラはその様子を緊張しながら見つめていた。
イデアの質問、それは魔界でカイとイデアの身に起きた魔魂の儀式が起因していた。
魔魂の儀式とは悪魔族の魔力を人族に譲渡し、人族を悪魔族に転生されるものである。それがカイとイデアの間で行われ、カイは悪魔の手足と左目を手に入れたのである。つまり、イデアは悪魔族の魔力を有していたということになる。
しかし、フィールスの者達は魔力など本来持っていない。そして、イデアはちゃんとセインを生成することが出来ている。つまり、フィールスの血が混じっているのは確かなのである。
だが、それでも万が一の可能性があった。その可能性を消したくてイデアは質問したのである。
どんな答えが返ってくるのか、緊張した表情で答えを待つイデア。
ルーシェンとシャルは顔を見合わせて、次の瞬間破顔した。
ルーシェン:
「何言ってるんだ、当たり前だろう」
シャル:
「あなたはちゃんと、私がお腹を痛めて産んだ子よ」
イデア:
「……っ!」
そう聞かされた瞬間、緊張の糸が切れてイデアがへなへなと座り込んでいく。エイラが慌てて抱きとめてあげた。
エイラ:
「イデア様、大丈夫ですか?」
イデア:
「は、はい……」
そう言うイデアの目元には涙が。イデアは安堵から涙を零していた。
そんなイデアの様子を見てルーシェンが笑う。
ルーシェン:
「当然だろう。どうしたんだ、急にそんなことを気にして」
シャル:
「……メリルのことがあるからかしら?」
ルーシェン:
「うっ」
ルーシェンの心臓がドクンと跳ねる。
メリルはルーシェンと侍女との間に出来た子供である。そこを突かれるのはかなりの痛手であった。
ルーシェン:
「メ、メリルのことは本当にすまないと思っている! ただ、イデアは本当に私とシャルの子供だ! 本当だ!」
ルーシェンの言葉にイデアが微笑む。目尻の涙を拭っていた。
イデア:
「はい、はい、分かりました。良かったです、ちゃんとお父様とお母様の子供で」
そう言ってイデアが立ち上がる。シャルは不思議そうにイデアを見つめていた。
シャル:
「本当にどうしたのかしら? 何かあったの?」
そう問われたイデアだったが、どう返そうか迷う。
そして、
イデア:
「いえ、ちょっと気になっただけです」
そう返したのだった。
魔魂の儀式のことはまだ何も分かっておらず、現時点で不安を煽るような知らせる必要はないと判断したのである。
イデアはお辞儀をした。
イデア:
「教えて下さってありがとうございます。それでは私はこれで」
エイラ:
「失礼いたします」
ルーシェン:
「あ、ああ」
エイラも一緒にお辞儀をして、当惑するルーシェンとシャルをおいて部屋を出た。
部屋を出ると、イデアが大きく息を吐いていた。
イデア:
「本当に、良かったです」
エイラ:
「そうですね」
微笑むエイラ。
だが、代わりに謎は深まるばかりであった。
歩きながらイデアが首を傾げる。
イデア:
「では、カイの手足を悪魔にしたあの魔力はどこから出たのでしょうか」
エイラ:
「そうですね、本当にイデア様の足元に魔法陣が?」
魔魂の儀式の仕組みをエイラは知っており、そう尋ねる。魔魂の儀式の際は力を授ける悪魔と人族の足元に同じ色の魔法陣が展開されるのである。
イデアはその時の様子を思い返してみる。すると、確かにカイとイデアの足元には紫色の魔法陣が展開されていた。
イデア:
「はい、それは確かです」
エイラ:
「そうですか……」
エイラが何やら思案する。それは、カイから感じる魔力についてだった。
エイラ:
「……カイ様から感じるあの魔力、何か懐かしいような感じがするんですよね」
イデア:
「そうなんですか?」
エイラ:
「はい、ですが今はどう懐かしいのか思い出せません。思い出せたらイデア様に言いますね。もしかしたらイデア様に関わる事かもしれませんし」
イデア:
「はい、お願いします」
すると、イデアが少し不安げな表情で俯いた。
それに気付いたエイラが声をかける。
エイラ:
「イデア様、どうかなさいました?」
イデアは顔を上げることなく呟く。
イデア:
「少し、自分が怖いんです。得体の知れない何かが自分にあるみたいで……」
エイラ:
「イデア様……」
エイラが心配そうにイデアを見つめる。
イデアは自身の得体の知れなさが怖くて仕様が無かった。自分自身のことなのに何も分からない恐怖。
そして、
イデア:
「カイは、わたしがたとえどんな存在でも好きでいてくれるでしょうか……」
その得体の知れない何かによってカイが離れていってしまうのではないかという恐怖。その恐怖が一番強かった。
恐怖に少し震えるイデア。
その手をエイラは遠慮がちに少し握った。
イデア:
「エイラさん……」
見つめてくるイデアに、エイラは優しく微笑んだ。
エイラ:
「カイ様なら大丈夫ですよ。だって、私が悪魔族だって知っても一切態度を変えないんですから。カイ様にとって何者なのかなんてちっぽけなことなんですよ」
エイラがギュッとイデアの小さな手を握りしめる。
イデアは、エイラの手の温かさに浸りながら、
イデア:
「そう、ですね。カイですものね」
カイを信じ、エイラへ笑顔を返したのだった。
箝口令を敷いていたため悪魔族や天使族について何も知らない人々もいる。そう言う人々のためにゼノは昔人族が悪魔族や天使族の奴隷だったところから全てを伝えた。
もちろん悪魔族や天使族の存在を知らなかった人々も知っていた人々も今回のゼノの話には耳を疑った。近々戦争が迫っているという事実は人々に多くの不安を与えていたのだった。
そして数日経って今日は、悪魔族との戦争へ向けて人界全ての王達が話し合う日であった。
五大国と四列島と三王都はそれぞれ仲が悪いが、もはや人同士で争っている場合ではないのである。
話し合いは魔法で行われることになっている。本当はヴァリウスの転移で全ての王を一堂に会させたかったのだが、特に四列島と三王都の王がヴァリウスを警戒して拒んだため、このような形になっている。
カイはゼノと共に会議に出席。本当はカイの必要性は然程ないのだが、カイが自ら出席したいと申し出ていた。
それに合わせてエイラもまた出席を申し出ていたが、ここはゼノとカイの両方から許しが出なかった。エイラは悪魔族との戦争の原因が自分にありどんな誹謗中傷も浴びるつもりだったのだが、カイとゼノはわざわざそんなものは浴びなくていいと断固拒否した。
そんなエイラは唇を尖らせながら、イデアと共にとある場所を訪れていた。
エイラ:
「全く、信じられますかイデア様。カイ様なんて私に『なんだよ、おまえ罵倒されたいとかドMかよ』って言うんですよ! どの口が言いますかって感じですよ」
イデア:
「ふふふ、カイなりの優しさなのだと思いますよ。素直に受け取っておいて下さい」
イデアが苦笑しながらそう返す。
イデア達が訪れているのは、イデアの父親ルーシェンの住まう部屋であった。
ルーシェン達フィールスの王族は、フィールス王国が復興中の今レイデンフォート城に滞在していた。イデアとエイラはとある用事で今ルーシェンとシャルの一室の目の前まで来ていた。
扉を目の前にして、イデアが深呼吸をする。イデアは不安と緊張から少し震えていた。
エイラ:
「イデア様……」
心配そうにエイラがイデアを見つめる。
エイラの視線に気付いたイデアは笑みを作って返した。
イデア:
「大丈夫です、覚悟はしてきたつもりですから」
そして、イデアが扉をノックする。すると中から声が聞こえてきた。
???:
「ん、誰だ」
イデア:
「わたしです、お父様。入っても宜しいでしょうか」
イデアだと分かった途端、中の声の大きさが一気に変わる。
???:
「おお! イデアか! さぁ入って入って!」
イデア:
「失礼します」
呼ばれてからイデアとエイラが中に入る。部屋の中にはベッドの上にルーシェンが、そしてそのベッドの脇にシャルが座っていた。
ルーシェンはイデアの登場に顔を輝かせたが、エイラの姿を見て少し残念そうな表情を浮かべた。久し振りに親子水入らずの時間が出来るのかと期待していたのである。
そんなルーシェンの様子に気付いたエイラがニッコリと笑う。
エイラ:
「すみません、ルーシェン様。残念ながら今日はカイ様ではなく私が一緒ですので」
ルーシェン:
「うーむ、今日は会議の方でいないと思ったから期待していたのだがな」
シャル:
「こら、ルーシェン」
シャルがルーシェンをたしなめる。ルーシェンは咳ばらいをして、イデアへと声をかけた。
ルーシェン:
「イデア、どうした? 何か用事があるのか?」
そう問われたイデアだったが、少し緊張しており上手く言葉が出てこない。
それが分かったエイラは閑話を挟むことにした。
エイラ:
「そう言えばルーシェン様、お風邪の方はもうよろしいのですか?」
ルーシェン:
「ん? ああ、もう随分良くなった。一時は死ぬかと思ったがな」
シャル:
「死因がお湯と間違って冷水を浴びたからなんて国民には死んでも言えませんからね。死んでもらっては困ります」
風邪を引いた理由にエイラが苦笑する。聞いてはいたが随分な理由であった。
エイラ:
「レン様方は今日もフィールス王国ですか?」
シャル:
「ええ、今日は人界の王達による世界を左右しかねない会議がありますし、今日くらいはいいんじゃないかとは言ったのですが、いち早く復興がしたいのだと。誇らしいですね、風邪を引く父親とは違って」
ルーシェン:
「うっ」
バツが悪そうにルーシェンがそっぽを向く。
そして、その会話を断ち切るべくルーシェンがイデアへと再び声をかけた。
ルーシェン:
「そ、それでイデア、黙ってばかりだがどうした?」
イデア:
「あ、えっと……」
ルーシェン:
「まさかお父さんの風邪がうつったのか!?」
イデア:
「いえ、違います。それだったらここへ来ませんよ」
苦笑してイデアが返す。そしてイデアは大きく深呼吸をした。
ここへはルーシェンとシャルにとある質問がしたくて訪れていた。しかし、その質問というのが少し厄介で、聞くこと自体少し二人に申し訳なく、また万が一予期している答えが返ってきた場合、イデアは立ち直れそうにもなかった。
それでも、イデアが遂に勇気を振り絞って口を開いた。
イデア:
「お、お父様、お母様。これからわたしがする質問は、決して二人のことを疑っているわけでも信じていないわけでもありません。それでも、はっきりさせなければならないことがあるのです」
イデアのその真剣な様子に、ルーシェンとシャルが少し戸惑う。だが、イデアの緊張が伝わったのか、二人共気を引き締めて臨んだ。
ルーシェン:
「何だ」
イデア:
「その……」
イデアが更にもう一度深呼吸を行う。
そして、告げた。
イデア:
「わたしは、本当にお父様とお母様の娘なのでしょうか」
イデアの質問にルーシェンとシャルの両名が目を丸くする。
エイラはその様子を緊張しながら見つめていた。
イデアの質問、それは魔界でカイとイデアの身に起きた魔魂の儀式が起因していた。
魔魂の儀式とは悪魔族の魔力を人族に譲渡し、人族を悪魔族に転生されるものである。それがカイとイデアの間で行われ、カイは悪魔の手足と左目を手に入れたのである。つまり、イデアは悪魔族の魔力を有していたということになる。
しかし、フィールスの者達は魔力など本来持っていない。そして、イデアはちゃんとセインを生成することが出来ている。つまり、フィールスの血が混じっているのは確かなのである。
だが、それでも万が一の可能性があった。その可能性を消したくてイデアは質問したのである。
どんな答えが返ってくるのか、緊張した表情で答えを待つイデア。
ルーシェンとシャルは顔を見合わせて、次の瞬間破顔した。
ルーシェン:
「何言ってるんだ、当たり前だろう」
シャル:
「あなたはちゃんと、私がお腹を痛めて産んだ子よ」
イデア:
「……っ!」
そう聞かされた瞬間、緊張の糸が切れてイデアがへなへなと座り込んでいく。エイラが慌てて抱きとめてあげた。
エイラ:
「イデア様、大丈夫ですか?」
イデア:
「は、はい……」
そう言うイデアの目元には涙が。イデアは安堵から涙を零していた。
そんなイデアの様子を見てルーシェンが笑う。
ルーシェン:
「当然だろう。どうしたんだ、急にそんなことを気にして」
シャル:
「……メリルのことがあるからかしら?」
ルーシェン:
「うっ」
ルーシェンの心臓がドクンと跳ねる。
メリルはルーシェンと侍女との間に出来た子供である。そこを突かれるのはかなりの痛手であった。
ルーシェン:
「メ、メリルのことは本当にすまないと思っている! ただ、イデアは本当に私とシャルの子供だ! 本当だ!」
ルーシェンの言葉にイデアが微笑む。目尻の涙を拭っていた。
イデア:
「はい、はい、分かりました。良かったです、ちゃんとお父様とお母様の子供で」
そう言ってイデアが立ち上がる。シャルは不思議そうにイデアを見つめていた。
シャル:
「本当にどうしたのかしら? 何かあったの?」
そう問われたイデアだったが、どう返そうか迷う。
そして、
イデア:
「いえ、ちょっと気になっただけです」
そう返したのだった。
魔魂の儀式のことはまだ何も分かっておらず、現時点で不安を煽るような知らせる必要はないと判断したのである。
イデアはお辞儀をした。
イデア:
「教えて下さってありがとうございます。それでは私はこれで」
エイラ:
「失礼いたします」
ルーシェン:
「あ、ああ」
エイラも一緒にお辞儀をして、当惑するルーシェンとシャルをおいて部屋を出た。
部屋を出ると、イデアが大きく息を吐いていた。
イデア:
「本当に、良かったです」
エイラ:
「そうですね」
微笑むエイラ。
だが、代わりに謎は深まるばかりであった。
歩きながらイデアが首を傾げる。
イデア:
「では、カイの手足を悪魔にしたあの魔力はどこから出たのでしょうか」
エイラ:
「そうですね、本当にイデア様の足元に魔法陣が?」
魔魂の儀式の仕組みをエイラは知っており、そう尋ねる。魔魂の儀式の際は力を授ける悪魔と人族の足元に同じ色の魔法陣が展開されるのである。
イデアはその時の様子を思い返してみる。すると、確かにカイとイデアの足元には紫色の魔法陣が展開されていた。
イデア:
「はい、それは確かです」
エイラ:
「そうですか……」
エイラが何やら思案する。それは、カイから感じる魔力についてだった。
エイラ:
「……カイ様から感じるあの魔力、何か懐かしいような感じがするんですよね」
イデア:
「そうなんですか?」
エイラ:
「はい、ですが今はどう懐かしいのか思い出せません。思い出せたらイデア様に言いますね。もしかしたらイデア様に関わる事かもしれませんし」
イデア:
「はい、お願いします」
すると、イデアが少し不安げな表情で俯いた。
それに気付いたエイラが声をかける。
エイラ:
「イデア様、どうかなさいました?」
イデアは顔を上げることなく呟く。
イデア:
「少し、自分が怖いんです。得体の知れない何かが自分にあるみたいで……」
エイラ:
「イデア様……」
エイラが心配そうにイデアを見つめる。
イデアは自身の得体の知れなさが怖くて仕様が無かった。自分自身のことなのに何も分からない恐怖。
そして、
イデア:
「カイは、わたしがたとえどんな存在でも好きでいてくれるでしょうか……」
その得体の知れない何かによってカイが離れていってしまうのではないかという恐怖。その恐怖が一番強かった。
恐怖に少し震えるイデア。
その手をエイラは遠慮がちに少し握った。
イデア:
「エイラさん……」
見つめてくるイデアに、エイラは優しく微笑んだ。
エイラ:
「カイ様なら大丈夫ですよ。だって、私が悪魔族だって知っても一切態度を変えないんですから。カイ様にとって何者なのかなんてちっぽけなことなんですよ」
エイラがギュッとイデアの小さな手を握りしめる。
イデアは、エイラの手の温かさに浸りながら、
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「そう、ですね。カイですものね」
カイを信じ、エイラへ笑顔を返したのだった。
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